03.喜びはツッコミをも凌駕する【Side彼女】
「準備はできた。いつでもいい。と言っている」
スバルの横で、どや顔のウヌディさまがどこにあるのか分からないおそらく胸を張っていた。
ごめん、その顔ちょっとイラッとする。
でも、そんなウヌディさまの隣に、あたしにはよく分からない魔方陣が張られているってことは、確かに準備ができたってことなんだろうね。
「すげぇ……、さすがウヌディビティバルドゥ」
思わず、といった感じでビスがそう呟いていた。とりあえず、すごいってことなんだよね、きっと。
で、あたしがあそこの魔方陣に立つと帰れる的な展開だよね?
「ちなみに確認するけど、どうやって帰るの?」
「そりゃあの魔方陣使ってだろ? 見りゃわかんじゃねぇか」
「いや、念のため。なんか、ことごとく予想を裏切られてるから」
うん。まさか、こうもとんとん拍子に話が進むと疑いたくなるよね。
しかも、ウヌディさまに関してはことごとく予想外の展開ばっかだからね。
「……魔族、少し違う」
「あ?」
「魔方陣を使うのはその手段の一部。正しく言えば……」
ここでスバルは言葉を切って、少し言葉を探すように悩んだ。
え、何? 嫌な予感しかしないんだけど。
「落ちれば良い」
「は?」
今、なんて言った? 落ちるって、何?
「大抵の人間がこの世界に来る際……落ちてきている。だから、帰るときはその逆を辿る」
『ル・ディルソラ!』
「そなたが心配することではないと、ウヌディビティバルドゥも言っている」
「いやいや、それめっちゃ心配じゃね? いいのかディー?」
……やってきました。ビバ☆落ちる瞬間。
しかも、何というかものすごい不安しか残らない言い方とやり方。
「……本当に、大丈夫なの? 危なくない?」
「帰った後のことは分からない」
なんて無責任な! あたしに死んでほしいの!? 墜落死? 墜落死であたしの生涯が終わっちゃうの!?
正直に言うけど、あたし、ここ来るとき死ぬかと思ったんだからね! 地球でソレやられたら、コンクリートに叩きつけられて死んじゃうんだからねっ!?
もし仮に日本以外の場所、それこそアフリカとかに帰されてもあたし困るんだからねっ!? それこそ日本に帰れなくなる……っ!
『ディルソラ! ディルソラ!』
「心配ない、心配ない! と言っている」
「どこが!? 心配しないわけにはいかないんですが!?」
「……では、帰るのをやめるか?」
「わがまま言ってスミマセンでした、帰らせてください」
うん。まぁ、帰れればそれでいいよね。
後のことは考えないようにしよう! 帰れなくなるよりはましだもんね!
あっさり気分を切り替えて前向きに考えてみると、何かそこまで気にしなくても別にいっか、とか思えてしまう。
だって、重要なのは地球に帰れるってこと。
帰れるってすごいことだよね、ありがとうウヌディさま! ニョ○ニョ○みたいとか思ってごめんなさい、本当に。
「ディー、本当にいいのか?」
「大丈夫! なんか、今なら何が起こっても驚かない自信あるから! ほら行こう! さあ行こう! 今すぐ帰ろう!」
「なんつー現金な……」
「あいるびーばっくとぅざほーむ、ジャパーン!!」
妙にテンションが変な方向に傾いちゃった。こう、嫌いな英語で叫んでしまうくらいに。
近くでビスがドン引きしてるのが分かるけど、まぁ放っとこう。
「じゃ、お願いします」
「え?もう?」
ビスが意外そうな声を上げるけど、あたしとしてはかなり遅い方。今すぐに帰りたい。
「思い立ったが吉日。心が変わらないうちにさぁ行こう! じゃないと決意鈍るから」
「おい、ディー」
慌てたようにビスがあたしの腕をとった。顔に心配って書いてある。
あぁ、そっか。そういえばあたしのプライバシーとかないんだったっけ。感情、筒抜けなんだよね。
きっと、心の中に押し込めた恐怖とか不安とか、そう言うのも伝わってるんだろう。
帰れることが嬉しいと思うのは本当だけど、未知のことをやるってことは、やっぱり、恐い。
「ビス」
「なん……あだっ」
ぴんと、その妙に綺麗に整った額を指で弾いてやった。
白い肌に、ほんのりと赤く痕が残った。うんうん、ちょっといい気味。
「ビスが余計なこと心配しなくてもいいの。お馬鹿さんなんだから」
「おい、最後の一言余計じゃねぇ?」
「わざとだからいいの」
「おいこら、それどーゆう意味だよ!?」
あはははっと声に出して笑い飛ばした。
知ってるよ、ビスが本当にお馬鹿さんなんかじゃないってこと。短い間でも、人のことを思いやってくれる、優しい人だって。
まぁ、本気で馬鹿なんじゃないの? って思ったのも本音だけど。
「準備がいいなら、今すぐにでも出口を開けようか?」
「あ、ちゃっちゃと開けちゃってください」
「躊躇ねぇな。おい」
スバルがあたしの言葉をウヌディさまに伝えると、ウヌディさまは気持ち神妙な顔して大きく頷いた……ような気がした。
だって、どや顔で分かんないし、どこからが体かわかんないからね。
でも、あたしは感謝の気持ちを込めて、背筋をぴんと伸ばして、深々と頭を下げた。
「お願いします」
待って。
ちょっと待ってやっぱり心の準備をしたいので、還るシーンは明日!
明日にさせて下さい! そんな対したことないけれど、愛着はあるんです。
ひっひっふー! ひっひっふー!




