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花屋は商魂たくましい  作者: Who
三途の河編
102/159

side ネロ

「……来た。」


誰に言うともなく、ボソリと口にする。

視線の先にはただ暗い空間が広がっているだけで、人影は見えない。

それでも体のあちこちがピリピリとしている。

それは。

その感覚は、これまでも何度か感じたことがあった。

『何かが終わる』。

それが良いことでも、反対に悪いことだったとしても。

一つの決着が近づいている気配だった。



◇◆◇◆◇◆



たたたたたーーー。


そんな軽い足音とが三人分聞こえてくる。

迷いない、まるでこちらの居場所を・・・・・・・・知っている・・・・・かのような足音。

そして。


「……さっきぶり、って言っていいのかな。ネロ。」

「ネロさん!」

「…………。」


メラーシュで会った勇者の信志と王女のアイリス。

それと。

同じ魔族のロット、だっただろうか。


「……じゃあ、始めようか。」


手を挙げると、暗がりが動き出す。

それらは次第に、いくつかの体に分かれて。


ガシャガシャガシャ……。

カツンーーー。


最後に一度、どこかの骨が落ちる音がして、私の準備は整った。

私が魔力で生み出した骸骨。

ここらに渦巻く怨念を纏めた、私の兵隊たちだ。


「やっぱり……、やっぱり、やめれませんか!?」

「……その話ならもうした。私は魔族で、あなたたちは人間。……ならあとはぶつかるだけ。」


一歩前に出て来たアイリスが、前と同じことを言ってくる。

それに対する私の答えも同じ。

手を取り合うことはできるかもしれない。

ぶつからなくても良いかもしれない。

けれど。

今はそうじゃない・・・・・・・・


「……そちらが来ないならこっちから行く!」


上げた手を振り下ろすと、後ろにいた骸骨の一体が飛び出る。

狙いは一歩前に出ているアイリス、ーーー。

骸骨が手に持った獲物を振り下ろす。


ヒュッ、ガッーーー!!


下ろして、命中した音が通路に響く。

人に当たったとは思えない、硬い、硬い音が。


「……どうして。」


ぱたた、と音がする。

アイリスの顔に傷がついて、そこから血が漏れている。

はらり、と布の切れ端が地面に落ちる。

切り裂かれたアイリスの服が、その一部が裂けていた。


「……どうして、避けない!」

「…………だって信じていましたから。」


確かに骸骨にはアイリスを狙わせた。

アイリスの、すぐ横すれすれを。

当てるつもりがなかったとはいえ、それはちゃんとした攻撃で。

避けられなくても、避けようとするはずだと思っていた。

それで信志たちも自分を攻撃してくるだろうと。

けれど。

アイリスはその場から一切動かなかった。

その結果、骸骨の攻撃はアイリスに掠るだけで終わった。


「だって、最初に会ったネロさんはとても優しそうだったから。」


だから避けなかったのだろうか。

その一回だけで彼女は自分のことを信じたのだろうか。

わからない。


「……だからって!どうしてそこまで!」


自分でも驚くぐらいの声が出る。

同時に、そんなアイリスにやっぱりと思ってしまう自分もいて。


「……どうしてそこまで優しいの?」


つい。

そんな言葉が漏れてしまった。

言ってから慌てて口をつぐむ。

けれど一度言った言葉は飲み込めない。


「…………優しくしてもらったから。」

「……?」

「私も。私も優しくしてもらったから……だから!」


手が伸びてくる。

まっすぐ、まっすぐ、私の方へ。


「私も誰かに、みんなに優しくなりたいから……。」

「……じゃあ私じゃなくてもよかった!別の、もっともっと友好的な魔族でよかったじゃないか!そこの魔族のように!」


伸ばされた手を手で叩き落とす。

お互いに素手だったので、ジン、とした痛みが残った。

私は何に怒っているんだろうか。

いや、そもそも怒っているのだろうか。

わからない。

ただ、心が揺れる。


「…………はい。それは、ネロさんの言うとおりです。」

「……っ!」


すっ、と水が差したかのように思考が落ち着く。

なんだ。

やっぱり、『そう』なんだ。

私は結局どこにでもいる大勢の一人。

そのなかでたまたま私がいた、だけーーー。


「だからこそ、私は手を伸ばします。何度でも。」


裏切られて、払われて。

それでも、伸びてくる。

まっすぐ、まっすぐ。


「ロットさんと、信志さんが教えてくれましたから。『伸ばさなければ掴めない』って。…………だからお願いします。私はあなたと戦いたくなんてありません!!」

「……。」


ぐらり、と揺れる。

足元も、自分の頭の中も。

いいのだろうか、この手を取っても。

いいのだろうか、手を取るために前に行っても。

いいのだろうか、ーーー。


いくつもの疑問を自分に投げて。


「……ぁ。」

「ネロ、さん?」


頭を手で押さえた。


「ああああああああぁああぁあぁ!!」

「ネロさん!?」


ひどく続く頭痛の中。

驚くアイリスの声と。

自分に投げた疑問の答えが全て『わからない』だったこと。

それを頭の片隅で意識した直後、私の意識は途切れた。

こんばんは、Whoです。


アイリスが頑張って前に進もうとする回。

『何度も手を伸ばすこと』『相手を信じること』。

なかなかできることではないですよね。

ボクですか?

うん、えー、その……はい。


ではでは。

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