↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
79/95

第78話 「夕方の公園――揺れる時間と帰り道」


夕方の光は、昼のそれよりもずっと柔らかい。


公園の砂場や遊具の輪郭を、ゆっくりとオレンジ色に染めていく。


風は少しだけ涼しくなり、子どもたちの声もどこか穏やかになっていた。


⸻


ブランコの軋む音。


滑り台を滑る小さな歓声。


砂場で型を作っては崩す、繰り返しの遊び。


その中心にいるのは桜(さくら)だった。


⸻


「見て見て!できた!」


桜は砂で作った小さな山を誇らしげに見せる。


菫(すみれ)はベンチから少し身を乗り出す。


「上手にできたわね」


⸻


榮助(えいすけ)はその横で静かに頷く。


「形が安定していますね」


⸻


桜は褒められるたびに、また走り出す。


滑り台へ。


ブランコへ。


砂場へ。


⸻


その姿を、二人はほとんど同じように目で追っていた。


言葉は少ない。


だが視線はずっと桜の方向に向いている。


それが自然な距離になっていた。


⸻


⸻


少しだけ風が強くなる。


桜がブランコを降りたタイミングで、榮助が小さく立ち上がる。


「少し失礼します」


⸻


菫が振り向く前に、榮助は隣へ一歩近づく。


⸻


そして、ほんの短く距離を詰めた。


⸻


菫の肩にかかる髪が、わずかに揺れる。


次の瞬間、榮助は軽く唇を重ねる。


⸻


短いが、はっきりとした“濃いめのキス”。


⸻


菫は一瞬で目を見開く。


「……っ、ちょっ……!」


⸻


だが声を出しきる前に、榮助は一度だけ離れる。


そして何事もなかったように桜の方へ視線を戻す。


⸻


その数秒後。


⸻


「ママとお兄ちゃん、キスしてる!」


⸻


桜の声が公園に響く。


⸻


菫は一気に顔を赤くする。


「さ、桜……!」


⸻


立ち上がろうとする菫の手を、榮助が軽く制するように握る。


そしてもう一度、短く距離を詰める。


⸻


今度は先ほどよりも少しだけ長い。


⸻


菫の呼吸が一瞬止まる。


⸻


ようやく離れたとき、榮助は静かに菫の方を見る。


そして何も言わず、視線だけを菫のお腹へ落とす。


⸻


確認するように、そっと。


⸻


「……問題ありませんね」


⸻


菫は小さく息を整える。


「あなたは本当に……」


⸻


言葉にならないまま、視線を逸らす。


⸻


榮助は淡々と続ける。


「では、そろそろ帰りましょうか」


⸻


⸻


ベンチから立ち上がる。


夕方の光が三人の影を長く伸ばす。


⸻


桜はまだ少し興奮したまま駆け寄る。


「お兄ちゃん!もう帰るの?」


⸻


榮助は自然に抱き上げる。


「はい。そろそろです」


⸻


桜は抱っこされたまま、まだ少し笑っている。


「さっきのキス、びっくりした!」


⸻


菫は後ろから小さくため息をつく。


「桜……忘れて」


⸻


「えー、なんでー?」


⸻


榮助はそのやり取りを見ながら、何も言わない。


ただ静かに歩き出す。


⸻


公園の出口へ。


マンションへ続く道へ。


⸻


夕方の光の中で、三人の影がゆっくりと重なっていく。


⸻


桜は抱っこされたまま、少し眠そうに目を細める。


菫はその横を歩きながら、まだ少し顔の熱を引きずっている。


⸻


榮助はただ前を見ている。


まるでそれが、最初から決まっていた帰り道であるかのように。


⸻


夕方は静かに終わっていく。


何事もなかったように。


だが確かに、少しだけ距離の近い時間として。  



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。