03.異世界なら全て良し【Side彼】
ぎょっとしたように大声で叫んだディーに、獣魔は煩わしそうにぴくりと耳を動かしていた。
てかうるせぇよ。そんなに驚くようなことでもねぇだろ。
「いや何言っちゃってんの!? 神様とか何!? いや、もう魔族とか猫が人間になるって時点で普通を求めるの諦めたけど、でもちょっと神様って何!?」
「落ち着けよディー。なんでそんなに動揺してんだ?」
「だって神様だよ神様!」
「マスターは神がなんなのか分からないのか? 神とはこの世界を作ったもののことだ」
「冷静な解説をありがとうスバル。でも神様展開はないでしょ!?」
ただひたすらに神様神様と連呼してるディーは、動揺と言うか疑ってるって言うか……なんか混乱してるみたいだ。
ぐるぐると感情がざわめいて落ち着かねぇんだけどな。
「ディー、頼むから落ち着けって。俺魔力制御できる自信ねぇ」
「なんでっ!?」
「なんでって、何度も言ったじゃねぇか。お前の感情は直接俺の魔力に影響与えるって」
「……そんなこと、確かに言ってたかも」
ぎゅうと胸元を押さえて静かに言うと、ディーは何回か深呼吸を繰り返してごめんと呟いた。
無理やり落ち着かせたんだろうから、きっと納得いってねぇんだろうなとか。
そんなことなんとなく思ったけど……俺説明苦手だから、納得させることとかできねぇんだろうな。
「マスターは、何が知りたい?」
獣魔のスバルが、静かに口を開いた。
「一つずつ、納得いく答えを返す。だから、一つずつ俺に聞くといい」
「……じゃあ」
俺に説明させるよりも分かりやすそうだもんな。
おそるおそると言った感じで口を開いたディーは、少し悩んだように考え込んだ。
「その、ウヌディなんとかさま」
「ウヌディビティバルドゥ」
「そう、そのウヌディさまって神様なんだよね?」
「この世界の神だ」
その神の名を簡単に略して言うか普通。と言うツッコミは心でするとして。
「さっきスバルの契約ってウヌディさまを目覚めさせるものって言ったじゃん? なんで? 神様って眠ってるものなの?」
「……」
スバルは困ったように俺を見た。
どうしてそんな子どもでも知ってることすら知らないのか、って顔だよな。
あ、そう言えば知らねぇんだっけ。
「あ、こいつ一応異世界の人間らしいんだわ。そんでもって、SSランクの人間」
「異界の人間?」
「そう。地球って言う世界から、落ちてきたらしいんだよね。スバルは地球って、知ってる?」
まぁ、知るわけないよね。とディーはすぐに否定したけど、スバルは少し考えるように黙り込んだ。
……これはもしや、まさかの展開なのか……?
「スバル?」
「……知っている、かもしれない」
「「はあっ!?」」
まさかと予想していた言葉を悩んだように言われたもんだから、俺とディーは思わず声をあげた。
まさかのまさかかよ。いやいやいや、それはないだろって言うか、なんでこうもディーの都合のいいような展開になるんだ!?
「正しく言えば、聞いたことはあるような気がするだが……」
「いつ!? どこで!?」
「ずっと前、この場所で」
「ここでぇっ!?」
そんなに叫んで疲れねぇのかとか思うんだけどな。
スバルは少し悩んだように宙を見つめた後、ディーの半分くらいの大きさを示した。
「ちょうどこれくらいの、マスターと同じような黒髪の人間の子どもから聞いた。ウヌディビティバルドゥを最後に見たときだから、間違いないと思う」
「そ、その子って、今」
「ずっと前の話だ。今はもういない。人間の寿命は短いのだから」
「……そっか……」
ディーが明らかに残念そうに肩を落とした。
いや、そんなのどうでもいい。そんなことよりも重要なのは……
「黒髪に黒い瞳の、人間の……女の子、だよな?」
「そうだ」
「その子、ここに、いたんだよな……?」
「ビス?」
搾り出すように言った俺に、スバルは不思議そうに頷いた。
あぁ、やっぱりそうだったんだ。どこか確信めいたものを感じた。
「やっぱり、あの子はちゃんといたんだ……」
たったそれだけのことが無性に嬉しくて、こみ上げてきたものを耐えるように、俺はぎゅっと目を閉じた。
一人の男の子が悲しそうな顔をしていた。
「……歌。あの子の、声の歌……」
誰の声も聞かないで、涙を溜めて求めていた。
あどけない顔には少し立派すぎる金朱の瞳を揺らして、嫌々と駄々をこねていた。
「約束したんだ。また、歌ってくれるって……」
自分自身に言い聞かせるように口にするが、声が震える。
頼りなさそうに揺れる瞳と、力強く握り締められた小さな拳が、その男の子の不安な心情を表していた。
「約束、したんだ……」
その時の様子を今でも思い出せる。
何度も何度も夢に見た。それくらい大切な出来事。
どれだけ年を重ねても忘れることがないように、忘れないように鮮やかに残っている記憶。
俺がまだ小さいときに出会った人間の女の子。知らない場所で一人取り残されて泣いていた俺に、聞いたこともない不思議な歌を歌って慰めてくれた子。
大切な人は自分が気付かないくらい近くに居ると言って、今度会うときまでに絶対見つかると何の確証もないのに笑っていた。
そんな人が見つかったら、またあの歌を謡ってくれるって約束したから、必死で捜した。
ずっとずっとその子を捜していた。
周りからは、黒髪の人間なんかいないと言われて、幻だと、夢だったんだと否定された。
俺だって、そうだったかもしれないと諦めかけてた。
でも、ディーに出会えた。
それだけで、もしかしたらって。
もしかしたら本当にその子はいるんじゃないかって思えた。
「約束、守ってくれるんだろ……」
スバルの言葉に、約束が果たされるかもしれないと思えば、なんともいえない感情が胸を締め付けた。
涙が流れるかと思った。
大丈夫、基本的に予想は裏切らないタイプです。
どんでん返しは好きですが、安心して読みたいクチなので。
フラグとか余裕で折って欲しいとか、いっつも願ってます。
それでもって、この話でシリアスがそう長く続く事はありません。




