04.ツッコんだ奴が負け【Side彼】
「これでよし、と」
こんなとこだろ、ととりあえず作業を一段落させたことにする。やれることはやっちまっておいた方がいいよな。
兄貴いわく、
「勝負なんか、始まる前に勝敗が決まってるのが当たり前じゃないか。当然、僕が勝つように働きかける。それくらいやって、しかるべきでしょ。勝てない勝負なんかする意味ないんだから」
とかなんとか。
俺はそこまで腹黒くも頭が回るわけでもないから、そううまく立ち回れているかどうかなんか知らねぇけど。
それでも、できる限りのことはした方がいいってのは分かる。だからこそ、こうして慣れない下準備とか言う奴してんだけどな。
……まぁ、準備のための準備のほとんどをアズラスに任せてたってのは、見なかったことにして、と。
「つか、さっきからなんなんだよ、ディーは」
ぎゅうと、胸元を抑えた。
伝わってくる感情は、コロコロと変わる。
それでも強い驚きと動揺がほとんどを占めているのは間違いない。
「本っ当に、今何考えてんだろうな」
ディーの一喜一憂の全部に付き合って、そんな感情変化を知りたいとか思っちまうあたり、俺おかしいんだろうな。魔族としては。
……あぁ、やめやめ。考えない考えない。
今はこの小細工を全部終わらせちまうことが先。
ディーに会いにいくのはあと。
なんのために、誰にも気づかれないようにここに忍び込んだんだよ。ディーを取り戻すってのもそう だけど……、いや、ディーに会う勇気がないから、逃げてるってわけじゃねぇからな、断じて。
「なぁ、本当に僕たちは解放されるのだろうか」
「っ!?」
この静寂が広がる部屋に、薄い壁を超えて廊下を通り過ぎる人間たちの声が聞こえて、思わず息を飲んだ。
やばいやばいやばいやばい!
来んなよ、この部屋入ってくんなよ!
「……不安に思うなよ。大丈夫だ、俺らはきっと帰れる」
「そう、信じていたいんだけどさ」
「けど?」
「いつ、連れ戻されてしまうか、怖い」
止まる。まさか、この部屋の前で止まるのか。
そのまま入ってくるなよ。頼むから。
息を殺して、壁に張り付いていた俺の心なんか、当然のことだけど知らない人間たちは、声を震わせながら続ける。
「気を強く持て。大丈夫だ、ミモザさまも仰っていただろ?」
「《月薔薇の悪魔》さま、か」
「あぁ、そうだ。悪魔さまがきっと我々を開放してくださる」
「悪魔さま、だって、所詮魔族なんだろ。そんなの」
「悪魔さまと魔族は違う。信じろ」
思わず、聞き言ってたけど、とどのところつまり《月薔薇の悪魔》ってなんなんだ?
会話の流れから、魔族ってことは間違いないよな?
魔王様以外に、人間との契約を開放できる奴がいるってことか?
わかんねぇ……・
「ウヌディビティバルドゥと悪魔さまがついてる。だから大丈夫だ」
「……あぁ、大丈夫、だよな」
「大丈夫だ。解放されたら、家に、帰ろう? な?」
どくん、と心臓が大きくはねた。
家に、帰る。
どの人間も、やっぱりそう思ってるのか? ディーだって、出会った時はそればっかりだった。
もう一回戻ってきてくれたって、そう、思ってんのか?
人間はもう、廊下にはいない。さっさと移動しちまったらしい。
「っ、それもまとめて、ディーに聞くんだろ」
しっかりしろ、と自分を励ましても、胸の内に広がった波紋はなかなか収まってくれない。
俺ってこんなに弱気なやつだったっけ?
本当に、ディーのことになるとダメだな。ヘタレって言われても仕方ないとは思いたくないけどさ。
「とにかく、《月薔薇の悪魔》に関してはアズラス待ち。ディーに関しては、この細工が終わってからだ」
あえて声に出して、考えないようにする。
本当に、これ以上真面目に考えると、俺爆発する。今でさえ、心は小爆発し続けて、いつ破けてもおかしくない状態だしな。
静かな部屋で、俺は再び下準備の作業に取り掛かった。
この、よくわからないガラクタの山の中で。
もう、本当にこの子なんとかしてあげて……!
こんなシリアスっぽい場面が書きたいわけじゃないんですよ本当はっ
うじうじしすぎて、ちょっとケツ蹴り上げてしまいたいくらいですね、えぇ。
たぶん、次反動が来ると思うのです、先に謝っておきます
ごめんなさい_(._.)_
8月6日誤字修正




