04.出口がない迷路は不良品【Side彼】
うわぁ、と額に手をやってくらりとよろめく動作をしたディー。
今の話の中に、そんな衝撃的なことってあったっけ?
まぁ、いっか。それよりも話の続きだ。
こくり、とさっきディーが淹れてくれたレモン水を少し飲んで、唇を湿らせた。
「俺の番、いいか?」
「はい、うん、いいよ……何?」
深いため息をついてから、姿勢を正して向かい合うディー。
よし、今度こそ。
「ディーは、ここがどういう場所かわかってるのか?」
「あぁ、それ。うん。今日……いや、昨日聞いたよ」
「わかってて、ここにいるのか!?」
「だから、それは成り行きだって。しばらくしたら出て行くよ?」
けろり、となんの背負いもなく言い切ったディー。
それだと、大丈夫、だよな?
「だって、ここあれでしょ? 契約破棄を望む人たちがいる場所なんでしょ?」
「あぁ、契約破棄はそう簡単にできないしな」
「らしいよね。でも、あたし今のところ契約破棄するつもりはないし」
ビスともスバルとも。
そう続けたディーに、思わず、体全体の力が抜けた。
「よ、かったあああああ……!」
「うわっ!?」
へにゃんとテーブルに突っ伏すと、ディーがビビったように声をあげたけど気にしない。
気にしてなんかられない。本当に、よかった。
ディーが、契約破棄を望んでなくて。
ディーが、繋がりを消さないでくれて。
ディーと、契約した関係のままでいさせてもらえて。
「何、なんか怖いよ?」
なぜだかディーは引いているけど。
戸惑っている感情が伝わってくる。どうしよう、と狼狽えている雰囲気が伝わってくる。
こうしたつながりも消えてしまわない。それだけでいい。
ディーは、契約の重さを知らないんだろうな。
……まぁ、知らないままでいいんだけどさ。
「うん。ディーが契約破棄を望んでいるわけじゃないなら、それでいい」
「何それ?」
「ディーが、俺のものであればそれでいい」
「ものすごい語弊がある言い方なんだけど!」
語弊なんかじゃないつーの。契約の時だって言っただろ。
『これで、お前は俺のもの』
ディーの魔力も、ディーの存在も全部全部、俺のもの。
ディーは、まるごと、俺のもの。
頬を赤く染めながら困ったように頭を抱えるディー。伝わってくる感情は動揺。魔力の昂ぶりは、やっぱり感じられないけど。
「次、アズラスさんについて聞こうと思ってたけど、予定変更するわ」
「なんでアズラスなんだよ?」
さっきから、ディーの質問おかしくね?
なんでスバルについて聞きたがって、次はアズラス?
俺は? 俺のことは?
「こういうことって、本人には聞きにくいからだよ。あなた種族の特色はなんですか、とかあなたの長所はなんですかとか、あなたはなんて呼ばれたりしてますか、とか。その人のことって身近になりすぎると、今更感があって面と向かって言いにくいじゃない?」
「そういうもんか?」
「そういうものなの」
ふーん。だから、俺については聞かないってこと?
それなら、いいけどさ。
「あたしの質問。もしかして、“契約”ってあたしが思っているよりも重要なものなの?」
それは、どういう基準で言われているのか分かんねぇから答えにくいんだけどな。
「……ディーは、どういうもんだと思ってるんだ?」
「んーと、人間に宿っている魔力を魔族へ返すための手段? 契約によって、その人限定で魔力の供給ができる。あと、簡単には契約解除できない。契約するには真名が必要。そんなとこかな?」
「大体合ってる。でも返すってのは違うぞ、たぶん」
なにせ、俺らが人間の身のうちにある魔力を引き出して使ってるだけだし。引き出しやすいように、強い感情と共に発せさせるんだけどな。
間違いだと思う部分を指摘すると、ディーはしまった、とでも言うかのように軽く目を見開いてから、そろっと視線をずらした。
「ディー?」
「気にしないで。……じゃ、やっぱりあれなのかな? あたしがビスと契約していても狙われるってのは、やっぱり魔族の人って力目当てなのかな?」
「かもなー。魔力の膨大さによって力関係がハッキリするってのもあるしな」
「魔力が高いことが、一種のステータスみたいになってるわけね、なるほど」
……まぁ、それでも“契約者”に固執すんのはまた別の理由があるんだけど。その辺りは、知られたくないから言わない。なんか、気恥ずかしいし、情けねぇし。
「じゃあ、さ。ディーはそれが嫌で、家出なんかしたのか?」
「へ? あ、ビスの番ね。いや、違うけど?」
違うのかよ。じゃ、何で出て行ったんだ?
俺と契約を解除したいと望んでないって、そう言ってくれるなら、なんで?
なんで、あんなこと書き残して行ったんだ?
「じゃ、なんで出てったんだよ?」
「なんでって……」
「なんで、あんな書き置き残して行ったんだよ!?」
「ちょ、待ってビス。何!?」
思わずテーブルから身を乗り出して、ディーの腕を掴んだ。
ディーの丸く見開かれた黒い瞳に、すがるような情けない顔をした俺がうつってる。
「てっきり俺は……」
この存在を失うのが怖くて。
この温もりが消えてしまうのが怖くて。
また、二度と会えなくなるのが怖くて。
するりと、言葉が滑り落ちた。
「ディーが、“ちきゅう”に還りたがっているのかと、思った」
「……はい?」
ぽかんと間の抜けた表情をするディー。
……あれ? 俺今ものすごい勇気が要る発言をしたつもりだったんだけど。
「よしよし、どうどう。とりあえず落ち着こうかビス。そんでもってこの手離して適正距離を保とうか!」
「……おとなしく座るけど、手は離さない」
「くっ、スバルといいビスといい、意味がわからない意地を張るんだから……っ!」
額に手をあてて嘆くディーだけど、大丈夫って思える確証がもてないと、離したくない。
ていうか、スバルもってどういうことだよ。
むっと、唇を尖らせると、タコ口禁止ー! と額を叩かれた。なんでだよ。
「いい? あたしがここから地球に帰るためには、ウヌディさまの力が必要なの。ウヌディさまなんて滅多に会える人じゃないでしょ? 人じゃないけど」
「まぁ、人じゃねぇけど。でも、ディーにだってあっちに大事な人がいるんだろ?」
家族とか、心配する相手がいるんじゃねぇのか?
俺があの子と約束したみたいに、大切な人がディーにはたくさんいて、それに気づいていたんじゃねぇのか?
……そこに恋人とか含まれてたら、なんか、アレだけど。
「いるけど。でも、一回帰って分かったことがあるから大丈夫」
「何がわかったんだ?」
「あっちとこっちの時間が全く異なってること」
「時間が?」
どういうこっちゃ?
疑問符がたくさん飛んでいるであろう俺に向かって口を開きかけたディーだったけど、少し悩む仕草をした後、じっと見つめて来た。
「すっごいざっくばらんな説明と、ちょっと真面目に考えた説明とどっちがいい?」
「ざっくばらんな方で!」
「ですよねー」
聞くだけ無駄だったわ、と渇いた笑い声を発するディーに、何も言い返せない。だって、固っ苦しいのとか苦手だし。いつもアズラスに難しい話とか噛み砕いてもらってたし。
「まず、時計が二つあると考えて。あっち用とこっち用」
「おう」
「で、あたしがこっちにいる時は、こっちの時計が動いている。その時、あっちの時計はすっごぉぉおおおくゆっくり動いている。一日が一分みたいなそんなくらいなペースで」
……なんだそりゃ。
「その代わり、あっちにいるときは、こっちと同じくらいのペースで時を刻んでるみたい。スバルと暇つぶしに検証してて気づいたことだから、確証ではないけどね」
分かった? と聞かれたけど、悪ぃ。
話が突拍子もなさすぎて、理解云々の話じゃねぇわ。
……どこの神様補正だそれ。
長くなって申し訳ない、です!
書いているうちに、区切れる場所が見つからなくなってしまいました←
そんでもって、ビスが捨てられる寸前のヤンデレ系彼氏に見えてきてどうしようもない件について。もうヒロインはビスでいいよ←
実家に帰らせてもらいます→実家って地球?→もしかしてウヌディさまに会いに行った?→まさかついでに契約破棄?→繋がりないとまた会えない?→え。そんなのやだ!
な、彼の思考回路でしたww
0925誤字訂正
⇒還ると帰るは使い分けているので、誤字ではないです。




