side 信志
「?」
今、何か聞こえたような気がする。
扉が勢い良く開かれた音と、悲鳴……?
(気のせい、かな。)
本当は気のせいではないのかもしれない。
でも、気のせい、ということにしておこう。
たとえ何かあっても、ここにはたくさんの人がいるから、そうそう、滅多なことにはならないだろう。
服を脱いで、近くにあるカゴに放り込む。
ここは領主の館にある浴場、につながる脱衣所。
鉱山に行って、ついてしまった汚れを落とすために一っ風呂浴びようというわけだ。
(それにしても、広い。)
脱衣所と浴場は、何十人と人が入っても大丈夫なぐらい広々と作られている。
これが、普段は領主とその使用人しか使わない、というのだからなんとも勿体無い話だ。
見渡す限り、と言っても湯気で完全には見えないのだが。
とにかく、風呂が広くてそこに誰もいないとなると、どうしても考え事が始まってしまう。
今日行った鉱山では、領主がいきなり労働を厳しくし始めた、と言われた。
昨日は、スラムのような場所で食べるのに飢えた少年と出会った。
……ここは、こんなに立派なつくりなのに。
チャプン、と音を立ててお湯をすくってみる。
目につくような汚れのない、綺麗なお湯。
元いた世界では当然のようにあったものだけど、この世界でもそうなのだろうか。
(そんなわけは、なさそうだよなぁ……。)
それでも、昨日の少年は領主のことを悪く言うことはなかった。
そういう風に育てられているのかもしれないが、少なくとも昨日見た限りではそう思った。
この町にも、面倒臭い事情ってものがあるのかもしれない。
(面倒臭いなぁ……。)
そこまで考えたところで、ポロリと出てしまうボクの本性。
自分で言うのもなんだけど、ボクは面倒臭がりの人間だと思う。
ことなかれ主義、触らぬ神に祟りなし。
特技があるわけでもなく、目立つこともなかったから平々凡々と生きてきた。
それが突然。
「異世界」なんてものに召喚されてしまった。
ファンタジー小説でたまに見かける程度だったこと、それが自らの身に起きた。
それから、あれよあれよと言う間に『操草師』になって、不思議な力を手に入れた。
勇者なんて言われて。
そこで、思ってしまった。
「勇者として、この世界に尽力したい。」
不思議なことに、その瞬間は本当にそう、思っていて。
前はしなかったようなことも、できた。
少しでも人の役に立つように、なんて。
それでも、いや、「だからこそ」かもしれない。
限界が来て、倒れてしまった。
辛くて、大変で。
それでも能力を使っていた末の、気絶。
はじめに思ってしまった、「勇者」としての思い。
それを引っ込めることも、またできなくて。
ずるずると、ここまで来てしまった。
本当に……
(面倒臭い性格だよ……。)
心の中でつぶやいて、ぐったりと目を閉じる。
ため息をひとつ。
足に力を込めて立ち上がる。
手先を見るとふやけ始めている。
思ったよりも長湯してしまったみたいだ。
脱衣所に出て、服を着る。
……余談だけど、もともと着ていた服は、ユーステスの城に預けてある。
さすがに何日も同じ服を着ていられない。
手に取るのは、こちらの世界で一般的に着られている、ゆったりとした作りの服。
袖を通してみると、通気性もあって楽に着られる。
一般的になるのも納得だ。
「あ、信志さん。」
廊下に出ると、ちょうどアイリスと会う。
女の子の風呂は長い、なんて聞いたこどがあるけど、それと同じくらい浸かってたことになるのか。
「あれ、ネロもいるの?」
「そう、一緒に入ってた。」
アイリスの後ろから、ネロが顔を出す。
毛並みもフサフサしているし、本当のことみたいだ。
「って、あれ?アイリス、なんだか顔が赤くない?のぼせたの?」
「い、いえ!これはその……。」
ふとアイリスに顔を向けると、なんだか顔が赤い。
風呂に入ったからだとしても、かなり赤いような……。
口籠り、下を向いてしまったアイリスをかばうようにネロが前に出てくる。
「信志は気にしなくてもいい。二人の秘密。」
「えっと、そうなの?じゃあ気にしないけど……。」
「それで、いい。行こう。」
そう言ってネロは、アイリスを連れて歩き出す。
二人して何していたのか、それともしていないのか。
なんだからしくもなく、そんなことを思いながら、二人の後を追いかけた。
こんばんは、Whoです。
さて、今回は風呂の続き。
と言っても視点は信志くんだし、覗きもしませんが。
急にいろんなことが変わって、あっという間に日々が過ぎた後。
ふと、我に返って後ろを振り返る、そんな感じの話です。
ちょっとぐちぐちしていますけど、こういうのも異世界に飛ぶ話ならではないかと。
思います。
ではでは。




