第62話 「旅館の夜――それぞれの距離、それぞれの本音」
鎌倉の夜。
静けさに包まれた老舗旅館――
「鎌倉 花月楼」
木造の廊下、畳の香り、やわらかな灯り。
その空間の中で――
二つの家族は初めて“同じ屋根の下”に揃っていた。
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■大広間・夕食
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長い座卓に並ぶ料理。
・刺身の盛り合わせ
・天ぷら(海老・ししとう・茄子)
・鎌倉野菜の炊き合わせ
・鯛の塩焼き
・茶碗蒸し
・釜炊きご飯
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「……すごい」
桜が目を輝かせる。
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鳴海が笑う。
「桜ちゃん、いっぱい食べてね」
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「うん!」
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榮助は静かに箸を取る。
隣には菫。
その表情はどこか落ち着いていた。
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健二郎が口を開く。
「こうして全員揃うのは初めてだな」
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斗真が頷く。
「そうですね……仕事の関係では何度もありますが、家族としては初めてです」
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少しだけ、空気が柔らぐ。
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美枝子が微笑む。
「でも、こうして顔を合わせてみると……不思議と違和感はないですね」
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鳴海も笑う。
「ええ、本当に」
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その言葉に、菫は少しだけ安心したように息を吐いた。
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■温泉(男女別)
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夕食後。
一同はそれぞれ温泉へ。
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■男湯
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湯気の中。
健二郎と斗真、榮助が並ぶ。
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「……いい湯だな」
健二郎が呟く。
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斗真が頷く。
「ええ……久しぶりにゆっくりできます」
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榮助は少し緊張しながらも湯に浸かる。
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健二郎がふと榮助を見る。
「どうだ、仕事は」
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「……少しずつ慣れてきました」
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斗真が笑う。
「秘書課に異動してすぐですからね。大変でしょう」
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榮助は素直に答える。
「はい。でも……やりがいはあります」
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健二郎が静かに頷く。
「それでいい」
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少し間が空く。
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斗真が口を開く。
「……健二郎さん」
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「なんだ」
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「会社では立場がありますが……こうして家族になった以上、少し砕けてもいいですか」
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健二郎は短く笑う。
「むしろその方がいい。仕事は仕事、家族は家族だ」
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斗真は少し肩の力を抜く。
「……ありがとうございます」
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健二郎が続ける。
「それに、お前とは話が合いそうだ」
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「車、でしたよね」
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「あとゴルフとスポーツだな」
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斗真が笑う。
「全部同じですね」
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健二郎も笑う。
「今度一緒に行くか。もちろん会社抜きで」
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「ぜひ」
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榮助はその会話を静かに聞いていた。
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“家族になったんだ”
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その実感が、ゆっくりと広がっていた。
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■女湯
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一方――
美枝子、鳴海、智恵子、菫、燈子、玲子。
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「はぁ……いいお湯ね」
美枝子が肩まで浸かる。
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鳴海が笑う。
「本当に。仕事の疲れが抜けますね」
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智恵子がちらりと菫を見る。
「菫、体調は?」
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「大丈夫です。無理しないようにしてます」
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燈子が言う。
「でも三人だよ?ほんとすごいよね」
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玲子も頷く。
「しかも桜ちゃんもいるし……大変になるね」
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菫は少し笑う。
「うん……でも、楽しみでもある」
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鳴海が優しく言う。
「一人で抱えなくていいのよ」
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美枝子も続ける。
「そう。家族なんだから」
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菫は小さく頷いた。
「……ありがとうございます」
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智恵子が少し意地悪く笑う。
「それにしても、榮助とあんた、ほんとに仲いいわよね」
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燈子と玲子が笑う。
「それは間違いない」
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「見てて分かるもん」
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菫は顔を少し赤くする。
「……そんなことないです」
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全員が笑った。
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■夜・和室
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風呂上がり。
それぞれの部屋へ。
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■柿沼家×柊木家(榮助・菫・桜)
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畳の部屋。
布団が並べられている。
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桜はすでに眠そうだった。
「……ねむい……」
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「今日はいっぱい歩いたからな」
榮助が優しく頭を撫でる。
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「うん……」
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そのまま桜は眠りについた。
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静かな時間。
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榮助はゆっくりと菫の隣に座る。
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そして――
そっとお腹に耳を当てる。
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「……元気か」
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菫が小さく笑う。
「まだ聞こえないと思いますよ」
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「それでもいいです」
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その言葉に、菫は少しだけ頬を緩める。
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■別室(健二郎×斗真)
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酒を飲みながら。
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「……いい息子だな」
斗真が言う。
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健二郎は短く答える。
「まだこれからだ」
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「いや、あれはもう大丈夫ですよ」
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「……そうか」
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グラスが静かに鳴る。
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■別室(美枝子×鳴海)
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「菫、幸せそうね」
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「ええ……本当に」
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「榮助が支えてるのがよく分かるわ」
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「お互い様ですよ」
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■別室(智恵子×燈子×玲子)
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「三つ子とかヤバくない?」
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「絶対大変だよね」
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「でも楽しそうじゃない?」
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笑いが絶えない。
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■22:00
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それぞれの部屋で静かに時間が止まる。
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明日のために――
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携帯を見て、
少し話して、
そして眠りにつく。
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旅はまだ続く。
そして――
家族という関係も、少しずつ深まっていく。
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