side ネロ
「……来た。」
誰に言うともなく、ボソリと口にする。
視線の先にはただ暗い空間が広がっているだけで、人影は見えない。
それでも体のあちこちがピリピリとしている。
それは。
その感覚は、これまでも何度か感じたことがあった。
『何かが終わる』。
それが良いことでも、反対に悪いことだったとしても。
一つの決着が近づいている気配だった。
◇◆◇◆◇◆
たたたたたーーー。
そんな軽い足音とが三人分聞こえてくる。
迷いない、まるでこちらの居場所を知っているかのような足音。
そして。
「……さっきぶり、って言っていいのかな。ネロ。」
「ネロさん!」
「…………。」
メラーシュで会った勇者の信志と王女のアイリス。
それと。
同じ魔族のロット、だっただろうか。
「……じゃあ、始めようか。」
手を挙げると、暗がりが動き出す。
それらは次第に、いくつかの体に分かれて。
ガシャガシャガシャ……。
カツンーーー。
最後に一度、どこかの骨が落ちる音がして、私の準備は整った。
私が魔力で生み出した骸骨。
ここらに渦巻く怨念を纏めた、私の兵隊たちだ。
「やっぱり……、やっぱり、やめれませんか!?」
「……その話ならもうした。私は魔族で、あなたたちは人間。……ならあとはぶつかるだけ。」
一歩前に出て来たアイリスが、前と同じことを言ってくる。
それに対する私の答えも同じ。
手を取り合うことはできるかもしれない。
ぶつからなくても良いかもしれない。
けれど。
今はそうじゃない。
「……そちらが来ないならこっちから行く!」
上げた手を振り下ろすと、後ろにいた骸骨の一体が飛び出る。
狙いは一歩前に出ているアイリス、ーーー。
骸骨が手に持った獲物を振り下ろす。
ヒュッ、ガッーーー!!
下ろして、命中した音が通路に響く。
人に当たったとは思えない、硬い、硬い音が。
「……どうして。」
ぱたた、と音がする。
アイリスの顔に傷がついて、そこから血が漏れている。
はらり、と布の切れ端が地面に落ちる。
切り裂かれたアイリスの服が、その一部が裂けていた。
「……どうして、避けない!」
「…………だって信じていましたから。」
確かに骸骨にはアイリスを狙わせた。
アイリスの、すぐ横すれすれを。
当てるつもりがなかったとはいえ、それはちゃんとした攻撃で。
避けられなくても、避けようとするはずだと思っていた。
それで信志たちも自分を攻撃してくるだろうと。
けれど。
アイリスはその場から一切動かなかった。
その結果、骸骨の攻撃はアイリスに掠るだけで終わった。
「だって、最初に会ったネロさんはとても優しそうだったから。」
だから避けなかったのだろうか。
その一回だけで彼女は自分のことを信じたのだろうか。
わからない。
「……だからって!どうしてそこまで!」
自分でも驚くぐらいの声が出る。
同時に、そんなアイリスにやっぱりと思ってしまう自分もいて。
「……どうしてそこまで優しいの?」
つい。
そんな言葉が漏れてしまった。
言ってから慌てて口をつぐむ。
けれど一度言った言葉は飲み込めない。
「…………優しくしてもらったから。」
「……?」
「私も。私も優しくしてもらったから……だから!」
手が伸びてくる。
まっすぐ、まっすぐ、私の方へ。
「私も誰かに、みんなに優しくなりたいから……。」
「……じゃあ私じゃなくてもよかった!別の、もっともっと友好的な魔族でよかったじゃないか!そこの魔族のように!」
伸ばされた手を手で叩き落とす。
お互いに素手だったので、ジン、とした痛みが残った。
私は何に怒っているんだろうか。
いや、そもそも怒っているのだろうか。
わからない。
ただ、心が揺れる。
「…………はい。それは、ネロさんの言うとおりです。」
「……っ!」
すっ、と水が差したかのように思考が落ち着く。
なんだ。
やっぱり、『そう』なんだ。
私は結局どこにでもいる大勢の一人。
そのなかでたまたま私がいた、だけーーー。
「だからこそ、私は手を伸ばします。何度でも。」
裏切られて、払われて。
それでも、伸びてくる。
まっすぐ、まっすぐ。
「ロットさんと、信志さんが教えてくれましたから。『伸ばさなければ掴めない』って。…………だからお願いします。私はあなたと戦いたくなんてありません!!」
「……。」
ぐらり、と揺れる。
足元も、自分の頭の中も。
いいのだろうか、この手を取っても。
いいのだろうか、手を取るために前に行っても。
いいのだろうか、ーーー。
いくつもの疑問を自分に投げて。
「……ぁ。」
「ネロ、さん?」
頭を手で押さえた。
「ああああああああぁああぁあぁ!!」
「ネロさん!?」
ひどく続く頭痛の中。
驚くアイリスの声と。
自分に投げた疑問の答えが全て『わからない』だったこと。
それを頭の片隅で意識した直後、私の意識は途切れた。
こんばんは、Whoです。
アイリスが頑張って前に進もうとする回。
『何度も手を伸ばすこと』『相手を信じること』。
なかなかできることではないですよね。
ボクですか?
うん、えー、その……はい。
ではでは。




