第41話 「日常の中の非日常――秘密が形になる日」
朝。
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会社のビルは、いつも通りに人を飲み込んでいく。
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エレベーター、打刻音、資料の束。
何も変わらない朝に見える。
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だが、その内部では確実に“配置”が変わっていた。
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営業サポート課。
榮助はデスクに座り、淡々と作業を進めていた。
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木更津瑛二が通りかかり、軽く声をかける。
「体調の方は問題ないか」
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榮助は顔を上げる。
「はい。問題ありません」
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瑛二は一瞬だけ目を細める。
「無理するなよ。“家庭”の方もあるだろ」
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その言葉は、遠回しだったが核心を突いていた。
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榮助は短く答える。
「ありがとうございます」
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その少し後。
経理部会計課。
菫はいつもより少しゆっくりと資料を整理していた。
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北条恵子が声をかける。
「今日は本当に無理しないでいいからね」
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菫は軽く頭を下げる。
「ありがとうございます」
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(“隠している”というより、“静かに守られている”)
そんな感覚が少しずつ芽生えていた。
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昼休み。
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社内のカフェスペース。
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偶然のように、しかし必然のように、
榮助と菫は同じ時間に同じ場所へ来ていた。
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桜の話を少しするだけの短い会話。
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だが、その中に“夫婦としての距離”が確かに存在している。
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その様子を、
遠くから見ていた社員たちは気づかない。
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いや、気づけないようにしている。
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午後。
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営業サポート課。
新しい案件の資料が回ってくる。
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その中には芸能部門との連携案件も混ざっていた。
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“龍雷音楽部アイドルプロジェクト”
“スポーツ部スカウト契約管理”
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榮助は淡々と処理する。
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しかしその裏で、
会社全体が巨大な一つの生態系のように動いていることを実感する。
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夕方。
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退勤時間。
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榮助が会社を出ると、
すでに空は少しだけ橙色に傾いていた。
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マンション。
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エントランス。
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そこには偶然のように、
菫と桜が立っていた。
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桜は榮助を見つけると走ってくる。
「お兄ちゃん!」
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榮助は自然に抱き上げる。
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菫は少しだけ微笑む。
「お疲れ様です」
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その一言は、
もう“隣人”ではなく、
確実に“家族”の響きになっていた。
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夜。
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食卓。
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桜が笑いながら話す中、
榮助と菫は静かに視線を交わす。
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何も言わない。
でも、何も隠さない。
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そのバランスの上で、
この家族は少しずつ完成していく。
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