第31話 「はじめての外――“家族”として歩く日」
朝。
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休日の空気は、いつもより少しだけ遅い。
保育園も休み。
仕事もない。
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つまり今日は——
三人が揃って動ける日だった。
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桜は朝から元気だった。
「おでかけ!おでかけ!」
クローゼットを開けて、自分で服を選ぼうとしている。
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菫はその様子を見ながら微笑む。
「今日はちゃんと手伝うのよ」
「はーい!」
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その少し後ろ。
榮助はリビングで立っていた。
普段のスーツではない。
私服姿。
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(……こういうの、久しぶりだな)
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会社でも学校でもない時間。
“家族として外に出る”という感覚。
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桜が部屋に入って着替え始める。
その間、リビングには菫と榮助だけが残る。
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少しだけ静かになる空間。
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菫が振り向く。
「今日、どこ行くんですか?」
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「まだ決めてないです」
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榮助は少し考えてから続ける。
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「でも……一緒に出かけたいなって」
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菫は一瞬だけ目を伏せる。
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(“一緒に”)
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その言葉が、少しだけ胸に残る。
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榮助は静かに一歩近づく。
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声を落とす。
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「昨日はありがとうございました」
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菫が顔を上げる。
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その意味は、すぐに分かる。
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榮助は続ける。
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「ようやく……子供ができるの、楽しみです」
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菫の呼吸が一瞬止まる。
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まだ朝の光の中で、
その言葉だけが少しだけ重い。
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「……榮助さん」
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言いかけたその瞬間——
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榮助は菫の唇にキスをした。
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静かで、でも確かなもの。
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逃げる時間を与えないほど自然に。
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菫は少しだけ目を閉じる。
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(この人は……)
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迷いがない。
でも、押しつけでもない。
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ただ“進んでいる”。
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桜の声が奥から聞こえる。
「できたー!」
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現実に引き戻されるように、
二人はゆっくり離れる。
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菫は小さく息を整える。
「……準備、しましょうか」
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榮助も頷く。
「はい」
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そのあと三人は出かける準備を進める。
桜ははしゃぎ、
菫は荷物を整え、
榮助はその様子を少し離れて見ている。
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(これが“外”か)
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家の中とは違う世界。
でも隣には、同じ人たちがいる。
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そして——
ドアが開く。
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休日の光の中へ。
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三人で初めて、
“家族として外へ出る一歩”を踏み出した。
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