アラク洞前にて
「あそこが目的の洞くつ、アラク洞だ」
森を抜け、乾いた大地を歩いた先に大きな山があり、そのふもとにある直径5m程の穴を葵は指さした。
「中は多少入り組んでいて所々に行き止まりがあるが、一時間もあれば抜けられるだろう。」
「なら多少の時間の遅れはあるものの予定通りに作戦行動が取れそうね」
もともと今回の作戦は、作戦開始2日目、日が落ちてから攻撃開始という手筈だった。
私たちはそれまで囮として砦に向かいつつ逃げまわる、という任務を与えられていた。
「さて、入る前に一つやっておきたいことがある。」
私は皆の顔を眺める。
「なんだよ、やりたいことって」
ショウゴが尋ねる。
「第一分隊に通信するわ。」
「あぁそうだな、サイカ村を離れたことだし、今の状況は結構な異常事態だ。」
ショウゴも賛同する。
「という訳だから花野通信士、全員に私と第一分隊の会話が聞こえるようにして」
コクリと頷き、目を閉じるキク
≪あ、隊長、灰宮さんとはリンクが繋がらないですが≫
周囲を警戒している葵を私は見た。
「葵はマナを持たないから花野のリンクに接続できないんだが・・・」
「俺の事は気にするな、もし必要があれば後で教えてくれればいい」
葵は淡々と答える。
「そうか、それじゃあ」
キクに目配せをする。
≪準備OKです、いつでもどうぞ≫
≪あ~~、こちら第三分隊隊長、綾深です、第一分隊どうぞ?≫
私はぎこちなく通信を開始する。
≪お~生きてたか、それはよかったよかった!≫
ショウゴにも似た能天気で底抜けな明るさを放つ声が響く。
≪おっと、こちら第一分隊の加賀谷だ≫
自己紹介をしてもらわずとも、本人だと分かる明るさだ。
≪申し訳ないです、今回の作戦の性質上、通信をするのは好ましくないと思っていたのですが、色々と状況が変化しましたので≫
私は言い訳にも似た理由を説明する。
≪あ~第二分隊が全滅したみたいだな≫
少しトーンを落としながらそう言った。
≪はい、第二分隊の全滅は私たちが確認済みです。あと私たち第三分隊にも少し・・・≫
私は事実を伝えなければならないと思いつつ、少し躊躇ってしまう。
しかし実際に起こってしまったことだ、伝えなければ。
≪私の隊に敵の内通者がいました。索敵士の高鹿ミハルです。≫
加賀谷隊長から返答がなく、少しの時間が空いた。
≪そうか・・・気にすることはないぞ、それはお前の責任じゃないからな≫
諭すように優しく、私の心を温めてくれる。
≪・・・ありがとうございます≫
私はただただそう答えるしかなかった。
≪さて内通者がいたという事は、こっちの作戦は全部知られたって事だな≫
≪はい、申し訳ございません・・・≫
≪だ~か~ら~気にすんなって!ばれてたって俺ら第一分隊が何とかしてやる!≫
その力強い台詞に私は励まされる。
≪で、お前らはどうすんだ?≫
≪私たちは砦の南方にある洞くつを抜けて向かいます。≫
≪そうか、なら開戦のタイミングはお前らに任せる。どでかい号砲を期待してるぞ!≫
加賀谷隊長はハハハっと笑っている。
≪はい!ではまた砦で≫
≪あぁ、無事を祈ってるぜ、じゃあな≫
「第一分隊の隊長ってかなり能天気だよな」
第三分隊の能天気がそう言った。
「そうね、でもあの能天気さに少し救われたわ。」
これはお世辞やフォローなどでは一切ない。
曲者揃いと言われ、全員が強力な能力を持った第一分隊をまとめ、指揮出来ているのはああいう性格なのだからだろう。
「さてと、それじゃあそろそろ行きましょうか。」
洞くつの入り口を見つめる。
「じゃあ全員俺の後に付いてきてくれ」
葵が洞くつへと向かう。




