01.最後はお約束の展開で【Side彼女】
地球に帰ってきた。
それは本望だったけど、やっぱり悲しくて……。
ああもう! ギャグ的な雰囲気にならないって言うか!
ツッコミができるテンションじゃないよ最後なのに!
……よし。
ディーこと堂本雪菜。
最後の最後に一花咲かせてみせましょう!
【第七節】最後はお約束の展開で
あの日、これでもかってくらい泣いた。
どうやって帰ってきたのかも分からない。それでもあたしはちゃんと家に帰って、自分の部屋にいた。それからも、涙は止まらなくてしばらく部屋に引きこもってた。
目が腫れぼったくて、胸に鉛石がつまったように苦しい。人前になんか出れなくて、学校にも行きたくなくて、暗い部屋の中でふとんにくるまっていた。
「夢じゃない、よね……?」
寝てしまうと、本当に夢のようで。あの記憶すらも消えてしまうんじゃないかと思った。
忘れたくなくて、でも忘れたくて。
複雑な思いを抱えながら、ビスから餞別にもらったブレスレットを握り締めた。
思い出はいつか色あせて消えてしまうものだから。だから、そうやっていずれは忘れてしまうんだと思う。忘れたくないと思ってても、人間なんだから、難しいことなのかもしれない。
「……雪菜」
「入ってこないで」
おばあちゃんの声がして、何か言われる前に拒絶の言葉を投げかけた。今は、誰にも会いたくなかった。
誰かに会うと、ビスやスバル、アズラスさんやスバルとの記憶や思い出が消えてしまうかと思ったから。
「一体どうしたの? 何日もこもって。ご飯も食べないで」
「放っといてよ」
「そういうわけにはいかないわよ。おばあちゃん雪菜が心配なの」
「おばあちゃんには関係ない……!」
人に当たって、何やってるんだろう。でも、誰にも共有できない感情を持て余して、あたしはどうすればいいのか分からなかった。
優しいおばあちゃんに、キツい言葉を当てることしかできなかった。
「雪菜……」
あたしをディーって呼んでくれる人はいない。誰も知らないんだから、当然なんだけど、それが無性に寂しい。
「……雪菜、聞いてちょうだい。おばあちゃんここにいるから。あなたの部屋には入らないから」
「……」
「昔話なんだけれどね。ずっと昔。おばあちゃんがまだ子どもだったとき、雪菜みたいにずっと泣いてひきこもってたことがあるの」
おばあちゃんの昔話なんて正直どうでもいいと思った。
でも、聞きたくなんかなくても、耳をふさいでも、おばあちゃんの優しい声が聞こえてくる。
「とても悲しかったのよ。泣いていた綺麗な男の子にね、約束したのにそれが果たせないってこと。約束が守れないことほど苦しいことはないわ」
知ってる。だから、あたしもまたねなんて言えなかった。二度と会えないって、分かってたから。
分かってたから、こんなにも苦しいんだ。
「あの時はまた会えると信じてたのに、年を重ねるごとに分かったのよ。あの子にはもう二度と会うことなんか出来ないって。歌をまた謡うって約束、守れないことが分かってそれはそれはショックだった」
「……その子、死んじゃったの?」
「どうかしらね。そのとき以来会えなかったから、分からないわ。でも、おばあちゃんその子と果たせない約束をしちゃったから、そのことがずっと苦しくて苦しくて……」
おじいちゃんにも言ってないのよ、って。
わざと明るく言ったおばあちゃんの言葉に、あたしはのそのそと布団から顔を出した。
ドアの前に這って行って、寄りかかる。
「迷子になったみたいでね。おばあちゃんも迷子だったのに、その男の子はどうしても泣き止まなくて……。お姉ちゃんぶりたかったのかしらね? 泣き止んでもらえるように必死で、何でもやったわ」
「……それで、歌?」
「えぇ、そうなの。何をやっても泣いたままだったその子、歌を聴くなりぴたっと泣き止んでね。何度も何度も謡ってあげたのよ」
そう言うおばあちゃんの声はどこか楽しそうで……。
「それでも、ずっと謡ってあげられないでしょ? だからね、今度会うときまでに、大切な人を絶対見つけたら、また歌ってあげるって。そう約束しちゃったのよ」
って、ちょっと待って。なんか似たようなエピソード最近聞かなかったっけ?
「……ねぇ、おばあちゃん」
「なあに?」
「その子の名前とか、聞いた?」
いやまさかね、まさかだよ。
こんな出来すぎた話とかあるの? って聞きたくなるんだけど、違うよね?
「いいえ、聞いてないわ。名前も知らない、綺麗な男の子」
だよね、そうだよね。そんな出来た話なはずないもんね。現実的に考えて、そんな都合のいい話があるはずないし。
深く息をついた。
「でも、その子綺麗な朝靄色の髪の毛だったのよ。外人さんだったのかしらね?」
「っ!?」
こんな都合のいいように話を進ませようと仕組んだのは、一体誰!? 思わずそう叫んでしまいそうになるくらいだった。不意打ち過ぎて息が詰まった。
そう決めるのはまだ早いけど、そんなの自分のいいように考えてるだけかもしれないけど! どうしておばあちゃんがこんなこと言い出したのかは分からないけど! でもっ!
「やくそく……」
約束したのは……、ビスと約束したのは、おばあちゃん?
『俺、その子と約束をしたんだ。大切な人は自分が気付かないくらい近くに居るから、今度会うときまでに絶対見つけるって』
『見つかったんだ?』
『あぁ、俺には目付け役のアズラスも、不幸にも同じ顔で生まれた双子の兄貴もいるしな。なんやかんやで、やっぱ大切な奴だし。……だからさ、もしディーが元の世界で、仮にその子と会えたなら……、伝えてくれねぇか?』
『約束守ったよって? あたしの住んでる世界、何億人も人間いるのに?』
『だから、もし! 仮にの話だって!』
『はいはい、分かってる。もし会えたら、の話でしょ? 会えたら伝えるって、約束する』
『約束、な』
ビスと、そう約束した。
あたしが、最後に、あの世界で約束したこと。無理だと思って、適当に流してたけど、そんなわけにもいかない。
約束、守らないと。
「……あの、ね」
「ん?」
「その子、ちゃんと見つけてたよ。近くにいる、大切な人」
「……そうだといいわね。気休めでも、二度と会えなくてもそうだといいわ」
「ちゃんと、約束守ってっ、わらって……っ」
乾いてパサパサになった頬に、また涙が流れた。腫れぼったくて熱をもった目元から、次々とあふれてくる。
泣き続けて、もう涙なんか流れないんじゃないかと思ったけど、そんなことなかった。胸がずっと苦しいままだ。
あの世界にいたのはほんのちょっとの間だけ。それこそ一日も経ってなかったんだと思う。
それなのに、それだけの間のことを思い出すのがこんなにも苦しい。
あんなにも帰りたがってたのに、あたしは楽しかったと思ってたんだ。楽しかったんだ。
あの世界が。あの場所が。
よく分からない非常識を並べ立てたあの世界に、居心地の良さを感じてたんだ。
「雪菜ったら。また泣いてるの? 本当に、昔から泣き虫なんだから」
ドアの向こうで、おばあちゃんが困ったように笑ってた。
あたしはその言葉に返すことも出来ないで、ただ嗚咽を堪えてた。涙なんか止まらない。胸が重い、息が出来ないくらいに苦しい。悲しい。
「……?」
ドアの向こうから、小さな歌が聞こえてきた。
おばあちゃんの声だ。おばあちゃんの好きな歌。
あたしが小さい頃泣いてたら、きまってこの歌を謡って慰めてくれたんだ。
きっと、小さい頃のビスも同じようにおばあちゃんのこの歌に慰められてたんだと思う。
こんな小さな共通点を見つけただけでも、ぎゅっと胸が痛んだ。思わず、ビスの髪と同じ色したブレスレットを握り締めた。
シャラリと、綺麗な音がした気がした。
ディーがそれどころじゃないため、補足をば。
彼女が異世界に行って、帰ってきたまでの時間経過はほんの数時間程度。
だから大事にもならなかったし、家族にも「こんな遅い時間まで学校だったの?」とか言われるくらいでした。
だから、急にふさぎだした彼女の変化に家族が一番ビックリしたんだと思います。
そんな補足話。
さすがにネガティブ彼女の精神状態で、状況説明とかできませんでした。スミマセン。




