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第33話 「戻った日常――少しだけ変わった距離」


玄関の扉が閉まる音。



外の喧騒が消えて、いつもの静かな部屋に戻る。



桜は靴を脱ぎながら、そのままリビングへ走っていく。


「つかれたー!」



菫が後ろから声をかける。


「ちゃんと手洗いしてからね」



「はーい!」




榮助はその様子を見ながら、ゆっくり靴を揃える。



(戻ってきた)



外の“家族らしさ”と、


この“部屋の中の現実”。



その境界が、今日は少し曖昧だった。




キッチン。



菫は買ってきた荷物を整理している。


榮助も自然と手伝う。



無言のまま並んで動く時間。




「今日……」


菫がぽつりと言う。



榮助が振り向く。


「はい」




「普通でしたね」




その一言に、少しだけ間ができる。



榮助は考えてから答える。



「普通、でしたね」




菫は小さく笑う。



「こういうの、普通って言うのかな」



榮助は少しだけ視線を落とす。



「分からないですけど」



「悪くないです」




その言葉に、菫は何も言わない。


ただ、少しだけ表情が柔らかくなる。




リビング。



桜はテレビを見ながらソファに寝転がっている。


完全に安心しきった顔。



その姿を見て、菫がつぶやく。


「今日はよく寝そうですね」



榮助も同意する。


「疲れてますね」




夜が近づく。



桜はそのまま眠ってしまう。


ソファの上で小さく丸くなる。



菫は毛布をかける。



その動作を見て、榮助は少しだけ立ち尽くす。



(この光景が)



(もう当たり前になってきてる)




キッチンの灯りだけが残る。



菫と榮助、二人だけ。




「今日」


菫が静かに言う。



「楽しかったですね」



榮助は少し間を置く。



「はい」



「また行きたいです」




菫は少しだけ驚く。



でもすぐに頷く。



「いいですね」




沈黙。



でも気まずくはない。



むしろ、落ち着いた空気。




菫はコップを洗いながら言う。


「こういうの……慣れないけど」



榮助が続ける。


「そのうち慣れます」



菫は少し笑う。


「慣れたくないような気もします」




榮助はその言葉に少しだけ考えて、



「じゃあ、今のままでいいです」




菫は手を止める。



一瞬だけ、振り返る。



(この人は)



本当に、“今”を大事にしている。




夜。



桜は眠り続ける。



二人は並んで座る。



テレビはつけていない。



ただ静かに同じ空間にいる。




言葉は少ない。


でも距離は近い。




「今日は」


菫が小さく言う。



「少しだけ……家族っぽかったですね」




榮助は頷く。



「はい」




そして、静かに答える。



「これからも、そうなりたいです」




菫はすぐには返さない。



でも、少しだけ目を細める。




「……いいですよ」




その一言だけで、夜の空気は十分だった。 



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