第60話 「鎌倉――家族が交わる日」
朝。
鎌倉駅前。
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人の流れはゆったりとしていて、どこか観光地らしい穏やかな空気が流れていた。
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榮助たち柿沼家は、駅前の広場で立ち止まっていた。
桜はすでに楽しそうに周囲を見渡している。
「お兄ちゃん!人いっぱいだね!」
「そうだな。今日はいっぱい歩くぞ」
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その時――
向こうから一組の家族が歩いてくる。
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菫の両親と、燈子と玲子。
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「……来たな」
榮助が小さく呟く。
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菫が一歩前に出る。
「お父さん、お母さん」
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柊木斗真が静かに頷く。
「久しぶりだな、菫」
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その隣で、鳴海が微笑む。
「桜ちゃん、大きくなったわね」
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桜は少し恥ずかしそうにしながらも、
「おばあちゃん、ひさしぶり!」
と笑顔を見せた。
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燈子と玲子はすぐに桜の元へ。
「桜ちゃん抱っこさせてー!」
「はいはい、順番ね〜」
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その光景に、場の空気が一気に柔らぐ。
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そして――
菫は一度、全員を見る。
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「……改めて、言うね」
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静かに息を吸う。
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「私……妊娠してるの」
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一瞬の静寂。
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鳴海の目が優しく細まる。
「……そう」
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斗真は短く頷く。
「よく話してくれた」
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その言葉は、決して大げさではない。
だが、確かに受け止めている重さがあった。
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榮助は一歩前に出る。
「自分が責任を持って守ります」
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斗真は榮助を見る。
数秒の沈黙。
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そして――
「……顔を見れば分かる」
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それだけだった。
だが、それで十分だった。
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その後、一行は鎌倉の街へと歩き出す。
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■鶴岡八幡宮
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長い参道と大きな鳥居。
鎌倉を代表する神社で、源頼朝ゆかりの歴史ある場所。
勝運や仕事運のご利益でも知られている。
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「広いね……」
桜が目を丸くする。
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鳴海が笑う。
「ここはね、昔の武士たちもお参りしてた場所なのよ」
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その隣で、美枝子も話に入る。
「仕事運もいいって言われてるのよ」
「じゃあ榮助、しっかりお参りしないとね」
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「はい……」
榮助は少し苦笑する。
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その後、さらに歩く。
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■鎌倉大仏(高徳院)
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高さ約11メートルの巨大な仏像。
青空の下に佇むその姿は、静けさと迫力を同時に感じさせる。
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桜は思わず声を上げる。
「でっかい!!」
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燈子が笑う。
「これが鎌倉の大仏だよ〜」
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玲子も頷く。
「中にも入れるんだよね」
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その少し離れた場所で――
榮助と斗真が並んで歩いていた。
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「……どうだ、会社は」
斗真が静かに聞く。
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「まだ覚えることばかりです」
榮助は正直に答える。
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「そうか」
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短い返事。
だがその後、少しだけ続ける。
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「菫は昔から無理をするタイプだ」
「お前が支えろ」
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榮助は迷わず答える。
「はい」
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その少し後ろ。
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健二郎と斗真が並ぶ。
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「柊木さん」
健二郎が声をかける。
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「はい、柿沼取締役」
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その呼び方に、健二郎は軽く笑う。
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「もう家族なんだから、そんなに畏まらなくていい」
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斗真は少しだけ間を置く。
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「……では、健二郎さん」
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「それでいい」
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健二郎は続ける。
「IT・システム部の開発エンジニア課だったな」
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「はい」
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「現場はどうだ」
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「人材は揃っています。ただ、案件が増えすぎている」
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健二郎は頷く。
「分かる。龍雷は広がりすぎてる」
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少しだけ、仕事の顔になる二人。
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だが――
健二郎がふっと表情を緩める。
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「でも今日は仕事の話はここまでだな」
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斗真も小さく頷く。
「そうですね」
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その頃――
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鳴海と美枝子は並んで歩いていた。
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「菫、昔からああなのよ」
鳴海が少し笑う。
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「責任感が強いのね」
美枝子も頷く。
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「でも、いい人に出会えたわね」
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「ええ、本当に」
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二人は自然と笑い合う。
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前方では――
燈子と玲子が桜を交互に抱っこしていた。
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「桜ちゃん軽い〜」
「もうすぐお姉ちゃんだもんね?」
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「うん!三人もいるんでしょ!」
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その言葉に、全員が少しだけ笑った。
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鎌倉の街。
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家族という形が、少しずつ、確実に広がっていく。
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そして――
まだ見ぬ三つの命もまた、その中に含まれていた。
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