第37話 「家族会議――静かに現実へ向かう昼休み」
昼休み。
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営業サポート課の休憩室。
いつもなら雑談やスマホの音が混ざる時間帯。
だが今日は違っていた。
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榮助は弁当を手に持ったまま、足早に移動していた。
向かう先は——社内の小さな会議室。
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(ここでいい)
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そう判断して、ドアを開ける。
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中にはすでに3人が揃っていた。
柿沼健二郎(父)
柿沼美枝子(母)
柿沼智恵子(姉)
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仕事中のはずなのに、
この空間だけは“家”の空気に近い。
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健二郎が腕を組んで言う。
「で、榮助。何の話だ」
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美枝子も少しだけ真剣な表情。
「ただの相談じゃなさそうね」
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智恵子は資料を机に置きながら軽く息を吐く。
「珍しいわね、あんたがグループLINEで“相談”なんて」
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榮助は一度だけ深く頭を下げる。
そして、言葉を選びながら話し始める。
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「菫さんの体調についてです」
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一瞬、空気が止まる。
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健二郎が目線を上げる。
「……体調?」
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榮助は続ける。
「今朝から、少しだるさがあって」
「眠気が強くて」
「吐き気のような症状もあって」
「あと……食欲も少し変化があるようで」
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智恵子がすぐに反応する。
「それ、完全に初期症状の可能性あるわね」
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美枝子も静かに頷く。
「時期的にも、ちょうど2週間なら……あり得るわ」
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健二郎が腕を組んだまま言う。
「検査はしたのか」
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榮助は首を横に振る。
「まだです」
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少しの沈黙。
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そのあと、榮助は少しだけ声を落とす。
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「正直に言うと……」
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「どうすればいいか分からなくて」
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その言葉は、珍しかった。
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いつもは判断を迷わない榮助が、
“分からない”と言った。
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智恵子が少しだけ椅子に寄りかかる。
「まぁ、そうなるわよね」
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「初めてなら尚更」
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美枝子が優しく言う。
「まずは落ち着きなさい」
「まだ確定じゃない」
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健二郎が低い声で続ける。
「ただし、もし本当なら対応は早い方がいい」
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「相手は会社でも重要な立場だろう」
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榮助は小さく頷く。
「経理部会計課の北条さんには、すでに休みを伝えてもらっています」
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智恵子が少し驚いた顔をする。
「ちゃんと動いてるじゃない」
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美枝子が少し微笑む。
「あなた、昔からそういうところは真面目よね」
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健二郎は短く言う。
「で、榮助」
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「お前はどうしたい」
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その一言で、空気が変わる。
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榮助は少しだけ間を置いて答える。
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「守りたいです」
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「もしそうなら……ちゃんと責任を持ちたいです」
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智恵子が小さく笑う。
「責任って、随分重い言い方するわね」
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榮助は続ける。
「でも、それしか思いつきません」
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美枝子は静かに頷く。
「いいと思うわ」
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健二郎が少しだけ目を細める。
「なら、やることは一つだな」
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榮助が顔を上げる。
「はい」
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健二郎ははっきり言う。
「確認だ」
「まず検査」
「結果が出てから動く」
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智恵子が補足する。
「会社のことは私が調整するわ」
「最悪、業務負担も減らせる」
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美枝子も頷く。
「菫さんには無理させないで」
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榮助は深く頭を下げる。
「ありがとうございます」
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健二郎は最後に一言だけ。
「家族として動け」
「会社の前に“人”だ」
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その言葉で、会議は終わった。
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昼休み終了。
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榮助は一人で弁当の蓋を閉じる。
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(まだ確定じゃない)
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(でも、もう“準備する段階”には入っている)
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会社のざわめきに戻りながら、
榮助の中だけは静かに次の段階へ進んでいた。
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