第32話 「休日の光――外の世界に触れる三人」
マンションの外に出た瞬間、空気が少しだけ変わる。
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休日の住宅街。
車の音、人の声、遠くの子供の笑い声。
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それだけのはずなのに、
三人で歩くと“特別な場所”に見えた。
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桜は榮助の手をしっかり握っている。
もう片方は菫の手。
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「ねぇねぇ!どこ行くの?」
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「決めてないけど、楽しいところ」
榮助は少しだけ考えながら答える。
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菫が横で小さく笑う。
「ざっくりすぎますね」
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「すみません」
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いつものやり取り。
でも今日はどこか柔らかい。
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電車に乗る。
窓際の席。
桜は外の景色に釘付けだ。
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ビル、川、通り過ぎる駅。
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その横で菫は少しだけ落ち着かない。
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(外で三人で……)
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まだ慣れない。
でも、嫌ではない。
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榮助は静かに座っている。
けれど視線は時々、二人に向かう。
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(これでいいのか)
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(いや、これがいいのか)
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答えはまだない。
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ショッピングモール。
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到着した瞬間、桜のテンションが上がる。
「すごい!おっきい!」
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手を引っ張られるように中へ。
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菫が少し慌てる。
「走らないの」
「はーい!」
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榮助はその後ろを歩く。
少し遅れてついていく形。
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フードコート。
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桜はハンバーグセットを嬉しそうに食べる。
菫はサラダとコーヒー。
榮助は少し迷ってラーメン。
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「こういうの、久しぶりですね」
菫がぽつりと言う。
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「家以外で三人で食べるの」
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榮助は頷く。
「……いいですね」
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桜は口いっぱいに頬張りながら笑う。
「おいしい!」
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その声だけで、周りの空気が少し明るくなる。
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食後。
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屋上の広場。
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桜が走る。
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「まてー!」
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榮助が少しだけ追いかける。
菫はその様子を見ながらベンチに座る。
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(……普通の家族みたい)
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その言葉が、ふと頭に浮かぶ。
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でもすぐに打ち消す。
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(まだ、違う)
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(でも……近い)
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榮助が戻ってくる。
少し息を切らしている。
「元気ですね」
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菫が笑う。
「あなたも負けてますよ」
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そのやり取りに桜が割り込む。
「ねぇ、次どこいく?」
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夕方。
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買い物を終え、帰り道。
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三人で歩く影が長く伸びる。
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桜は少し疲れているのか、菫に寄りかかる。
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榮助はその横を歩く。
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静かに、でも確かに同じ方向へ。
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マンションに戻る頃には、
空は少しだけオレンジ色になっていた。
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ドアの前。
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菫が鍵を開ける。
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その瞬間、桜が言う。
「今日たのしかった!」
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榮助は少しだけ間を置いて答える。
「俺も」
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菫も静かに頷く。
「私もです」
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それだけで十分だった。
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扉の向こうには、
またいつもの家がある。
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でも今日は少しだけ違う。
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“家族として外を歩いた日”のあとに続く、
静かな夜が待っていた。
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