離反
森を抜け、逃げるサイカ村の人々をかき分ける
葵が誰かと対峙しているのが見えた。
「葵!」
思わず声をかける。
「来るなと言っただろ!」
刀を相手に向けて構えたまま、怒鳴る。
「でも・・・!」
私は言い訳をしようとしたが、その時聞き覚えのある、久しい声が聞こえた。
「綾深隊長?」
その声の主は今まさに葵と対峙している人物だ。
そこには黒髪にメガネを掛けた少年の姿があった。
「ユウキ!無事だったのか!!」
ショウゴが大きな声で叫ぶ。
そう、そこには高鹿索敵士の姿があった。
「無事だったのね・・・」
私は喜びと、憂いを込めてそう言った。
「そうか、こいつが・・・」
葵が呟く。
「なんの事かはわかりませんが、隊長はこの方とお知り合いみたいですね。とりあえず臨戦態勢を解くように、彼に言ってもらえませんか?」
高鹿索敵士は困った顔で、私にそう求めてくる。
「そうね、でもその前にあなたに確認したいことがあるの」
私は彼にそう伝える。
「なんだよ?確認したいことって!さっきもユウキが無事だったってのに喜ぶそぶりも見せねぇし、一体どうしたってんだよ!!」
ショウゴはただただ憤慨している。
他の隊員も困惑、といった表情を浮かべる。
無理もない、が、しかし私はそんな空気を無視し、話を続ける。
「いいかしら?高鹿索敵士?」
「その質問に答えないと僕はこの少年から睨まれ続けるようですからね・・・いいでしょう、答えられることならお答えしましょう」
堂々とそう答える。
私は一つ目の質問をする。
「私たちが川岸で休憩していたとき爆発が起こった、その時あなたは離れた場所にいたわよね?」
私はあの時のことを思い出しながら喋る。
「ええ、僕はトイレに立っていましたからね」
私は目で頷く
「じゃああの爆発には巻き込まれなかったわけよね?」
これは確認も含めている
「はい」
ただ短く答える
「その後どうしていたの?」
「僕は襲撃者を能力で警戒しながら、川を下流へと辿っていきました。」
「そう、敵はあなたの能力で感知できた?」
周りの皆はどういうことかと、ただただ私たちの会話を聞いている。
「いえ、川を下っている間も敵の気配は感じませんでした。まぁもし、いたとしてもあの地形でしたからね」
少し苦笑いを浮かべる高鹿索敵士。
「休息をとっていた場所ではどうかしら?あなたの能力でカバーできない地点はあった?」
私は質問を続ける。
「いえ、あの場所は2ヶ所ほどから能力を、使えば全てカバーできました。もちろんあの場所に着いたときにチェックして、異常が無いことは確認しています。」
ただ冷静に淡々と答える高鹿索敵士。
「じゃああなたがトイレに立っている間も、異常は全くなかった?」
「あったらすぐに報告しています。」
「そうよね」
我慢できないショウゴは突っかかってくる。
「あ~もうなんだよ!そんな話なら普通にすりゃいいだろ!なんで武器を突き付けながら話してんだ!」
私はそんなショウゴに
「お願い、もう少し聞いていなさい」
命令ともとれる強く、静かな口調でそう言った。
チッという、舌打ちが聞こえる。
「で、それがなにか?」
高鹿索敵士が自ら話を戻す。
「ごめんなさい、質問を続けるわ。それじゃあ異常は最初に、あの場に着いた時からなかった訳よね」
私は念を押すように確認する。
「そう言ってるじゃないですか」
少し苛立ちを見せる。
「質問を変えます、あなたの能力、教えてもらえないかしら」
何を今更という表情を見せながら高鹿索敵士は話し始める。
「僕の能力、"探知"-ソナー-は、僕から発せられたマナが、障害物や人、マナなどに当たることにより反応し、その形や大きさ、マナの情報などを知ることが出来るという能力です。」
大まかに説明をする
「使用範囲はどのくらいかしら?」
「1kmくらいなら」
「あなたから発せられたマナは直線に飛んでいくのよね?」
「はい、方向などは絞れますが飛び方は直線です。だから森や入り組んだ地形などでは、障害物が多すぎるため余り有用とは言えません」
彼は補足をいれる
「ありがとう。ショウゴ?」
私はショウゴに突然問いかけた。
ブスッとしているショウゴは不機嫌そうに反応する。
「なんだよ?今度はおれか?」
「あの爆発は、砦から発射されていたあの赤い弾が原因ではないのよね?」
質問の矛先をショウゴへと変える。
「ああ、もしあの弾が原因なら分かるよ、それにユウキも気づいただろうし、なぁユウキ?」
コクリと一つ頷く。
その姿を確認し、私は核心へと話を進める。
「さて、そうだとすると、ここまでしてきた話に矛盾が生まれるのよ」
「矛盾?」
ショウゴがこちらを訝しげに見る。
「えぇその矛盾を突き詰めていくと、1つの解答が出る」
「もったいぶらずにさっさと言えよ」
ショウゴがまたも噛みつく
「この隊に裏切り者がいる、そしてその裏切り者はあなたよ」
私が指差した方向を、驚きながら一斉に皆が
凝視する。
その先に高鹿ユウキがいる。
「ちょっと待てよ!ユウキが裏切り者!?証拠はあるのかよ!」
ショウゴが私の肩に手を掛け怒鳴る、高鹿ユウキは俯き、ただ沈黙している。
「証拠ね、先にいっておくとこれは状況証拠でしかないわ」
私は一呼吸入れる
そして力を込めて言い放つ
「但し、これ以上に納得のいくと答えがないの」
「理由は・・・・」
沈黙を貫いてきた高鹿ユウキが口を開く。
「僕が裏切り者だと言い切る理由を早くお願いします」
「そうね、まずは矛盾点の話から、まず第1に、爆発の原因は砦からの攻撃ではないという事、第2に、襲撃者は考えられる限り存在しないという事」
私は話を続ける
「第1についてはショウゴが証言してくれたわね、第2については高鹿索敵士が。この2つの証言に嘘偽りがないとすれば、ならばなぜ爆発は起きたのか」
「襲撃者が隠れてたんだろ?能力も完璧じゃないってのはお前も分かるだろ」
ショウゴが高鹿ユウキを庇うように言う
「えぇ、そうね、能力は完璧じゃない、でも高鹿索敵士は先程、『2ヶ所ほどから能力を、使えば全てカバーできました』と言ってるわ、もし襲撃者が隠れていたのなら、彼が嘘をついている、ということになるわ」
私はショウゴの顔を見る。
まだショウゴは諦めていないようだ。
「嘘をついていなかったらどうなんだよ!本当に誰もいなかった、そしたらユウキが裏切り者だとは言えないだろ!」
私は頷く。
「その通りよ、でもそうだとすれば、まだ疑問は解決しない。なぜ爆発したのか、という疑問が」
私は視線をショウゴから高鹿索敵士へと戻す。
「高鹿索敵士に問います。襲撃者がいなければ、考えられる爆発の原因はなに?」
「設置型の能力、もしくは旧人類が使っていたとされる爆弾、という線も考えられます。」
よく出来ました。私は笑顔で頷く
「今2つの候補が出たわね、この2つの候補どちらにも共通した点がある、判るかしら?花野通信士」
私は状況をただ、おどおどと見つめるしかないキクに、話を振ってみる。
《あっ・・・えっ・・えっと、どちらも前もって仕掛けて置かないといけないこと・・・・ですか?》
自信なさげに答えるキク
「その通りだ、よくわかったわねキク」
私が笑顔で誉めるとキクも表情を弛ませる。
私は再度視線を戻す。
「さて、花野通信士が言った通りだが、そうなると私たちを爆発に巻き込ませるには、あの場へと私たちが来ないと話にならない。」
そして皆を見渡しながら続ける。
「ここで思い出してほしい、なぜ私たちはあの場所へ行った?」
皆が記憶を辿る、そしてハルが口を開く
「ユウキが川があると言ったから」
私はその言葉を待っていたと、言わんばかりに肯定する
「そう、私たちは彼に誘導された」
ここで、思った通りのタイミングで、思った通りの人物から反論が入る。
「それはおかしいだろ!それなら休憩しようと言い出したお前が、裏切り者だっていう可能性もあるだろ!」
ショウゴはそう反論する。
私は想定していた反論に、最初から決まっていた答えを返す。
「もし私が高鹿索敵士に休憩できる場所があるか聞かなかったとしたら、きっと彼は崖に差し掛かった時点でこう言ったでしょうね『隊長、ここで休息を取りましょう』とね」
だが、私のこの発言にはまだ反論の余地を残している。
そこを高鹿ユウキは抜け目なく突いてくる。
「ですがそれはただの憶測でしかない」
「その通りだな、それでは決定的な事を言おう」
私は一つタメを入れ
「高鹿ユウキ、お前は崖の下に川が流れているなんて事を、あの時点で知りえるはずがない」
「な・・・!?」
なにかを言おうとするショウゴを目で制し私は話を続ける。
「お前の能力はお前の口から説明してくれた通りだろう、それならばなぜ"崖の下"の事がわかった!?お前のマナは直線にしか飛ばない、なのにどうして自分が立っている地点の下の事がわかった!?」
私は悲しみを声に隠し切れず最後の一言を告げる
「お前が・・・裏切り者だ、高鹿ユウキ・・・」
またも沈黙する高鹿ユウキ
「そんな・・・ユウキが・・・マジかよ」
反論する余地をなくしたショウゴがうなだれる。
それだけこの分隊の仲間を信頼していたのだろう、だからこそショックが大きいであろう事が見て取れる。
「何か弁解は?」
私は俯いたままの高鹿ユウキに問いかける。
「はぁ・・・」
一つため息をつく高鹿ユウキ
「ばれちゃったら仕方ないか、まぁどのみち、ここでばらすつもりだったんだけど」
まだ俯いたままだ
「お前の読み通りだったわけか」
葵が私に苦笑いを浮かべながら横目でちらりと私の表情を伺う。
「当たっててほしくはなかったのだけど」
私は自分の隊に裏切者がいたことを、未だに信じたくない。
「お前!分かっててこいつにだけ言ったのかよ!」
ショウゴが叫ぶ。
「えぇ、あなたや他の隊員だと、思い入れや先入観もあるから冷静に判断できなくなるんじゃないかと思って、高鹿ユウキという人間を全く知らない葵に私の考えを昨晩聞いてもらったの」
「さて長話をし過ぎたな、そろそろ部屋へ案内するよ、風も冷たいし体が冷える。それに明日は早いんだろ?」
昨晩の砦の上の光景を思い出す
『えぇ、ただ・・・』
『ただ?』
『ただ最後にひとつだけ、私の隊に裏切者がいるかもしれない、私の考えを聞いてくれないかしら?』
「作戦はここで中止とする、あなたを本国に連行するわ」
私は刀を向けたまま、臨戦態勢を継続している葵に目配せをする。
葵はコクリと頷き、じりじりと高鹿ユウキとの距離を詰める。
「ひとつ、聞きたいことがあります。」
この状況にたじろぐこともせず、冷静さを保ちながら、高鹿は質問をしてくる。
「なに?」
答える義理もないが、何か彼との会話で得られる情報があるかもしれないと思い、聞き返す。
「ここでジャニウェール軍の分隊が壊滅させられたようなのですが、やったのはこの村の住人ですよね?」
「俺が全員殺した」
葵が高鹿を睨みつけながら吐き捨てる。
「あっはっはっ!それはすごい!第三分隊を全滅させるために編成した、戦闘力に特化した分隊を一人で全滅させるなんて」
高鹿は顔を上げ笑い声をあげる。
「なんでそんなことが、この状況で気になったの?」
「僕も軍人の端くれですからね、殺す理由がないと殺せないじゃないですか」
私たちの後ろで何事かと、一度は逃げたものの、葵や私たちが来たことで安心しきって、野次馬のように集まってきた村人を眺めながら高鹿は言う。
「だがお前にはそんな能力はない」
私は否定する。
彼に出来るのは索敵だけだ。
「例え後ろの森に伏兵がいたとしても、葵が加わっている今、負ける気はしない。」
クリエイターで剣を創り出し、構える。
そして全員が臨戦態勢をとる。
奴との距離は10m。
「伏兵なんていませんよ、ここにいるのは僕だけです」
「ならどうする気だ?」
「僕は戦いません、こうするだけです」
右手を前へと突き出す。
「どうしてあの赤い閃光は僕たちを狙い撃ちに出来たと思います?」
ハッと何かに気づいたショウゴが叫ぶ
「やばい!!」
「それは僕の能力が砦の能力者とリンクされているからですよ」
砦の方向から上空へと、尾を引きながら赤い閃光が打ちあがる。
「サバル砦で待ってますよ」
笑いながら高鹿ユウキは、森へと消えた。
「みんな!砦の中へ逃げろ!!」
私は野次馬の村人へ、力の限り叫ぶ。
各々悲鳴や怒号を上げながら砦へと走る。
「ショウゴ!全力で障壁を張れ!!」
「言われなくても!!」
赤い閃光が最高到達点へと達し、放物線を描きこちらを目指す。
私は次の指示を飛ばす
「ハル!アキ!出来る限りあの弾を打ち落とせ!」
「全て!」
「叩き落とす!」
赤い弾の数は今までの倍といったところか
その距離はあと数十メートル
「止まれええええええええええ!!!!」
ショウゴの叫び声と共に、赤い弾が次々と破裂する。
アルド姉弟も"春霖"と"村時雨"で赤い弾を爆散させる。
しかし無情にも、赤い閃光が牙をむく。
「やめろおおおおおおおおお!!」
葵の叫び声がこだまする
私は初めて、人の命が散る光景を目にする。
赤い閃光が止むことなく、無情にも降り注ぐ。




