05.喜びはツッコミをも凌駕する【Side彼】
「無事に帰れてるといいけどな……」
「おそらくは大丈夫だと思う」
ゆっくりとドアを閉めながら、獣魔のスバルが答えた。
行っちまったか。ディーも、あの子と同じように帰って行った。きっと、もう会えないんだと予感していた。あの子がそうだったように、ディーにもきっと会えない。
また、俺だけを取り残していったんだよな。
「……あーあ、こりゃ確実に大目玉だな」
「……契約者は、他にもいないのか?」
「俺が何人も契約できるほど器用な奴だと思うか?」
「すまない、愚問だった」
淡々と言われた。それはそれで釈然としねぇけど。
そう言う獣魔も首輪についた従属の証を握り締めて、静かに目を閉じた。
こいつも俺と同じ。契約者を失った。
止める事なんかできなかった。あれほど帰ることに執着して、帰りたいと願って、それを原動力にして動いていたから。あいつからそれを奪い取ったら、何も、残らないような気がしてた。
だから、止めれなかった。契約という縛りから逃れる事ができないのは当然のことだけど、異世界から来たあいつにはその当然が効かなかったってだけだよな。
『ル・レヌラリィド? ラル・セイルレィド』
「……」
「おい、通訳通訳!」
黙ったままの獣魔をせっつくと、少し複雑そうな顔をして戸惑ったように口を開いた。
「……そなたの契約を解約しようか? 望めば、そこの者も」
「は!?」
右に左にくねくね動いているウヌディビティバルドゥが、まさかそんなこと言ってるのか!? 本当に!?
「おそらく、ウヌディビティバルドゥは好意で言っているのだと思う。契約者がいない契約は、ただの縛りで、無意味なものだ」
「そう、だけどよ……」
解約なんて、それこそ魔王や賢者、神と言われるウヌディビティバルドゥのようなすげぇ奴にしかできない。こんな機会を逃したら、きっと二度とできねぇんだろうな。
でも、な。
「ありがたい申し出だけど、俺はいいわ」
「いいのか?」
「あぁ。忘れたくないから。ってか、嘘だったって思いたくねぇからさ。あの子ん時みてぇに」
嘘だと、幻だったんだと、そう言われ続けてたあの子とは違うってこと。それはディーって言う存在と契約した事。それだけでも繋がりを残しておきたい。
……未練がましいって言われるかもしれないけどな。
いや、あー…でもな。
「たださ、アズラス来たときに理由説明するとき一緒にいてくれるとすっげぇ助かるんだけど、ダメか?」
「……ふっ」
そんなことか、と思わず苦笑した獣魔に特に言い返すことはできない。
いや、マヂで死活問題って言うか、怖ぇんだって。家にいる兄貴もだけど、アズラスが特に!
獣魔は、俺の意思をウヌディビティバルドゥに伝えてくれた。ウヌディビティバルドゥが大きく頷いたってことは、きっと伝わったんだと思う。
「ウヌディビティバルドゥもそれに付き合うらしい」
「マヂでか!? それ超助かる!」
と心強い味方がいるのはめっちゃ助かる……んだけど。
「なぁ、あんたはいいのか?」
「何がだ?」
「契約、解除してもらわなくて」
首輪についた契約の証を指し示しながら言うと、獣魔は少し不思議そうに首を傾げた。
そして、同じだ、とだけ言った。
「何が?」
「魔族、お前と同じだ。従属する相手がここにいなくとも、他の相手に仕えれるような器用な性格はしていない」
「……そっか。つか、忘れてたけど俺は魔族だけど、オルドビスって言うちゃんとした名前があるんだぜ? 獣魔」
「すまない。だが、俺にもスバルと言うマスターから貰った名前がある」
「んじゃ、これでおあいこだなっ!」
俺がそう笑い飛ばすと、スバルも肩をひょいとすくめて困ったように笑った。
ウヌディビティバルドゥも、どこか嬉しそうにくねくねと動いていた。
オルドビス、お前。神様よりも怖いのかアズラスを。
そのために神様ですら利用するのかなんてヤツ!
ウヌディさま信者がいたらはったおされるんじゃないか、とか思いました。
次でこの節はおしまいですよー




