side アイリス
「へぇ。じゃあネロさんは、最近こちらに来たんですね。」
「……ん。」
メラーシュの領主様から紹介されたのは、奴隷として雇われているネロさんでした。
奴隷。
様々な事情で働くことが困難になった人たちが、生活を保障してもらう代わりに、なる「身分」。
この世界では、珍しくもない話です。
信志さんは、奴隷と聞いてなんとも言えない顔していましたが……。
あちらの世界では、違う意味での奴隷があるのでしょうか?
「……着いた。ここから先が畑。」
ネロさんとお話ししながら歩くこと少し。
館前の、そこそこに賑わったお店を抜けた先には、いくつかの畑が見えました。
今は、ちょうど収穫の時期にあたるので、たくさんの人が仕事に精を出しています。
そして。
「……あっちに行くとスラム。」
つ。っと視線をずらせば、見えて来るのは、入り組んだ路地。
もう時間は夕方に近いので、影が伸びて余計に暗く見えます。
「……どっちから行く?」
ネロさんの質問にふと、信志さんの方を向くと、路地をじっと見つめています。
「路地の方をお願いします。」
「……ん、わかった。」
ばれたか、という顔をした信志さんを連れて、私たちは路地の方へと足を向けます。
「そういえば、畑を耕す人がたくさんいたってことは、こっちの方には操草師のことはあんまり広まってないのかな?」
「どうなんでしょう。ユーステスのようにあまり無理をさせてないだけかもしれません。」
「……なんの話?」
信志さんと操草師のことを話していると、ネロさんが不思議そうに首をかしげます。
「ああ、ボクの役割なんだけど、操草師って知ってる?」
「……ん。お花屋さん。」
「やっぱりそんな認識なんだ……。」
最初は同じ感想を抱いていた私は、思わず苦笑してしまいます。
私とネロさんの反応に若干肩を落とした信志さんは、気をとりなおして続けます。
「まぁとにかく。そんな操草師なんだけど、ボクはちょっと違うみたいなんだ。」
説明のために足を止めた信志さんは「スプラウション」と唱えます。
生えてきたのは、私もここ最近見慣れた赤い野菜。
「……トマト?」
「そう、その通り。そしてこうすると……。」
「……すごい、本物みたい。」
トマトの断面を見てネロさんがそわそわし始めます。
心なしか耳や後ろから生えている尻尾も揺れています。
「実は『みたい』、じゃないんだ。」
食べてみて、と差し出されるそれを、興味半分、疑い半分で匂いを嗅いだ後。
好奇心が強くなったのか、一息で口に入れてしまいました。
「……美味しい。」
もぐもぐ、と咀嚼し、ちゃんと飲み込んでから一言。
思わず漏れてしまった一言のようで、その後はなんとも言えない顔になってしまいました。
「……どうして?」
「うーん、それがわからないんだ。気が付いたらこんなことに。」
「……そう。」
「実はこの現象、ユーステスの方では結構な数確認されているんです。」
じゃあ食べ放題……と、何やら呟くネロさん。
そんな純粋な感想に信志さんと顔を見合わせて、笑いあう。
と。
「な、なぁにいちゃん……。さっきの話、ほんと……?」
路地の陰から痩せた子供が、こちらを信じられないものを見た目で見ていました。
「本当だよ。」
「じゃ、じゃあ……。お、俺たちにも分けてください!」
信志さんが頷いたのを見て、その子は、その場でいきなりひざまづきました。
私が驚いてしまう間。
その子をじっと見つめた信志さんは。
「とりあえず話を聞かせて。」
そう言ってその子を助け起こすのでした。
こんばんは、Whoです。
この話では初めて出てきた「奴隷」。
いろいろな設定の奴隷があるかと思いますが、このお話では、あくまで職の一つのようなものです。
生活は保障されますし、それが侵された場合は、周りから責められます。
あまり自由のない使用人、というのが近いかもしれません。
なので、今後虐待やエロいのは多分出てきません。多分。
ではでは。




