04.喜びはツッコミをも凌駕する【Side彼女2】
『バヌル、ディルスドリア』
ぼうっと、魔方陣が輝いた。ざわざわと、空気が渦巻いて集まってくるのを感じる。
まるでテレビの中で見るCGっぽい出来事が、あたしの目の前で起きている。それがどこか信じられないような心地で、あたしは意味もなく息を止めた。
『ズゥイリア』
ウヌディさまが、大きく、何かを引っ張り上げるかのようにその小さな身体を伸ばした。ぐんと、勢いをつけて。
「!?」
ずずず、と重々しい音を立てて魔方陣から何かが出てくる。
固そうで四角くて、厚さはそんなになさそうで……って、あれ? 正直言っていい?
あのド○え○んのど○でもドアみたいなものなんですけれども。
違うのは、色くらい? 魔方陣に照らされてるからか、白がちょっと不気味に見える。
「これが、帰り道?」
「道ってかドアだよな……? ここから入ればいいんじゃねぇか?」
『ル・レスルレア。デルドゥ!』
「そなたはこの扉から行くといい。達者でな! と言っている」
「わ、分かった」
あたしはおそるおそるドアに近付いた。
魔方陣を踏んでもいいのか悩んだけど、踏まないと近くにいけないから、なるべく光ってる部分を踏まないようにしてドアノブをひねった。
ガチャリ、と音を立てて扉を開く。キィと、古びた音がした。
「わっ!?」
ぎゅごわあぁぁぁぁっ!!
「飛びこめっ!」
言われなくても分かってるから! て言うか、吸われてるからね! ドアの向こう側にっ!!
でも、ちょっと待って!
「ディー!」
ドアノブに捕まって、足を踏ん張らせて、ビスを見た。ぐいと、頬を持ち上げる。
「約束、伝えるから!」
「おぅ、ありがとな!」
「こっちこそ!」
叫ばないと、声が風でかき消される。でも、ちゃんと伝えた。きっと伝わってる。
あたしはそのまま視線を動かした。
猫耳としっぽをつけた不思議な獣魔・スバル。
ふざけたような姿だけど、実はこの世界の神様・ウヌディさま。
今はここにいないけど、今まで見たことないくらい美人な竜人族のアズラスさん。
それから、一番近くにいたお馬鹿で優しい魔族・ビス。
二度と戻ってくることはないだろうけど、いい経験で、言い思い出になると思う。
ありがとう、またねとは言えない。さよならなんて言えなくて、あたしは息をつまらせた。
ヤバいな、なんだか妙に涙腺が弱くないか。湿っぽい気持ちを吹き飛ばすように、大きく息を吸った。
「じゃあねっ!」
そして、手を離した。
ドアの向こう側に吸い込まれる。暗い空間に身体が包まれてくような感覚と共に落ちて行く。風をビュンビュン切りながら下へ下へと落下する。
やっぱり恐かったけど、ここまできてここまでやってそんなこと言ってられない。せめて、この不思議な世界から地球に無事帰れるように願って、くるくると遠くなっていく景色を眺めていた。
あぁでも、最後だからって、見なければ良かったなんて。ビスの悲しそうな顔が目に飛び込んできたからそんな薄情なこと思った。
「……忘れねぇからな、ディー…」
そう呟かれた声が聞こえたような気がした。
そんなの、反則だよ、馬鹿ビス……。
あぁ、もう泣いてもいいかな? 見てる人なんていないよね。
いつか会えるからさよならなんて言わないよ、なんて。そんな有名な言葉が通じるような相手じゃないんだから。
異世界なんてとんでもない場所に、そんな奇跡のようなことが起こるはずないんだから。
「の、っばか!うっ、ああああああああ……っ!!」
しゃくりあげて、うまく機能してくれない肺が重くて、あたしは思い切り声を上げて泣いた。
涙なんか流しても流しても、止まらないし、苦しくて、寂しい気持ちだって、消えてくれない。
ただ、二度と会うことなんてできない人たちと別れたことが、自分が思った以上にショックを受けていた。
涙は、しばらく止まらなさそうだ。でも、止めるつもりもなかった。
本当は帰り際にウヌディさまに向かって「でるどぅ(達者でな)!」って言いたかったんです。
でもディーが泣いちゃったので、できませんでした。
大丈夫これシリアスじゃないから。
本筋シリアスじゃないから安心してください基本的にゆるゆるなので!




