side アイリス
「?信志はそんなに人の役に立ちたいの?」
「うーん、立てるならそれがいいって感じかな?」
鉱山を出て、領主様の館へ帰る途中。
ネロさんが振り返って、信志さんへそんな質問をしました。
いつかのように、なにげない質問だったと思います。
それでも。
信志さんが一瞬だけ、怖い顔をしたように思えました。
思えば彼がこちらに来てから、元いた世界のことはほとんど話したりしません。
私も特に聞くようなことはありませんでした。
なのでこうして思い返してみると、彼のことをほとんどなにも知らないことになります。
だから。
「あの、信志さん……。」
「ん?なに?」
こうして。
「いえ、その……。えっと……。」
「?」
話してみようとは思うのですが、なかなか思い切ることができません。
そのまま、なんでもないです、と返してしまいます。
私はもっと彼のことを知りたい、知らなきゃいけない。
そう思っているのに。
「まぁ、なにもないならいいけど……。」
不思議がりながらも、信志さんは興味を他へ逸らしました。
そのまま。
お互いがお互いを気遣う、そんな微妙な距離感のまま、歩いていきます。
……うぅ、ネロさんの好奇の視線が刺さります。
(それでも。)
信志さんがどうして、倒れるまで頑張ってくれるのか。
いつかちゃんと聞きたい、と思いました。
……聞けると、いいんですけど……。
「……リス、アイリス!」
「へぁっ!」
突然の事に思わず変な声が出てしまいました。
目の前には領主様の館。
どうやら、ぼんやりと歩いている内に、ここまで帰って来たようです。
「ほんとに、大丈夫?」
「はい……、ありがとうございます。」
自分で聞いても、明らかに大丈夫ではない声。
気にした信志さんが、こちらに一歩近づいた、ところで。
「おかえりなさいませ。」
ギィィ、と音をならして館の入り口が開かれました。
そう言って、私達を迎えてくれるのは、
「お食事の用意ができております。それとも先に入浴されますか?」
深々とお辞儀をする、使用人の方でした。
「えっと、領主様はいまどちらに?」
「はい、今朝皆様がお出掛けになった後。近くの集落から、すぐに来てほしいと連絡がありまして。本来であればこちらから出向く事はないのですが、緊急とのことでしたので、先ほど出立されました。」
いない、ということは昼間に鉱山で聞いたことを、確認することができない、ということ。
タイミングの悪いことではありますが、それならば仕方ありません。
「えっと……信志さんはどうします?」
「ボクはどちらでも構わない、けど。……先に入浴にしようか。」
とりあえず目先の事を決めてしまおうと、信志さんに尋ねてみると、視線を逸らしながらそう、提案してくれます。
どちらでもいいのに、先に入浴なのはなぜかしら、と何とはなしに、自分の体を見下ろしてみると。
……汚れていますね……。
今日は鉱山をうろうろしたのですから、あまり綺麗とは言えない状態です。
「そ、そうですね。先に入浴してしまいましょうか……。」
さっきまでとなにも変わっていないはずなのに、自覚すると急に恥ずかしくなってきました。
若干、早口になりながら返事をすると、そそくさと浴場へむかいました。
そんな私を信志さんは、あきれた顔で見ていたかもしれません。
チャプン……。
お城にあるものよりも小さいとはいえ、私一人にはとても大きな浴場。例え
お湯の音が響き渡るほど静かです。
こうして一人、静かな場所にいると。
(はぁ……。)
どうしても気持ちが沈んでいってしまいます。
今日も私じゃない誰かならもっと上手くできたんじゃ……。
なんて、意味もない想像が頭をめぐります。
バンッッッ
「ひゃあぁぁ!!」
考え事に気をとられすぎたせいか、その突然の音にびっくりしてしまいました。
浴場のドアが空いています。
そこには……。
「ネ、ネロさん……?」
「今日は領主がいないから、命令が終わらない。」
だから、出来るだけ一緒にいるのだと、ネロさんがずんずんと近づいてきます。
それは、いいのですが……。
あの、ネロさん、前を……。
「大丈夫、私は気にしない。」
「私が気にするんです!!」
「……それは、私の体に欲情していると言うこと……?」
そんなネロさんの言葉に余計に疲れてしまう、そんな入浴でした……。
こんばんは、Whoです。
入浴シーンだと思いました?
残念、Whoさんにそんな表現力はありません。
というわけで、ちょっと不安になる回です。
ではでは。




