↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
56/93

第56話「朝の気配と、変わり始めた日常」


朝は、いつも通りに来る。


けれど最近の柊木家と柿沼家では、その“いつも通り”が少しずつ形を変えていた。


⸻


薄い光がカーテンの隙間から差し込む。


菫(すみれ)が目を開けたとき、隣の布団はもう整えられていた。


(……また先に起きてる)


リビングからは、かすかな生活音。


水の音、包丁の音、炊飯器の作動音。


それがもう、この家の“朝の標準”になっていた。


⸻


菫がゆっくりとキッチンへ向かうと、榮助(えいすけ)はすでに朝食を整えていた。


動きは静かで、無駄がない。


・味噌汁(豆腐とわかめ)

・焼き鮭

・卵焼き(甘さ控えめ)

・雑穀米(少量)


以前よりも、完全に“習慣化された食卓”になっている。


「おはようございます」


榮助の声は落ち着いている。


菫は軽く頷く。


「……おはよう」


そのやり取りだけで、朝の空気が整う。


⸻


桜(さくら)が目をこすりながらリビングに入ってくる。


「ママ……おはよう」


「おはよう、桜」


桜はすぐに菫のお腹を見る。


「赤ちゃん、起きてる?」


その言葉に、菫は少しだけ間を置く。


「たぶんね」


「“たぶん”ばっかり!」


桜は頬を膨らませる。


榮助が静かに補足する。


「まだ見えないからな」


桜は納得したように頷く。


「じゃあ、起きてることにする!」


菫は小さく笑った。


その笑いは、以前より自然だった。


⸻


朝食中。


テレビではニュースが流れている。


企業合併、芸能ニュース、スポーツ移籍。


しかしこの家では、どれも遠い世界の話のように流れていく。


桜がスプーンを動かしながら言う。


「今日もお兄ちゃん、会社?」


「はい」


「ママも?」


菫は少しだけ頷く。


「うん」


桜は少しだけ不満そうにする。


「ずっといればいいのに」


その一言に、菫は一瞬だけ言葉を止める。


榮助が静かに言う。


「働かないと、守れないからな」


桜は首を傾げる。


「守る?」


菫が優しく答える。


「桜とか、赤ちゃんとか」


桜は納得したように頷く。


「じゃあ、いいよ!」


その単純な理解が、逆にこの家庭のバランスを支えていた。


⸻


出勤準備。


菫は鏡の前で軽く身だしなみを整える。


妊娠が分かってから、服の選び方も少しずつ変わっている。


締め付けない、動きやすいもの。


美枝子(みえこ)の言葉を思い出す。


『“無理しない見た目”も仕事のうちよ』


その意味が少しずつ分かってきていた。


⸻


榮助はスーツのネクタイを整えながら言う。


「今日は桜の迎え、私が行きます」


菫は軽く振り向く。


「ありがとう」


その一言だけで、朝の負担が少し軽くなる。


⸻


玄関。


桜が靴を履きながら元気に言う。


「いってきまーす!」


菫と榮助が同時に答える。


「いってらっしゃい」


声の重なり方が、少しだけ家族になっていた。


⸻


扉が閉まる。


その瞬間だけ、家は静かになる。


菫は一度だけ息を吐く。


「……今日も始まった」


小さくそう呟いて、出勤準備を続ける。


榮助も同じく、無言でネクタイを締める。


⸻


それぞれが別の場所へ向かう。


だが、同じ“生活の線”の上にいる。


⸻


この朝は、まだ何も起きていない。


けれど確実に、何かが積み重なっている朝だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。