第65話 「再会――過去と現在が交差する場所」
鎌倉旅行から数日後――
龍雷神の社内は、再び“日常”へと戻っていた。
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だが、その日。
ひとつの“新しい流れ”が、静かに動き始めていた。
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■午前――秘書課
菫はいつものように、美枝子の隣で資料整理をしていた。
「このスケジュール、午後に変更入る可能性あります」
「分かったわ、差し替え用も用意しておいて」
「はい」
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そのやり取りの最中、秘書課の扉がノックされる。
コンコン――
「失礼します」
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入ってきたのは、一人の女性だった。
黒髪を後ろでまとめ、落ち着いた雰囲気。
だがどこか、空気の“見え方”が違う。
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「……あの、配属の件で来ました」
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美枝子が顔を上げる。
「あなたが……今日から来る人ね」
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菫も視線を向ける。
その瞬間――
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(……この人)
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どこか、普通と違う“感覚”を感じた。
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女性は軽く頭を下げる。
「千星穂波です」
「よろしくお願いします」
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■千星穂波
・元GRT48メンバー
・現在は無職から再就職活動中
・そして――
先天性相貌失認(人の顔を認識できない)を持つ女性
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美枝子が優しく言う。
「事情は聞いてるわ。無理しなくていい」
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穂波は少し戸惑いながら答える。
「……ありがとうございます」
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その様子を見ていた菫が、ゆっくり立ち上がる。
「私は柊木菫です」
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穂波は一瞬、視線を泳がせる。
「……すみません」
「顔で覚えるのが苦手で……」
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菫は少しだけ微笑む。
「大丈夫ですよ」
「声で覚えてください」
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その一言に、穂波の表情が少しだけ柔らかくなる。
「……はい」
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■同時刻――自動車部
朝倉怜奈は、整備資料を確認していた。
「この車両、次の試験走行いつ?」
部下が答える。
「午後三時予定です」
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怜奈は頷く。
「分かった。私も確認入る」
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その横顔には、仕事人としての強さがあった。
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彼女は――
現役GRT48メンバー・朝倉秋晶の母親。
そして、美枝子の“元同僚”でもある。
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■昼休み――秘書課
穂波は一人で座っていた。
少しだけ緊張している様子。
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そこへ榮助が資料を持って入ってくる。
(健二郎の第二秘書としての業務)
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「……あの」
穂波が声をかける。
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榮助は振り向く。
「はい?」
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穂波は少し迷いながら言う。
「さっき……声、聞きました」
「多分……あなたが柿沼さんですよね?」
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榮助は少し驚く。
「……そうです」
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穂波は小さく頷く。
「覚えました」
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その言葉は、ゆっくりだが確かだった。
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榮助は静かに答える。
「よろしくお願いします」
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■その頃――
菫は自席でその様子を見ていた。
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(あの人……)
(何か、特別なものを抱えてる)
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そして、自分の腹にそっと手を当てる。
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(三人の命……)
(そして新しく出会う人たち)
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会社という場所は、ただの仕事場ではない。
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人と人が交差し、
過去と現在が重なり、
未来へと繋がっていく場所。
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■夕方――
秘書課の空気は少しだけ変わっていた。
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穂波が来たことで、
“新しい流れ”が生まれていた。
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そしてそれは、
やがて――
榮助と菫の物語にも、
静かに関わっていくことになる。
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