side ナルメア
「……それは、本当ですか?」
「はい。占術師様の話によると、その通りだとか。」
アイリスと椿様がユーステスを出てからすでに7日。
王国に残ってくれている正輝様や間様は、着実に力をつけていかれています。
兵士の話では、もうほとんどの兵士がお二人には敵わず、一部の隊長クラスの兵が訓練にあたっているとのこと。
この国はまだ平和ですが、他の国では魔族に襲われることも増えていると聞きます。
そのため、勇者様達に力をつけてもらい、この国もだいぶ安全になりました。
それなのに……。
「アイリス……。」
妹のアイリスが向かった街、メラーシュはここからそれほど離れていない。
端的に言えば2日もあれば往復できてしまうような距離。
確かに調査を頼んだのは私なので、それに時間がかかるのはわかる。
が、それでもそのことに不安を覚えた私は、城使えの占術師に頼んだのだ。
『アイリスと椿様が無事でいること』を確認をしてほしい、と。
その結果が。
「メラーシュ付近にアイリス達の反応がない。」
悪い予感が的中してしまったことで、慌てそうになる心を必死でおさえ、つぶやきを漏らすのみで済ませる。
ここで私が慌てても、事態はいい方向へ進展しない。
「わかりました。報告ありがとうございます。」
「いえ。それでは失礼します。」
頷いて兵を下げると、私はすぐに兵士の訓練所へ向かった。
事は一刻を争う。
だんだんと、抑えきれなくなってきた気持ちに引っ張られるように、足を急がせた。
「セイッ!ハァッ!!」
「なんの、これしき……!フンッ!!」
訓練所にたどり着いた私の耳に入ってきたのは、そんな音。
どうやら、正輝様と間様がお互いを相手取って、模擬戦をしているよう。
周りにはそれを見学しているのでしょうか、兵士がたくさん集まっています。
「これは、ナルメア様。こんなところにいかがなされた。」
私が姿を現したことに、目ざとく気がついたのか、声をかけられます。
彼の名は、ヴォルド。
岩のような筋肉と、持ち前の鋭さで戦場を縦横無尽に駆け巡っては、国に多大な戦果をもたらしてくださいます。
「ええ、少しお時間いいかしら。」
「はい、もちろんですとも。……おぉい、お前ら。一旦休憩にしよう。」
大声で訓練所の兵士に声をかけると、黙って私についてくるヴォルド。
廊下を進んだ所にある、一つの部屋へと入り、話をする事に。
扉を閉めて、外からの音を閉じる。
「正輝様たちはどんなかんじですか?」
「あのお二人ですかい?すごいもんですよ。もう俺だって敵わないかもしれません。鍛えれば鍛えただけ、伸びていきます。さすがは勇者、といった感じですな。」
「そうですか。それはよかったです。」
言って、少し黙ってしまう。
彼らはこの世界とは別の世界から来ている。
アイリスとともにメラーシュへ向かった椿様も。
そんな二人に、椿様が生きているかどうかわからないと、告げなくてはならない。
「……どうかされたんですかい?気分が悪いようなら人を呼びますが。」
「……いえ、大丈夫です。ありがとう。」
一瞬考えてうつむいてしまったからだろう。
心配したヴォルドがそんな言葉をかけてくれる。
……しっかりしないと。
父……国王が倒れた今、私がこの国を動かしていかなくてはならない。
「今から話す事は他言無用でお願いします。」
「と、いうことは、厄介なことですかい……。」
「先日、メラーシュへと向かったアイリスと椿様の反応が追えなくなりました。」
「……。」
「よって、秘密裏にですが、捜索隊を組織します。その部隊長をあなたに頼んでも?」
ヴォルドが無言で続きを促すので、一息に考えている事を告げる。
秘密裏である理由は二つ。
第一に二人の、「勇者」と「姫」という肩書きの重さ。
たった一人ずつとはいえ、勇者とこの国の姫が同時に行方不明になっている。
この事を国民に伝えるタイミングは見計らった方がいいでしょう。
そして、正輝様と間様の暴走を防ぐため。
仮に元の世界で交流がなかったとしても。
この世界で、3人だけの勇者。
そこには、私たちでは想像もできない考えがあるはずです。
助けに行くと、この国を出ることもあるでしょう。
二人が今、この国から飛び出していってしまうのは良くない。
ガチャッ。
私が依頼し、ヴォルドがその考えに反応する。
その直前。
「その話、本当なのか!」
扉を開いた正輝様が、この部屋に入ってきました。
後ろには間様の姿も見えます。
「お前さんら、急に入ってくるのはマナー違反だぞ。」
「それは謝ります。ですがナルメア姫、椿とアイリス姫が行方不明になったのは本当ですか!」
「……ええ、その通りです。」
ヴォルドが若干的外れな注意をする中、正輝様はまっすぐに私の目を見て話しかけます。
「だったら、俺たちがすぐに助けに行く。街の場所を教えてくれ。」
「……それはなりません。」
「どうして!」
私が想像していた通りの言葉を作る正輝様。
そんな彼に私は首を横に振ります。
「あなた様達は勇者なのです。今ここで、万が一にもあなた達を失うわけにはまいりません。」
「だからこそでしょう!俺たちが行って椿やアイリス様を助ければ……!」
「少し落ち着け、天野正輝。」
言葉と一緒に詰め寄ってくる彼を、後ろから間様が止めに入ります。
「捜索には人の手がいる。俺たちだけで行っても見つけ出すのは無理だ。」
「……人の手がいるんだったら俺たちも一緒に。」
「それこそ、団体行動の邪魔だ。俺たちはそっちの訓練は受けていないからな。」
間様に言われ、言葉を失っていく正輝様。
そのまま押し黙ってしまいました。
「だが、俺も心配である事は変わりない。経過は逐一聞いてもよろしいか?」
「……はい。しっかりとお伝えします。」
くるり、と振り返った間様はそう言いました。
私は今度は、しっかりと頷きます。
二人が出ていかない、とわかったのでこれ以上隠す事もないでしょう。
「……まとまりましたな。では俺は、その役目謹んでお受けいたします。」
途中から黙って事の成り行きを見ていたヴォルドはそう言って部屋を出て行きます。
続いて正輝様も。
「……すいません、熱くなりました。」
「いえ、こちらこそ無理を言ってすみません。」
間様と一緒に出ていかれます。
一人になった部屋の中。
私は胸に手を当てて、父を思いました。
(……お父様。私はうまくできているでしょうか……。)
答える者は、もちろんいなかった。
こんばんは、Whoです。
このお話はもうちょっと後で入れた方がよかったかな、と書き上げてから思ったわけですが。
いいよね、このタイミングでも。
だって思いついちゃったんだもの……。
さて、久々の王国での話。
なにやら怪しい雲行きですが……。
この辺から隠している(つもり)の作者の意図に気付いて下さる方が増えていくのでは……と思います。
章終わりまで……そうだな……あと5、6個の話でたどり着くような気がします。
このまま何も起こらなければね(フラグ)
ではでは。




