第64話 「次の約束――仕事と家族、その先へ」
鎌倉からの帰り道。
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夕暮れの光が、車内を静かに染めていた。
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桜は後部座席でぐっすり眠っている。
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前方――
ハンドルを握るのは菫。
助手席には榮助。
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後ろの車には、柿沼家と柊木家の大人たち。
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その中で――
少し離れた場所。
サービスエリアの一角。
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健二郎と斗真は並んで立っていた。
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自動販売機の横。
人の流れから少し外れた場所。
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健二郎が缶コーヒーを開ける。
「……一息つくか」
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斗真も同じように缶を開ける。
「そうですね」
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しばらく無言。
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遠くで子どもの声。
車のエンジン音。
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その中で――
健二郎が口を開いた。
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「今回の旅行……悪くなかったな」
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斗真は素直に頷く。
「ええ。正直、ここまで自然にいくとは思っていませんでした」
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健二郎は小さく笑う。
「最初はどうなるかと思ったがな」
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「はい……立場もありますし」
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斗真の言葉に、健二郎は軽く首を振る。
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「だが、もう関係ない」
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一瞬の沈黙。
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健二郎は続ける。
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「……家族だからな」
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その一言は、静かだが重かった。
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斗真はゆっくりと頷く。
「……はい」
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そして健二郎は、少し視線を遠くに向ける。
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「……次の話だ」
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斗真が反応する。
「次、ですか?」
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「今回みたいに、またどこか行こうと思ってな」
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斗真は少し考える。
「どちらへ?」
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健二郎は短く答える。
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「富山と石川だ」
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その地名に、斗真は少し驚く。
「北陸ですか」
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「ああ。連休を使ってな」
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健二郎は続ける。
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「今回みたいに、仕事を一度切って……」
「しっかり休んでから、また集中する」
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「そういう区切りは必要だ」
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斗真は静かに聞く。
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健二郎の言葉には、
ただの提案ではなく――
“生き方”が含まれていた。
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斗真が口を開く。
「……分かりました」
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そして続ける。
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「確か、お盆の時期でしたよね?」
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健二郎は頷く。
「ああ、そのあたりだ」
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「予定は調整できます」
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「なら決まりだな」
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短い会話。
だが、それで十分だった。
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少しして――
美枝子と鳴海がこちらに歩いてくる。
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「二人とも何話してるの?」
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健二郎が答える。
「次の旅行の話だ」
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鳴海が目を細める。
「まあ、もう次?」
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美枝子が笑う。
「いいじゃない。楽しいことは多い方が」
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その会話を少し離れた場所から見ていた菫。
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榮助が隣に立つ。
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「……何か話してますね」
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「次の旅行みたいです」
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菫は少し驚く。
「もう次ですか」
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榮助は自然に言う。
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「いいと思います」
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その言葉に、菫は少しだけ笑う。
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「……そうですね」
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視線の先には――
両家の大人たちが並んでいる。
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その距離は、
もう“他人”のものではなかった。
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そして――
車へ戻る時間。
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桜はまだ眠っている。
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榮助はそっと抱き上げる。
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「起きないな」
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「いっぱい遊びましたから」
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菫はその様子を見て、
静かに思う。
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(……この時間、続いていくんだ)
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鎌倉の旅は終わる。
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だが――
次の約束は、もう決まっている。
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それはただの旅行ではない。
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“家族が続いていく証”だった。
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