別れ
私の視界は赤く染まっている。
何の色かはわからない、ただただ赤く
どれくらい時間が経ったのだろう
短くもあり、長くもあり
ただ茫然と立ち尽くすショウゴ
肩を震わせながら泣きじゃくるキク
目を逸らし唇を噛みしめるアルド姉弟
そして村人の元へと駆け寄る葵
「カイ爺!!」
葵の声で私は現実に引き戻される
気づくと私はその声の元へと駆け出していた
「おい!カイ爺!!起きてくれよ!!」
葵の腕の中に、白い民族衣装を紅に染めた老体が横たわっている。
「誰か!止めてくれ!止まらないんだ!!!誰か!!!」
地面が赤く染まっていく
「・・・・うぅう・・・・」
カイ爺がうっすらと目を開く
「カイ爺!!」
葵はとめどなく溢れる涙を拭う事すらできず、ただ呼びかける。
「キキョウ殿は・・・おられるか?」
ガハッガハッと赤い液体を口から噴き出しながら私を探す。
「はい!ここに!」
「おぉ・・・無事で何よりじゃ・・・おぬしら・・気を・・・病むでないぞ」
1つ1つの音を出すだけでも辛いであろう、しかし音を言葉として紡ぎだす。
「いずれはこうなる定めであった・・・ぬしらがいようが・・・いまいがな・・・」
全身から力が徐々に抜けていくのがわかる
「それだけ・・・戦火は広がっている・・・のじゃ・・・。老いぼれの最後の望みを・・・」
「はい」
ただただ見つめる
「葵を・・・わしらは葵を縛りつけていた・・・今こそ解放・・・されるべきじゃ・・・あお・・い・・・を」
「はい」
私は、ただ返事をする。
「フォフォ・・・あおい・・・ぬし・・は・・ぬしのため・・・いき・・ろ」
「カイ爺・・・」
その顔は雨に打たれたようだ
「わかったよ」
その言葉を待っていたかのように鼓動を止める。
私たちは出来る限りの手当てをした。
生き残った村人はみな傷を負っていた、体に、そして心にも
カイ爺はああ言ってくれたが、しかしこの有様を作り出したのは私たちだ。
「ユウキの野郎・・・絶対に許さねぇ」
ショウゴの口から憎しみがただ漏れる
その他に聞こえる音は森を焼く炎と、頬を濡らす水音だけだ。
「おい」
私の後ろから声がする
振り返ることが出来ない。
私はどれだけの罵声を浴びせられても仕方がないと覚悟していた。
「手伝え」
しかし飛び込んできたのはそんな言葉だった。
「死んでったやつを埋葬する」
死
「受け入れろ」
命
「お前たちは悪くない」
「どうして!!」
堪えていたものが決壊していく
「私たちのせいで、カイ爺や村の人たちは死んだのよ!!」
「悪いのはあいつだろ」
あの邪悪な笑顔が頭をちらつく
「いや元を正せばこの戦争が悪い」
「どうして・・・どうしてそんな・・・あなたは・・・あなた達は・・・・!恨みなさいよ!憎みなさいよ!!私たちを!・・・・私を・・・」
感情に任せ、ただただうなだれ、泣き喚くことしかできない。
「カイ爺は常々言っていた、いずれこの村は終わる。それはこの戦禍が続く限り。」
うなだれる私の横に立つ。
「俺は殺してきた、この村を守るため、様々な人間を、戦う事で、第三条という保護を自分で捨ててきた、だからこれは自業自得ともいえる。俺の、そしてこの村の」
そして私の横へと座り込む。
「全て俺のせいなんだ、いつかこの村は俺のせいで、抗いようのない圧倒的な力で潰されていた。」
自らの拳を目いっぱい握り、その拳を見つめる。
「だからお前に同行させてくれ」
「えっ?」
私は唐突な、予期せぬ言葉に驚いた。
「そんなに驚くことか?」
不満だ、という気配をにじませる。
「あなたはここに残るものだとばかり」
「言っただろう、戦争がなくならない限り、この村はこれからも戦争に怯えて暮らさなければいけない、だから俺が戦争を終わらせる」
「それは本気なの?戦争というのは個人のいざこざ等ではなく、国と国の尊厳や威信をかけた戦いよ。
それを個人が止めようというのはいささか無謀すぎるわ」
「分かっているさ、でもカイ爺が俺の人生を生きろと言ってくれた、今俺のやりたいことはこの戦争を終わらせることだ。その手始めにあの砦を落とす。」
サバル砦の方向をまっすぐに睨みつける。
「お前たちもあの砦を落とすんだろう?なら一緒に行ったほうが効率がいい。」
「それは問題なんじゃねーの?」
ショウゴが突然、私と葵の間に顔を突っ込む。
「きゃあ!いきなり現れないでよ!ビックリしたじゃない!それに立ち聞きしてたの?」
「いやいや!ふと会話が耳に入ってきただけだよ!!」
ぶんぶんと両手を振る。
「て、そんな事よりもだ、こいつがいくら強いって言っても民間人だ。民間人を部隊に帯同させて、砦を攻撃するなんて、戦争協定第三条違反も甚だしいだろ。」
「確かに、でも戦力になるのは間違いないし、何より一緒に行かなくても、あなたはどうせ1人で砦に乗り込むんでしょ?」
「もちろんだ」
葵の決意は言葉と、体のすべてにありありと現れている。
「ん~何かいい方法は・・・」
彼が強いとはいえ、敵の重要拠点の一つであるサバル砦に1人で乗り込んでは生存は厳しいだろう。
私は彼を死なせるわけにはいかない。
悩んでいるとキクの声が頭に響いた。
≪それでは"保護"というのはどうですか?≫
「保護?というかお前まで聞いていたのか・・・」
≪なんか怪しげな空気を醸し出していたのでつい≫
恥じらっている表情だが、怪しい空気など微塵も出していなかったぞ
≪保護については、戦闘力がいくら高いとはいえ、彼は"民間人"です。≫
「そうか!」
私はキクが言わんとしていることにやっと気づく。
「第三条だ!戦闘に巻き込まれた民間人を生存させるため避難・誘導・保護する義務を我々は負っている」
「でもよ、ここは安全な場所だ、そこから絶対に戦闘が起きる場所に連れていくのを、保護とは言わないだろう」
ショウゴが反論する。
「ええ、だから葵には1人でサバル砦に行ってもらいます、そこで我々の戦闘に巻き込まれてしまった民間人として保護します。」
「無茶苦茶だろ・・・」
ショウゴが嘆く
「でもこれが唯一の最善策よ。それに第三条にはこうもある『保護された民間人も、自身が生存するために全力を尽くさなければならない』彼が生き延びるために戦闘をすることは何ら悪いことではないわ」
私は桃色の髪をした策士に、視線を送り微笑む。
「そういう事でしょ?キク?」
ニコッと微笑み返すキク、末恐ろしい少女だ。
「話は決まったようだな」
「えぇ」
葵に笑いかける。
「ごめんなさいね、私たちは正規の軍人。力を持つ者にはそれなりの縛りと責任が付きまとうのよ」
「・・・すべての軍人がお前たちの様であればまた違っていたのかもな」
何かを感じながら空を見上げる葵
「さて砦に行く方法だが、二つある。」
葵が空から私へと視線を移す。
「教えて。」
「まず一つはあの山を越える。」
先に見える山を指さす。
「また森の中を、しかも今度は山を歩くのかよ・・・」
ショウゴはうんざりとしているようだ、それは私も同じだが。
「ただし、あの山は険しく、何も知らないお前たちが無事、砦に辿り着けるとは思えない」
「もう一つは?」
私はもう一つの選択肢へ望みを託す。
「あの山を抜ける洞くつがある。ここは一本道だから最短距離で辿り着けるだろう。」
「よし、それでいこうぜ!」
ショウゴが山越えしなくていいという選択肢に歓喜している。
「だが、ここはジャニウェール軍が配備されている可能性が非常に高い。」
「でも私たちは早く砦に辿り着かないと、すでに第一分隊は砦近くで潜んでいるのだろうし」
≪高鹿さんは砦で待っていると言っていましたね、その洞くつを通っていくのでしょうか≫
「その可能性は高いわね、それに彼は私たちが生きていて、必ず砦に来ると思っているでしょうから、罠を仕掛けている可能性もある」
「洞窟を進む」
「選択肢しかないでしょう」
アルド姉弟は洞窟を進む気満々の様だ。
「俺も洞くつを行ったほうがいいと思う。」
ショウゴは山を越えたくないといった印象だ。
「そうね、私たちは先を急がなければいけない、洞窟を進みましょう」
「よしそれじゃあいこうぜ!」
「でもその前に・・・私たちが生んでしまった犠牲者を埋葬してからにしましょう」
行動方針の決まった私たちは第三分隊の埋葬されている場所へと再度向かい、埋葬するための穴を掘る。
すると1人の村人が私たちの元へ来た。
「君たちは先を急ぐんだろう?後の事は私たちでするからもう行ってくれていい」
その後ろには生き残った村人が多数いた。
「でも私たちは少しでも償いを・・・」
これが償いになるとも思わない・・・だけど少しでも彼らに贖罪をしなければ
「葵君からカイ爺の最後の言葉を聞いたよ、カイ爺の言った通りだ。今回運悪くこの村の壊滅のタイミングに君たちはやってきたに過ぎない。」
村人たちは悲痛な表情を浮かべながらも誰も私たちを責めない。
「葵君も彼らと行くのだろう?」
「あぁ、俺はこの戦争を止める。あなた達はこれからどうするんだ?」
「僕たちはこのままこの砦に住み続けるしかないさ」
「・・・滅びの道しかないとしてもか」
「ああ、それに滅びるかどうかなんて、誰にもわからないだろう?」
目を少し細めて力なく笑う。
「わかった、なら少しでもこの村が存続できるようにあの砦は必ず落としてくる。」
「頼んだよ葵君、みなさんもよろしくお願いします。」
「それがあなた方の救いとなるならば」
私はそう答えるにとどめた。
「ありがとうございます、これをどうぞ」
私たちは手作りのリュックを渡された。
「少しばかりですが食料や飲み水、あと役立ちそうなものを入れておきました」
私は胸は熱く、そしてほほが冷たくなるのを感じた。
「ありがとうございます」
私は頭を下げながらそのリュックを受け取る。
「ご武運を」
その言葉にカイ爺の面影を感じながら私たちはこの存在しないはずのサイカ村を後にした。
10話目からは戦闘主体となりそうな気がします。
ここまでが長い長いプロローグだと思っていただければ




