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第67話 「秘書課に集う“家族と過去”」


秘書課フロアは、しばらく静まり返っていた。


だがその静けさは、いつもの業務的なものではない。


“理解が追いついていない静寂”だった。


⸻


千星穂波(ちほし ほなみ)、山本彩香(やまもと あやか)、朝倉秋晶(あさくら あき)。


そして朝倉怜奈(あさくら れいな)。


⸻


GRT48の過去と現在、そして龍雷神の現実が同じ空間に並んでいる。


⸻


その中で、榮助(えいすけ)はまだ状況を整理しきれていなかった。


(……情報量が多すぎる)


⸻


その時だった。


⸻


「秋晶」


⸻


静かな声がフロアに響く。


⸻


振り向いた秋晶の視線の先にいたのは――母親。


朝倉怜奈(あさくら れいな)。


⸻


怜奈はゆっくりと歩み寄る。


「来てたのね」


⸻


秋晶は少しだけ気まずそうに笑う。


「うん、仕事のついでっていうか……」


⸻


怜奈は軽くため息をつきながらも、目は柔らかい。


「相変わらず忙しいわね」


⸻


その様子を見ていた秘書課の数人が、小さくざわつく。


(あの人が怜奈さん……?)


(自動車部の……)


⸻


怜奈は周囲を一度見渡し、そして榮助を見る。


「あなたが柿沼くんね」


⸻


榮助は一礼する。


「はい」


⸻


怜奈は短く頷き、そして言った。


「この場で改めて説明しておくわ」


⸻


空気が引き締まる。


⸻


「穂波と秋晶は双子」


⸻


一瞬、誰も動かない。


⸻


怜奈は続ける。


「でも苗字はそれぞれ違う」


「私は離婚しているからね」


⸻


淡々とした言葉。


だがそこに重さはない。


むしろ“事実として整理された家族”だった。


⸻


「でも関係は切れていない」


「今でも普通に家族としてやっている」


⸻


秋晶が軽く笑う。


「ね、ママってそういうとこ適当だけどちゃんとしてるんだよね」


⸻


穂波は少し困ったように笑う。


「……慣れました」


⸻


そのやり取りに、榮助は小さく息を吐く。


(本当に“普通じゃない普通”だな、この会社)


⸻


⸻


その時――


秘書課の扉が再び開く。


⸻


「お疲れ様です」


⸻


入ってきたのは健二郎(けんじろう)と第一秘書・島津向葵(しまず あおい)。


⸻


向葵は一瞬、固まる。


(え……この状況……?)


⸻


彩香は軽く微笑み、健二郎に声をかける。


「お疲れ様です。仕事どうですか?」


⸻


健二郎は一瞬だけ驚いた顔をするが、すぐに普段の調子に戻る。


「……いや、まさか社長夫人が秘書課にいるとは思わなかったな」


⸻


そして軽く肩をすくめる。


「でもまぁ、ここはそういう会社だからな。普段通りでいい」


⸻


彩香は少し安心したように笑う。


「ありがとうございます」


⸻


⸻


健二郎は美枝子に書類を渡す。


「これ、最終確認」


⸻


美枝子は受け取りながら頷く。


「了解」


⸻


その後、健二郎は向葵に視線を向ける。


「島津」


⸻


向葵は姿勢を正す。


「はい」


⸻


健二郎は少しだけ柔らかい声になる。


「今日はもう上がっていい」


⸻


「え……?」


⸻


向葵は驚く。


「まだ業務が……」


⸻


健二郎は静かに首を振る。


「今日はいい。休め」


「こういう日は、無理に残るな」


⸻


少しの沈黙の後――


向葵は小さく頭を下げる。


「……ありがとうございます」


⸻


そして荷物をまとめ始めた。


⸻


⸻


その様子を見ていた彩香が、ふと健二郎に声をかける。


「健二郎さん」


⸻


「はい?」


⸻


彩香は軽く笑う。


「お疲れ様です。仕事どうですか?」


⸻


健二郎は一瞬目を細める。


「……それ、さっきも聞かれた気がするな」


⸻


そして小さく笑う。


「まぁ、悪くない」


⸻


⸻


向葵が先に退室する。


「お先に失礼します」


⸻


健二郎は軽く手を上げる。


「おう」


⸻


⸻


その後、健二郎も歩き出す。


⸻


だが扉の前で一度だけ立ち止まり、振り返る。


⸻


「彩香さん」


⸻


「はい?」


⸻


健二郎は短く言う。


「社長室行くぞ」


⸻


彩香は少しだけ驚いたあと、微笑む。


「了解です」


⸻


そして自然に健二郎の後ろへ続く。


⸻


⸻


その光景を見て、榮助は思う。


(この会社、本当に“上下関係”が独特すぎる)


⸻


だが同時に感じていた。


⸻


“家族”と“仕事”が、同じ線の上に存在している会社だと。


⸻


⸻


秘書課の扉が閉まる。


⸻


ざわつきは少しずつ収まり、再び業務の音が戻る。


⸻


だがその日――


誰もが理解していた。


⸻


この会社は、もうただの組織ではない。


⸻


“人間関係そのものが仕事の一部”なのだと。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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