side 信志
「信志さん、少しだけいいですか?」
ナルメアさんの話も終わり、部屋にでも戻ってもう少し休もうと部屋を出た矢先、アイリスに声をかけられる。
はて、何の用だろうと、振り返ると。
「……え!?あ、ええと……。」
自分から声をかけてきたのに、驚いて目を丸くしたアイリスがいた。
戸惑うアイリスを連れてやってきたのは、この世界に来た最初の夜に、アイリスと話した廊下の端。
さて。
「で、何か気になることでも?」
何でも、もともと声をかけるつもりはなかったそうだ。
アイリス自身、思わず声をかけてしまった、ということなんだろうか。
「ええと、気になるといいますか……。
部屋を出るときの信志さんが、何だか考え込んでいるような顔に見えて。」
「考え込んでいるよう、ってボクが?んー。」
正直に言えば、思い当たる節がある。
ボクの役割、操草師のことだ。
今まで操草師の作り出す植物は完全な植物ではなく、内側が魔力で出来ていた。
だというのに、ボクの能力で作り出すと、本物の植物が出来上がる。
が、それはまぁいい。
ボクはいわゆる異世界人だし、そんなイレギュラーもあるだろう。
問題なのは……。
「やっぱり、操草師の人達が急に変化したことかな。」
「そうですね。私も驚いてしまいました。」
テトさんやアイリスが驚いた、ということはそんなことは前代未聞に近いはずだ。
まるで、ボクの役割に近づくように色んな人が本物の植物を作り出せるようになった。
「ま、考えても仕方ない事だけどね。」
「じゃあ、他にもなにか気になる事が?」
「うーん、いや他はなにもないはず……。」
「ありがとう、アイリス。ちょっとすっきりしたよ。」
「それは、よかったです。明日からも元気に行きましょう。」
「うん、できるだけ頑張るよ。」
その後は特に話すこともなくなり、明日も早いので、部屋に引っ込んだ。
出発は早朝。
することがないのも手伝って、ベッドに潜り込んですぐに、意識は溶けていった。
チチチ。
窓の外から、鳥が鳴く声が聞こえる。
「……もう、朝か……。」
体感的には、さっきベッドに入ったばかりの気がする。
「……よ、っと。」
気合いを入れて体を起こすと、思ったより軽い。
熟睡して、疲れも溶けて消えたようだ。
そのまま食堂へ向かうと、何かを包んだものを渡して貰えた。
なんだか美味しそうな匂いがする。
サンドイッチか。なにかだろうか。
食べるのがたのしみだ。
門へと向かうと、準備がほとんど終わっているらしく、兵士と馬車が並んでいた。
「おはよう、椿。」
「あ、おはよう、天野くん。」
ユーステスに残る天野くんが、見送りに来てくれる。
「俺と間は、一緒に行けない。魔族には十分気を付けてくれ。」
声を潜めて、囁くように言ってくる。
戦闘経験を積んだ彼は、どんどん強くなり、今や国の立派な戦力だ。
防衛面でまだ不安の残るここを、今離れるわけにはいかない。
「ありがとう、分かったよ。魔族を見つけたら全力で逃げることにするよ。」
天野くんの忠告に返事をして、馬車に乗り込む、寸前で横から声をかけられた。
「君が椿くんか。あたしは、メルト。
今回の護衛の指揮を任されてる。よろしくな。」
快活そうな声と一緒に手を伸ばしてくる。
その手を握り返したところで、
「はい、よろしくお願いします。って、お、女の人……!?」
大分今さらなことを、声高に叫んでしまった。
「ははは!そいつは、傑作だね!」
ユーステスからメラーシュに向かう馬車の中、メルトさんの笑い声が響き渡る。
「……ほんと、すいません。」
「いや、いいさ。確かに女の護衛は少ないからね。」
出発の前、握手をするまでメルトさんの事を男だと、勝手に思っていたのだ。
「あたしもこの性格だし、変に女扱いされるよりはいい。
そのままで頼むよ。」
「ありがとう、じゃあそうさせてもらうよ。」
「……むー。なんだか、信志さんもメルトさんも、随分仲良しなんですね。」
心なしか不機嫌そうな顔でアイリスが呟く。
それを聞いたメルトさんの目が光った、ように見えた。
「おやぁ、椿くん。あんたも隅に置けないねぇ。
……安心しなよ、アイリス様。誰も取りゃしないって。」
お願いだから、唐突にそんな危ない玉を投げないでほしい。
そして、肘鉄砲を一発入れて、メルトさんは馬車を降りていった。
もちろん、馬車内の空気はそのままで。
き、気まずい……。
アイリスも恥ずかしがってか、うつむいたままだ。
仕方ない……。
空気を変えるのを諦めたボクは静かに、外の景色に意識を集中することにした。
ヘタレということなかれ。
女の子と付き合った経験など皆無なのだ。
景色に意識を向けてから(実際にはほとんど上の空だったが)、しばらくして。
いつの間にか貰った包みが消えている事に気づく。
どうやら上の空のまま、お腹に消えたようだ。
あぁ……。
「止まれ!」
メルトさんの鋭い声が響き、馬車が止まる。
「やあ、いい天気だね。」
それに対して、その声は随分と呑気なものだった。
こんばんは、Whoです
さてこんかいは、信志くんがちょっと考え込む回です。
と、言ってもほんとにちょっとですが。
基本的に面倒臭がりなので、彼。
それと、操草師全体を変化させたのは、
主人公に特別感を持たせるのは嫌だけど、それなりの力を持たせたい、という作者の考えです。
「いちど特別感出して、回りもそれに引き上げればいいじゃない」なんていう、短絡的思考に基づいた結果、このような話と相成りました。
これからも主人公には基本、俺ツエーなんてさせません。なんて。
ではでは。




