02.喜びはツッコミをも凌駕する【Side彼】
初めて見た。この世界の神を。
物語の中の存在だと思っていたから、信じられなかった、半信半疑だったって言うのが正直言った本音だ。
ウヌディビティバルドゥの存在を疑ってたわけじゃないけど、まさかこの姿でこんな奇妙な言葉を使うなんて思ってもみなかった。
『アリュニ、デパテスルチニ!』
「しばし待て、そなたを還す準備をする。と言っている」
ディーの意思は、聞くまでもねぇか。あんなに帰りたがってたわけだし。
ウヌディビティバルドゥはその細長い体を揺らしながら、よく分からない儀式を始めたらしい。
言葉にするとすっげぇ間抜けっぽく聞こえるけど、実際に見たらそんなもんじゃない。あの細長い体と、奇妙な顔のどこにこんなでかい魔力があるのかわかんねぇ。さすが神と言われるだけの存在だと思う。
俺の魔力までが引かれて、ごっそり持っていかれそうな気がした。
「すっげ。なんだこれ」
ふるふると手が震えた。
震えがとまらないのは、この得体の知れない神と呼ばれる存在が、強大な力を使おうとしているからだと思う。
「ねぇ、帰れるって。本当に帰れるんだよね?」
「たぶんな。信じてねぇのか? あんなに帰りたがってたのに」
「いや、もちろん帰りたいから帰るよ? 意地でも帰る。無理って言われても帰る!」
ディーはどこか興奮したようにばしばしと俺の肩を叩いた。て言うか、痛ぇよ。
「だって、あたしの帰る場所は地球だし!」
不意に、あの子の言葉を思い出した。
『もぅ、行かなくちゃ。お父さんとお母さんが心配してるから』
『君の世界に帰っちゃうの?』
『うん』
ディーが、あの子と同じ世界に帰る。
そう考えるだけで、少し寂しいと思った。出会ってから、数十時間……いや、一日二日は経ってると思うけど、なんかいろんなことが起きすぎている気がする。
なんか、ツッコミと言う新しいスキルが増えたり、休む暇なんかなかった気しかしねぇや。
「ディーの世界に帰るんだよな」
「あたしの世界と言うより、あたしが住んでいた場所って感じかな?」
そう言ってから、思い出したかのようにディーは手を打った。
「あ、そだ。契約もこれで解約だね。ボディーガードお疲れさま」
「は?」
……いったい何のことを言っているのか全然わかんなかった。
ぼでぃがーど? が何なのか聞くと、ほら契約したじゃん。と言われた。
もしかして、契約のことか? そう言えば、帰るまでとかなんとか言ってた気がしなくもないような……。
「は? じゃなくて。これ、外して」
「あー…、うん。……それやるよ」
「?」
ずいと突き出されたブレスレットを直視できない。
歯切れの悪い言い方なのも許して欲しい。
いや、だますようで悪いんだけど、契約ってのは簡単に解けねぇから……はずれないんだわ、これがまた。ディーに正直に言うとまた怒るだろうから言わねぇけど。
じゃなくて。
「あのな、ディー」
「……な、何? 急に改まられると怖いんだけど」
「おい、人が真剣な話をしようとしてるのにそりゃねーだろ」
疑るような目で見るな、おい。話ずらいだろーが。
俺は深く深呼吸して、真っ直ぐにディーの黒い瞳を見つめた。
「あのな、俺が小さいとき、出会った女の子がいるんだ」
「はぁ、女の子……。やっぱロリコンか」
「お前それから離れろよ」
そんな不名誉な称号はいらないからな。つか違うからな。
「ディーと同じ黒髪黒目で、獣魔の話から、きっとディー同じ世界の人間なんだと思う」
「前にウヌディさまから帰してもらった子、のことだよね?」
ちらりとウヌディビティバルドゥを見ると、なにやら不思議な踊りを踊っているかのようにくねくねと体を揺らしていた。
あんなことで魔力が渦巻いてるもんだからすげぇよな、色々。
「そう。俺、その子と約束をしたんだ。大切な人は自分が気付かないくらい近くに居るから、今度会うときまでに絶対見つけるって」
本当は、そしたらまたあの歌を謡ってくれるって約束したんだけどな。
「見つかったんだ?」
「あぁ、俺には目付け役のアズラスも、不幸にも同じ顔で生まれた双子の兄貴もいるしな。なんやかんやで、やっぱ大切な奴だし」
って、こんな照れくさいこと本人たちの前では言えねぇけど。
「なら、約束守れたからいいんじゃない?」
「まあな。……だからさ、もしディーが元の世界で、仮にその子と会えたなら……、伝えてくれねぇか?」
「約束守ったよって? あたしの住んでる世界、何億人も人間いるのに?」
「だから、もし! 仮にの話だって!」
あのなぁ、夢のないこと言うなよな。
俺の、大切な思い出打ち明けたんだから。
「はいはい、分かってる。もし会えたら、の話でしょ? 会えたら伝えるって、約束する」
「約束、な」
にっと、不適に笑ったディーの頭を照れ隠しでぐしゃぐしゃと撫でると、痛い! と悲鳴にも似た抗議を浴びせられた。そう言えば、ぶつけたんだっけ? 悪い、忘れてた。
そんなこんなで、ディーにまた愚痴愚痴言われていると、獣魔のスバルが俺たちを呼んだ。
怒涛の展開ですが、まぁ、気にしない方向で。
ホームシックになる主人公を書きたくないんですよ、そこに付け込みたくなるので。
『賽投』の方は、強制的に帰れない仕様ですが、自分が書くトリップものは基本的に甘いです。ホームシックになんかかけてあげない!




