side ネロ
不思議な人たち。
それが私が二人に抱く素直な感想。
王国の王女だという少女と、その王女に召喚された勇者の少年。
最初に会った時も、少しの違和感を感じていた。
それも、嫌な感じの違和感でなく、ただこれまでの私が知らなかったからこそ覚えるような違和感だ。
頭から獣の耳を生やした、人間に似た何か。
この世界で獣人の認識はそんなところ。
そんな獣人のしかも奴隷ともなれば、見た人間の反応は大きく二つに分かれる。
完全に物と決めつけて、無視をする者。
そして、驚いた後に欲望や蔑みの視線を投げつけてくる者。
確かに少年も最初は驚きをあらわにした。
もしかしたら、獣人を初めて見たのかもしれない。
それでも、その後に感じた視線は純粋な興味。
奴隷である私が誰なのか、ということを気にする人間なんていなかった。
それを、一人の「人」として興味を向けてくれた。
しかし、慣れないその反応に対して、私は警戒の視線を彼に向けた。
向けてしまった。
普通、と言っていいのかわからないが、
私の知る限りの中で普通、奴隷にそんな態度を取られれば、大抵の人が不快になるだろう。
それでも彼は。
私の視線に対して、特に気にした風もなく、興味を他へ移した。
奴隷としては本来失礼極まりない態度に、応じたのだ。
完全に興味をなくしたわけではなく、移動中も時折視線を感じた。
(……奴隷の相手に対しても、気遣いができる、ということだろうか。)
そこまで考えて、私は初めて、自分が彼に興味を覚えていることを自覚した。
本当に。
(……不思議な人。)
スラム街を抜けて、領主の館に帰る途中。
「あのさ、アイリス。」
「はい、なんでしょう?」
「実は、ネロ……さんが何の獣人なのかすごーく、気になるんだけど。
それって聞いても失礼にあたったりしない……?」
「そう、ですね。私も直接会ったことは少ないんですが、大丈夫だったはずです。
役割を訊ねるのと同じぐらいのはずです。」
二人が話しているのが聞こえてくる。
もちろん、私には聞こえないように、声を落としているのだろうが。
獣人は人間と比べて、五感が鋭い。
二人の会話もバッチリ聞こえていたのだが、気にかけてもらっている感覚に慣れず、黙々と歩いていると。
「えっと、ネロ……さん。」
勇者として世界に召喚された彼、椿信志が言葉をつくる。
その言葉に顔を向けると、続きのことばが来た。
「えーと、実は獣人に会ったのって初めてで……。
その耳が何の耳か、気になっちゃって。」
少し照れたように、頬を掻きながら聞いてくる彼は、やはりこちらに気遣って。
そんな彼を気にしている自覚を強くしながら。
「……私は、捨て子だったの。だから、実は私にもわからない。」
言った。
三角の耳であることから、犬や狐、果ては狼の類だろうと見当をつけているものの。
両親に聞けない以上、自分のこともよくわからない。
「そっか。でも……綺麗な耳だ。」
「……?」
思わず、といった感じで零された、そんな言葉。
言われ慣れていない言葉に、思わず首をかしげてしまう。
「あぁ、いや。ボクのいた場所では、人気だったんだ。
もちろん本物はいなかったし、ボクはそこまで気にしてなかったんだけど。」
ここに来て、私を、本物の獣人を見て。
素直にそう思った、と彼は言う。
それがなんだかくすぐったくて、それが嬉しいからだと理解して。
「……ありがとう。」
小声で、彼等には聞こえないように呟いて。
それから少しの茶目っ気を。
「うわ!……え?なになに!?」
「な、ななな何してるんですかー!?」
出してみる。
信志を抱き寄せてみせた。
赤くなった勇者の少年と、同じく赤くなってる王女の少女を見て。
「……好いてくれるなら、こうした方がいいと思って。」
未だ混乱している二人を、かわいい、などと思いながら、言葉をつくる。
それから。
「……私は、ネロ。『さん』はなくていい。」
「…………。(コクコク)」
「……ん。」
無言で頷いた彼を放すと、慌てたように距離をとった。
それからしばらくこちらを見やっていたが。
「んん……。ふぅ。」
顔の赤みは消えなくても、咳払いで気持ちを落ち着けたのか。
「ともかく、これからよろしく、ネロ。」
「よろしくお願いします、ネロさん。」
「……ん。よろしく。」
差し出された二つの手を、それぞれ握り返した。
館まで戻ってきた私たちは、その館の前に、人がいることに気づく。
「あれは……。メルトさんでしょうか。」
「ん?あ、ほんとだ。」
この町に着く前に魔族とぶつかった騎士。
その無事を見て安心したのか、足早になる二人。
そんな二人を私は後ろから見ていた。
……あれは……。
こんばんは、Whoです。
さて4人目の視点です。
獣人のネロ。
「ネロ」という名前には意味があったりなかったり、やっぱりあったりするんですが、「何の獣人か」ということはぼかしました。
いずれ明らかになる、ということでひとつ。
それから信志くんがいい感じになってますが、彼の内心としては、(警戒されてる時に聞くのは面倒だしやめとこう。)ぐらいの感じです。
やはり面倒くさがりなので、彼。
ではでは、また来週。




