side 信志
「ああああああああぁああぁあぁ!!」
「ネロさん!?」
アイリスが、必死で手を伸ばした直後。
突然、ネロが頭を抱えながら苦しみ始めてしまった。
「ネロさん!ネロさん!?」
それを見たアイリスが、ネロに駆け寄って行く。
ボクとロットもすぐ後に続いた。
一足先にネロの元にたどり着いたアイリスは、ネロの体にしがみついて、呼びかけながらその体を揺さぶっていた。
「お、落ち着いて、アイリス。」
「で、でも、信志さん!ネロさんが……!」
「うん、だからこそ、落ち着いて。……今はアイリスが頼りだ。ネロの状態を見てくれる?」
「っ!はい!!」
パニックで、半狂乱になっていたアイリスをなんとか落ち着かせる。
とにかく今は、状態が知りたい。
ネロの事情については、ネロが起きてから聞くしかない。
「行きます、『メディカラーー』」
「っ!危ないっす!」
ひゅっと、目の前を何かが横切る。
その何かは、アイリスめがけて突き進み、間に割って入ったロットの腕を切り裂いた。
ジワリ、とロットの服の下から血が滲んでくる。
「っ!っぐ!」
「ロット!大丈夫!?」
「ぁ……、だい、じょうぶっす……。」
見た感じ、全然大丈夫そうじゃない。
けれど、今は。
「おやぁ?外してしまいましたかねぇ?」
ぬらり、と。
それは、暗闇から滲み出てくるみたいにそこに現れた。
左右で色の違う、派手な服装。
細身で長身の体。
頭にはシルクハットのような帽子を身につけている。
あとは赤い鼻でもつければピエロに見えたかもしれない。
そのピエロがゆっくりと、こちらに歩いてくる。
「ぼろ、ねーぜ……!」
微かな声に振り返ると、少し回復したのかネロがこちらを向いていた。
そんなネロの口から、絞り出されるように聞こえたのはあのピエロの名前だろうか。
「はぁい、親愛なるあなた様の仲間、ボロネーゼでございまぁす。」
「…………。」
大げさにお辞儀をした後で、その目がぐるりとボクらを見渡す。
そういえば、ネロを見て『仲間』って言ったのだから、この人も魔族、なんだろうか。
その場にいたみんなが目の前のボロネーゼに注目している中で。
ぴたり、と目と目があった。
ボクと、ボロネーゼの。
「おやおや、これはこれは。勇者様ではないですかぁ。お初にお目にかかります、私、ボロネーゼと申しまぁす。」
「…………椿、信志。」
口から出たのは、そんな固い声だった。
意識して出したわけじゃない。
それでも、ボロネーゼを前にするとなぜだろう。
言葉にできない何かが、心の中に入り込んで来ている。
そんな感覚があった。
「えぇ、えぇ。存じ上げておりますとも。……しかしいいのですかぁ?あなた様は我々魔族との友誼を、望んでおいでなのでしょう?とてもそんなことを考えている顔には見えませんよぉ?」
咄嗟に顔を手で撫でる。
『そんなことを考えている顔』というのがどんなものかわからない。
ボクは特に普段と変わらない顔のはずだ。
けれども、目の前のボロネーゼが言うその言葉に、心のどこか深いところを撫でられた気がして、どうにも落ち着かない。
「…………なに、しに、きたの……?」
「もちろん、あなた様を助けに参った次第ですとも!しかしこの状況は……。」
と、そんなボクの内心を知ってか知らずか、ボロネーゼはネロの言葉に返事をする。
アイリスに支えられたネロの問いかけに、ボロネーゼは大仰に頷いてから。
にやり、と。
音もなく、自然に。
あくまでもそれが当たり前のように、笑った。
「ええ、おもしろい状況ですねぇ。」
ぞわり。
風もないのに、その声を聞いた瞬間に寒気がした。
「な、何を、言ってるっすか?」
「本調子ではなさそうなネロ様に、勇者の御一行様。……では、私のやることは一つですかねぇ。」
パチン。
ボロネーゼは指を鳴らすと、今までと違う、冷めた声で。
「皆殺しです。」
そう、簡潔に告げた。
同時に、辺りが炎に包まれる。
それも紫の、見るからに普通ではなさそうな炎。
それがボクらと、それからネロとを取り囲んだ。
「みな、殺し……?」
理解できない者を見るような、いや、実際に理解できないんだろう。
アイリスはそんな目でボロネーゼを見る。
かく言うボクも、ともすれば訳が分からなくなりそうだ。
「……前から、そんな気はしてた。」
その場で唯一、ネロだけはそんな事を口にしていた。
『前から』……?
「……うん。私は少し特殊だから。」
「えぇ、えぇ、そうですねぇ。いっそのこと『変』とさえ言えましょう!……そんなあなた様が私、前々から気にくわなかったんですよぉ!」
だから、ここでまとめて殺すと、目の前のピエロは言う。
ハイなテンション、高い声。
けれども最後の一言だけは、また、ゾッとするような冷たい声。
笑いながらも、よく見ると目の奥だけは笑っていないようにも見える。
「……それは偶然。実は私もそう思っていたところ。」
「ヒヒ。いいですねぇ、その表情。……あぁ、実に不愉快です。」
言って、手をあげて。
「あぁそうそう、あなた様の魔力、大変美味しくいただきました。……ではさようなら。」
あっさりと、その手は降ろされた。
何かをする間も無く、何かを叫ぶ暇もなく。
ボクらの視界は白く染まった。
こんばんは、Whoです。
そしてお久しぶりです。
戻ってきたので、またのんびりと更新していけたらなと思います。
ではでは。




