↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
59/96

第59話「前夜――鎌倉へ向かう準備」


夜は静かに深くなっていく。


だがその静けさの裏側で、柊木家と柿沼家の時間は、確実に“明日”へ向かっていた。


⸻


柊木家のリビング。


菫(すみれ)は旅行バッグの中身を確認していた。


・母子手帳

・軽い羽織り

・桜(さくら)の着替え一式

・常備薬

・小さなタオル類


必要最低限に見えて、その一つひとつが“今の生活”そのものだった。


「……忘れ物はないはず」


小さく呟く。


⸻


桜はすでにテンションが高い。


「鎌倉って海あるの?」


「あるよ」


「お寺もある?」


「ある」


「じゃあ全部あるね!」


単純な結論に辿り着いて満足そうに頷く。


菫は少しだけ笑った。


その笑いには、最近増えた“余裕”が混じっていた。


⸻


同じ頃。


榮助(えいすけ)の部屋。


スーツケースはすでに整えられている。


・着替え(2日分)

・仕事用タブレット

・簡易資料

・桜用の軽いお菓子

・菫用の飲み物(無糖系)


必要なものを淡々と詰めていく。


動きに迷いはない。


それはもう“仕事”ではなく、“家族行動”として成立していた。


⸻


スマホが鳴る。


木更津瑛二(きさらづ えいじ)から。


『明日・明後日、完全オフ扱いにしてある』


短い連絡。


榮助は一言だけ返信する。


『ありがとうございます』


それだけで終わる。


⸻


秘書課フロア。


夜の残業はすでにほとんど終わっている。


美枝子(みえこ)は椅子に座りながら書類を閉じる。


「明日は朝から出発ね」


菫は頷く。


「はい」


美枝子は少しだけ微笑む。


「鎌倉、悪くない場所よ」


「行ったことは……あまりありません」


「そういうのは“初めて”がいいのよ」


その言葉には、少しだけ母親のような響きがあった。


⸻


同じ頃。


健二郎(けんじろう)は別室で書類を確認していた。


そこへ美枝子が入ってくる。


「準備は?」


「問題ない」


短い会話。


だがその裏には、“会社の旅行”ではなく“家族の外出”という空気があった。


⸻


夜。


柊木家に戻ると、桜はすでに眠気と戦っていた。


「ママ……明日……海……」


「うん、行くよ」


その言葉を聞いて安心したのか、すぐに眠ってしまう。


⸻


菫は桜の布団を整えながら、少しだけ立ち止まる。


(本当に、行くんだな……)


鎌倉。


会社の人間も含めた“家族旅行”。


昔の自分なら想像しなかった形の休日。


⸻


リビング。


榮助が静かに言う。


「明日は早いので、もう休みます」


菫は少しだけ頷く。


「うん」


その声は、いつもより柔らかい。


⸻


そして——


一瞬だけ沈黙が落ちる。


⸻


菫が小さく息を吸う。


「……おやすみ」


そう言って、軽く唇を寄せる。


昨日よりも短い、けれど確かなキス。


それは“緊張”ではなく、“安心”に近いものだった。


⸻


榮助は静かに返す。


「おやすみなさい」


⸻


二人はそれぞれの部屋へ戻る。


ドアが閉まる音は、もう慣れたリズムになっていた。


⸻


明日。


鎌倉。


家族という形のまま、少しだけ外へ出る日。


その前夜は、静かに終わっていく。  



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。