第35話 「変わらない朝と、少しだけ増えた約束」
朝。
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カーテンの隙間から差し込む光が、リビングをゆっくり明るくしていく。
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「おはよー!」
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桜の声は、昨日とまったく同じ温度だった。
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菫は髪をまとめながらキッチンに立ち、
榮助は水を飲みながらその様子を見ている。
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「今日は公園、だっけ?」
桜がスプーンを持ったまま聞く。
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「そうですよ」
菫が答える。
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「やったー!」
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榮助は小さく頷く。
「いい天気ですね」
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窓の外は、雲の少ない青空。
休日の朝らしい静けさがある。
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準備は早い。
桜はすぐに着替え終わり、靴を持って玄関へ向かう。
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菫はバッグを確認しながら、
ふと榮助を見る。
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「……昨日より、慣れてますね」
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榮助は少しだけ考えてから答える。
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「少しだけです」
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菫は小さく笑う。
「それくらいがちょうどいいかもしれませんね」
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公園。
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芝生の広場。
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桜はすぐに走っていく。
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「見ててー!」
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ブランコ、滑り台、砂場。
忙しく動き回る姿。
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榮助はベンチに座り、その後ろ姿を見ている。
菫は隣に座る。
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しばらく、無言。
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でも気まずくない。
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むしろ、自然。
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菫がぽつりと言う。
「こういう時間、昔はあんまりなかったんです」
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榮助が少しだけ横を見る。
「そうなんですか」
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菫は頷く。
「仕事と、桜のことで精一杯で」
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「“誰かと一緒に来る公園”って、久しぶりで」
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榮助は少しだけ考えてから言う。
「これから増えます」
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菫は一瞬だけ驚く。
でもすぐに、目を細める。
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「……そうだといいですね」
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その会話の間も、桜は全力で遊んでいる。
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笑い声が風に混じる。
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昼。
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近くのベンチで軽い食事。
コンビニで買ったサンドイッチと飲み物。
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桜は「おいしい!」と満足そう。
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菫は少しだけ肩の力を抜いている。
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榮助も同じものを食べている。
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「こういうのも悪くないですね」
菫が言う。
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榮助は頷く。
「はい」
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午後。
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少し疲れた桜は菫の膝でうとうとし始める。
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その様子を見て、榮助は自然と声を落とす。
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「眠いですね」
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菫は小さく笑う。
「いっぱい遊びましたから」
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静かな時間。
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公園の音だけが遠くで続いている。
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菫が小さく言う。
「榮助さん」
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「はい」
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「このまま、続くんですかね」
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榮助は少しだけ考える。
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桜を見る。
菫を見る。
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そして答える。
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「続けます」
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短い言葉。
でも迷いはない。
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菫は少しだけ目を閉じる。
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「……じゃあ、大丈夫ですね」
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その声は、どこか安心していた。
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夕方。
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三人で帰る道。
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桜は半分寝ながら歩き、
榮助と菫がそれを支えるように並んでいる。
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昨日よりも少しだけ自然に、
今日よりも少しだけ近く。
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その“少しずつ”が、この家族の形になっていった。
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