第66話 「交差する記憶――芸能と会社の境界線」
龍雷神・秘書課フロア。
午前の空気は、いつも通り静かに流れていた。
書類をめくる音、パソコンのキー音、短い指示のやり取り。
その中で――
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榮助は、思わず足を止めた。
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「……え?」
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視線の先にいたのは、ただの来客ではなかった。
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秘書課の入口に立つ女性。
落ち着いた佇まい。
だがその存在感は、明らかに“普通の来客”ではない。
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山本彩香
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龍雷神社長・黄金の妻。
そして――
元GRT48グループ0期生。
総選挙10年連続1位という“伝説のセンター”。
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その姿を見た瞬間、
秘書課の空気が一段階変わる。
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菫も手を止める。
「……あの人が」
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美枝子が小さく息を吐く。
「来たのね……彩香さん」
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彩香は穏やかに周囲を見渡し、
そして一人の女性へ歩み寄った。
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千星穂波。
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穂波は一瞬、固まる。
「……え」
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彩香は柔らかく笑う。
「久しぶり、穂波ちゃん」
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その声を聞いた瞬間、
穂波の表情が揺れた。
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「……あ、彩香さん……?」
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榮助はその様子を見て、驚きを隠せない。
(知り合いなのか……?)
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彩香は穂波の前に立つ。
「覚えてる?昔、ステージで一緒に踊ったよね」
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穂波はゆっくり頷く。
「……はい」
「でも……顔は……すみません、今は少し……」
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彩香はすぐに察するように微笑む。
「いいのよ」
「声、ちゃんと覚えてるから」
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その言葉に、穂波の肩の力が少し抜ける。
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彩香は続ける。
「相貌失認のこと、聞いてるわ」
「でもね、あの頃から穂波ちゃんは変わってない」
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「“人をちゃんと見ようとしてる”ところ」
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穂波の目が揺れる。
「……ありがとうございます」
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その会話を遠くで見ていた榮助は、静かに呟く。
「……すごい人だな」
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菫が小さく頷く。
「龍雷神の“頂点の家族”ですからね」
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その時――
秘書課の扉が再び開く。
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「失礼します!」
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勢いよく入ってきたのは、若い女性。
凛とした目つき。
芸能人特有の存在感。
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朝倉秋晶
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現役GRT48メンバー。
そして――
芸能音楽部門・芸能俳優女優部の両方に関わる立場を持つ存在。
さらに、
朝倉怜奈の娘。
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秋晶は周囲を見渡し、軽く手を振る。
「ママ来てるって聞いて来た!」
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視線の先には怜奈。
そしてその隣には彩香。
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「彩香さんもいるんですね……!」
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彩香は少し驚きながら微笑む。
「秋晶ちゃん、大きくなったわね」
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榮助はその光景を見て、思わず呟く。
「……これ、会社の中ですよね?」
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菫は少しだけ笑う。
「龍雷神では、よくある光景です」
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穂波はまだ少し戸惑いながらも、
周囲の“繋がり”を感じていた。
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過去(GRT48)
現在(龍雷神)
そして家族
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それらが、同じ空間で交差している。
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彩香は穂波にそっと言う。
「ここはね、もう“ステージ”じゃないの」
「でも、人と人が繋がる場所なのは同じよ」
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穂波は小さく頷いた。
「……はい」
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その瞬間、榮助は理解する。
(この会社……)
(ただの企業じゃない)
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“人の過去と現在が同時に動く場所”だと。
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そしてその日、秘書課には新しい空気が生まれた。
穂波、彩香、秋晶。
それぞれの立場が交わりながら――
物語はまた一段、深く動き始める。
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