side 信志
「信志さーん。」
「戻ったっすよー。」
通路の先からアイリスとロットの声が聞こえてくる。
姿はまだ見えない。
「信志さー……って、ひゃあ!」
「どうしたっすか?うひゃあ!?」
「あー……。おかえり二人とも……。」
足音が近づいて来て。
二人の悲鳴が少し上から聞こえてくる。
その時になって、ようやくボクは閉じていた目を開けた。
「…………。」
「「…………。」」
開けた、ところで。
バチリと、二人と視線が重なる。
次の瞬間、ボクはガバッと体を起こした。
暗かったので何も見えていない。
見えていませんとも。
と、まぁそれはさておき。
「ギルドの方はどうなったの?」
「あ、はい。きちんと話を通してもらいました。」
「っす。」
「そっか、それならよかった。」
咳払いを一つ。
アイリスたちに尋ねると、特に何を気にするでもなく結果を教えてくれた。
ふぅ。
「それで、シンシさんの方はどうなったすか?」
「たった今できたところだよ。」
言って、ユーグの方を振り向く。
いつの間にかボクらの近くまで来ていたらしく、すぐそばにいた。
「本当にたった今だけど、ね。」
ため息と一緒にそんなことを言われてしまっては、笑ってごまかすしかない。
実際、本当に最後の一回でできた。
心を集中すること。
そのコツを掴むために、それだけのことにとても時間がかかってしまった。
◇◆◇◆◇◆
「……あれ?」
「どうしたの?」
「……そうか!そうだよ!!」
大事なことをつかんだ。
そのことが、言葉になって自然と出て行く。
「『集中』って心を一点に集めることじゃなかったんだ!!」
口にしてみればとても簡単で。
けれど思いつかないと、一生気付かないようなこと。
たとえ心を一つに束ねても。
心の隅には必ずちいさな雑音が残る。
それが、完全に集中できなかった原因。
「その通り。でも、じゃあどうする?」
ユーグが少し嬉しそうに言う。
その疑問に頷いて。
「一つに集めるんじゃない。……もっとこう、薄く、広く……。」
うまく言葉にできない。
言いたいことはある。
けれどもそれが形にならない。
もどかしい。
けれど、なんとか形にしようと、頭を動かす。
動かして、動かして、動かして。
ぴちゃん、とどこからか水の音がした。
多分今までも聞こえていたはずの音。
けれど、その時のボクにはそれが答えだった。
「『水』!心を一つのことで、水みたいに包み込む!!」
今度はユーグは何も言わない。
けれども、しっかりと頷いてくれた。
心を、一つのことで包む。
つまりは満たして行く。
それならば、雑音の入り込む余地はなくなる。
言葉にしてみればそれだけのこと。
ただ。
「それが分かっても難しい……。」
思わず頭を抱えてしまう。
思いついて、早速実践した『集中』では、心を満たす前に何かが投げ込まれる感覚があった。
それが、波紋となって。
最後には大きな雑音になってしまった。
「なかなか進まないねー。」
気楽そうに降ってくる、ユーグの声にも反応できない。
むしろ反応すると、余計な雑音を呼び込んでしまうのではと思ってしまうぐらいだ。
「……。」
けれど。
面倒臭くて仕方がないこの修行でも。
今はやるしかない。
やらなければもっと面倒なことが起きる。
そんな感覚が、確かにあったから。
そして。
◇◆◇◆◇◆
「……じゃあ、行くよ。」
息を吸って、吐く。
同時に目も閉じておく。
大事なのは集中すること。
心の中を、そのことだけで満たす。
決して小さくならない。
それだけで、心を占める。
「……『シンクリング』!!」
ポツリと。
それでいて強く、言葉に力を込める。
閉じた目を、さらに強く閉める。
やがて。
ボクの耳にはそこら中に囁きが聞こえて来た。
ーーーそれは声。
アイリスやロットには聞こえない声。
ーーーそれは声。
ここにはボクらしかいないのに、それ以外から聞こえてくる声。
ーーーそれは声。
一つや二つじゃなく、たくさんの、とてもたくさんの声。
「ーーー、ーーーー。」
「…………、……。」
「〜〜〜。」
その全てが、足元から聞こえてくる。
足元だけじゃない。
通路を曲がった先、その奥。
それからボクらがいるよりも後ろの通路。
あたりかしこから聞こえてくる声は。
小さな小さな、そこら中に生えている植物から聞こえて来ていた。
こんばんは、Whoです。
修行の成果その一。
「植物の声を、音として聞く力」。
これは信志の役割と、前に一度聞いたことがあると言う経験で成り立っています。
そのため、本当はもっとかかる修行が、集中するだけで終わると言う。
けれどもまだ未完成のため、ちゃんと集中しないと聞こえなくなってしまいます。
そこらへんにもいつか触れていけたらと。
ではでは。




