01.ツッコんだ奴が負け【Side彼女】
なぁんかさ、おかしいよね?
最近ずっとシリアス的な展開が続いてるし
これそんな面倒くさいお話じゃなかったっけ?
ここはやっぱり僕が修正してあげないとかな?
ん? 僕は誰かって?
オルドビスの偉大なるお兄様だけど
ふふ、納得してくれればそれでいいんだよ
【第四節】ツッコんだ奴が負け
人間と魔族が契約することになった理由を、なんでスバルが知ってるのか、なんてそんなことはもはや些細なことになってきた。
え? だってそれよりももっと重要なことが起こってるからね!
それが何かって? そんなの決まってるじゃない!
「だ、からっ! スバル近いってば!」
「……だが離れすぎていると、他の人間に聞かれる」
「そんな最重要機密的な内容は怖すぎて聞けないよ!」
「マスターは知りたいと言った」
「この世界の一般常識は! 知りたいって言っただけ! そんな恐ろしいこと聞けない聞けない!」
スバルが二重の意味で心臓に悪いことをしてくるんだけど!
ちょっと、距離近い! あと、そんな国家機密的な、なんか世界の心理的な内容をただの一般ピーポーに聞かせないで怖い!
耳元に顔を近づけようとしているスバルを、必死に、そりゃもう、ものすごく必死に止めようとしたんだけど、スバルが抵抗してくる。え、何のいやがらせなのちょっと!
「特に……マスターにとって大事なことだ」
「かもしれないけど、でも、知らない方が幸せってこともあるよね?」
「時と場合によると思う」
くっ、スバルが諦めてくれない!
それどころか、するりと肩に腕を回して、逃げ腰のあたしを引き寄せる。よろめきかけたあたしを抱きとめるようにして支える。
うわあああ、もう、密着してるってばぁああっ!
心音! 心音聞こえちゃう!
羞恥心にあたふたしているあたしの様子に、気付いているのかいないのか(たぶん後者)。スバルは特に感情のこもっていない声で、淡々と語りだした。
「魔族と人間の争いを止めるために、ウヌディビティバルドゥは魔族の魔力の大半を人間へと移した」
……はい?
「魔族の力は失われ、人間は膨大な魔力を見に宿すと言う変化を受け止めるため、戦争は終わりを迎えざるを得なかった」
えっと、ごめん。ウヌディさまの意図がわからないんだけど。
とりあえず、距離の近さと耳元のくすぐったさはあえて! なんとか! 頑張って意識しないようにして、小さく手を挙げた。
「はい、質問。人間に魔力が移されたなら、人間も魔法とか使えちゃうんじゃないの?」
「人間はもとより、魔力の受け皿はその身に作られていた。だが、魔力を放出する仕組みは作られていない。だから、魔力を宿していても使うことはできない」
精霊の声も聞こえないしな、と続けたスバルに、そう言えばビスが呪文っぽいのを唱えるとき、『風よ聞け』みたいなこと言ってたよね? あれって精霊とやらに言ってたってこと?
……すごい、今更だけど、ものすごいメルヘン。改めて認識し直すよ、この話はファンタジーだ。
「魔族が魔力の大半を失っても基が膨大な量だ。無益な戦いを起こさない限りは生活に支障はない」
「確かに、家事とかは全部魔力頼みだったね」
おかげでお手伝いが全くできないなんて言う、非王道である堕落の道を転がり落ちるところだったよ。
洗濯一つも魔法でぱぱぱってどうよ。確かに楽だけど!
「でもまぁ、大変だったんだろうね。今までが魔法でささっとできたことが、魔力不足でできなくなった人だっているんでしょ?」
「……マスターは優しいな」
ふって! ふって耳元に吐息を吹きかけるのはやめようかっ!
ぞわりと背筋に何か寒気みたいなものがはしった。慣れない慣れない! こんなの慣れるはずがない!
「そんな魔族がいるから、ウヌディビティバルドゥは一つの方法を与えた」
「そ、それが契約?」
「あぁ。人間と真名を明かし合い、契約を交わすことでその人間に宿りし魔力を分け与えられることができる」
さりげなく耳に息を吹きかけられるのを何とかやめられないかって思って、それなら正面を向けばいいんじゃない? と思いついた。どうしてそんな簡単なことに気が付かなかったんだ、とくるりとスバルの方に顔を向けた。
よし、これならきっと大丈夫……じゃなかったっ!
こつんて、こつんて額を合わせないで! 近い! ちーかーいーっ!
「ええええええええっとぅ、ほら、あの、元は魔族のものだったって言ってたよねっ! ならその元の持ち主のものじゃなくていいのっ!?」
「宿り主の元から離れた魔力は、人間のものとして質が変化される。だから問題はない」
「あ、あぁうんうんうん! そ、そうなんだ! え、で、でもさ! あのっ、ほらっ、あれ! そう! 人間の寿命って魔族より短いんだよねっ! ならだんだんその魔力を継ぐ者が少なくなったり」
「中には魔力を全く持たずに生まれてくるものもいるらしい。だが、ウヌディビティバルドゥは魂の転生時、人間として生まれる者には魔力を再び付加させているとのことだ」
「へ、へえええっ! あ、あぁあじゃ、じゃあさっ! 感情がうんたらーって言うくだりは!?」
「分け与えやすさ、だろうな。感情の波が大きいと、その魔力の大きさ、掴みやすさが違うのだろう。同調させることで、魔力の波長も合うのだと思う」
俺は魔族じゃないから、その辺りは分からないが……。と続けるスバルだけれど、残念そうに伏せたまつ毛の長さがはっきりわかるよ。その色も髪と同じなんですね!
必死で質問を考えて意識をそらそうとしたんだけど、ダメじゃん! 近すぎて、逸らすことなんか全然できない!
スバルの馬鹿っ! 純情乙女をからかって楽しいか、もぅ!
「うふ、うふふふふっ! 従者×主人……美味しいですわぁ」
ミモザが扉の陰からのぞいていることに気付いたスバルが、困ったように首を傾げて離れるまで、あたしの顔は真っ赤だったに違いない。
……うん。スバルへの距離とか情緒的なものは、早急に教育するべきかもしれない。
一か月の間が空きました。
傷心の思いで書いていたら、普段よりもだいぶ長くなりました、あれー?
ディーのてんぱり具合が楽しかったです!
あと、スバルは本当に何も考えてないで素でやってるのか分からなくなってきた。
じゃれてるとか、人に聞かれたくないから近づく、んですかね?
うーん、どうなんだろう?




