第48話 「秘書課異動――揺れる社内と“静かな再配置”」
三つ子の存在が分かってから、数日。
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会社の空気は、表面上はいつも通りだった。
だが——小さな違和感だけが、確実に積み重なっていた。
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そしてその日。
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榮助は呼び出された。
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営業サポート課・課長室。
櫻井隆義は、淡々と書類を置く。
「決まった」
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榮助は一礼する。
「……何がでしょうか」
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隆義は短く言う。
「異動だ」
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一瞬、空気が止まる。
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「秘書課へ行ってもらう」
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榮助の目がわずかに動く。
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「秘書課……ですか」
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隆義は頷く。
「会社判断だ。理由は“組織再編”」
「だが実質はサポート業務の拡張だと思え」
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榮助は少しだけ間を置いてから答える。
「分かりました」
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その声に迷いはない。
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同じ頃。
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経理部会計課。
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菫もまた呼ばれていた。
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上司・北条恵子は書類を見ながら静かに言う。
「あなたも異動になるわ」
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菫はすぐに顔を上げる。
「……どこへですか?」
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「秘書課」
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その瞬間、菫の呼吸が一拍だけ止まる。
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「……榮助と、同じですか?」
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恵子は一瞬だけ視線を外し、頷く。
「そうなるわね」
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社内の噂が一気に動くのは、ここからだった。
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営業サポート課、経理部、総務部——
あらゆる部署で小さなざわめきが生まれる。
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「え?あの二人、同時に秘書課?」
「偶然にしては出来すぎじゃない?」
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だが誰も“核心”には触れない。
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秘書課。
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そこは会社の中枢。
そして——榮助の母・美枝子がいる場所。
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さらにその裏では、
櫻井隆義と木更津瑛二が、静かに調整を進めていた。
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隆義は言う。
「異動は事実として扱え」
「だが個人的事情には触れるな」
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瑛二も頷く。
「了解している」
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そして北条恵子もまた同じ立場を取っていた。
「菫は守るべき人材よ」
「余計な詮索は潰すわ」
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それは“偶然の異動”ではなく、
明確に整えられた配置だった。
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数日後。
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秘書課。
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榮助が初めてそのフロアに足を踏み入れる。
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空気が違う。
静かで、鋭く、情報の密度が高い場所。
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そこに——母・美枝子の姿があった。
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「……榮助?」
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美枝子の声は、驚きよりも確認に近い。
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榮助は軽く頭を下げる。
「お世話になります」
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同時に。
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少し離れた場所から菫も現れる。
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その瞬間、
秘書課の空気が一瞬だけ変わる。
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「……柊木さんも?」
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誰かが小さく呟く。
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だが、すぐに静まる。
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美枝子は二人を見て、ほんのわずかに目を細める。
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(同じ場所に来たか……)
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だがそれ以上は言わない。
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そしてその日から。
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榮助と菫は、
同じ部署で働きながら——
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会社では“完全に他人”として振る舞う生活が始まった。
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だがその裏では、
すでに家族としての現実が、静かに膨らみ続けていた。
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