第63話 「二日目の朝――近づく距離と、それぞれの未来」
鎌倉・二日目の朝。
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旅館の窓から差し込む光は、どこか柔らかかった。
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昨日の喧騒とは違う、静かな始まり。
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■和室(榮助・菫・桜)
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一番最初に目を覚ましたのは――榮助だった。
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(……静かだな)
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隣を見る。
桜は布団の中で丸くなって眠っている。
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そのさらに隣――
菫も、穏やかな寝顔で眠っていた。
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榮助は少しだけ身体を起こす。
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そして、そっと菫の方へ視線を落とす。
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(……守らないといけないもの、増えたな)
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静かに息を吐く。
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その時――
「……ん……」
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菫がゆっくりと目を開ける。
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「……おはようございます」
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榮助は小さく笑う。
「おはようございます」
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短い沈黙。
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そして自然に、距離が近づく。
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軽く触れるようなキス。
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菫は少しだけ頬を赤くする。
「……朝からですか」
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「今しか出来ないので」
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その言葉に、菫は小さく笑った。
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■朝食会場
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全員が揃う。
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和朝食が並ぶ。
・焼き魚
・味噌汁
・漬物
・卵焼き
・ご飯
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桜は元気いっぱい。
「おはよう!」
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「おはよう、桜ちゃん」
鳴海が笑う。
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健二郎が湯呑を持ちながら言う。
「今日はどうする?」
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智恵子が答える。
「小町通りとかどうですか?」
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燈子が乗る。
「いいね、食べ歩きできるし!」
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玲子も頷く。
「桜ちゃんも楽しめるね」
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桜は目を輝かせる。
「行きたい!」
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自然と決まる予定。
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それがもう“家族の空気”だった。
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■小町通り
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観光客で賑わう通り。
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甘い匂い、焼き物の香ばしさ、人の声。
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桜は榮助の手を引く。
「お兄ちゃん!あれ食べたい!」
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「どれだ?」
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「おだんご!」
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榮助は笑う。
「分かった」
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その様子を、少し離れた場所から菫が見ていた。
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(……ああいうの、自然にやるんだな)
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母としてではなく、
“隣にいる人”として見てしまう瞬間。
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鳴海と美枝子は並んで歩く。
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「いい子ね、榮助くん」
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「ええ……昔からああなんです」
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「菫、安心してますよ」
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美枝子は少しだけ微笑む。
「そうなら、よかったわ」
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一方――
斗真と健二郎。
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少し後ろを歩きながら。
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「……仕事の話になりますが」
斗真が切り出す。
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「いいぞ」
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「IT・システム部の開発案件ですが、来期からAI導入を本格化させる予定です」
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健二郎が頷く。
「営業側としても必要だな」
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「ええ。データ分析の精度が変わります」
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少し間。
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健二郎がふと笑う。
「……だが今日はやめておくか」
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斗真も苦笑する。
「そうですね」
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「今は家族だ」
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「……はい」
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その一言で、空気が変わる。
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■昼過ぎ・休憩
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ベンチに座る一同。
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桜はすでに少し疲れている。
「つかれた……」
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榮助が抱き上げる。
「無理するな」
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菫が隣に座る。
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「大丈夫?」
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「はい。少しだけ」
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榮助は自然に言う。
「今日はもう無理しないで帰りましょう」
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菫は頷く。
「……そうですね」
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そのやり取りを見ていた智恵子が小さく呟く。
「ほんと、夫婦よね」
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燈子と玲子が頷く。
「うん」
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「完全にそう」
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■帰路
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夕方。
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車の中。
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桜はすでに眠っている。
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静かな空間。
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菫が小さく言う。
「……楽しかったですね」
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榮助が答える。
「はい」
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少しだけ間を置いて――
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「……家族ですね」
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菫は、その言葉を聞いて――
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静かに微笑んだ。
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「ええ」
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旅は終わる。
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だが――
日常は続く。
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そしてその日常は、
もう“ただの隣人”ではない。
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