第25話 「支え合い――言葉にした想いと、夜の距離」
夜。
食卓を囲む三人。
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「いただきます」
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今日も変わらない光景。
だが、その中で——
榮助は少しだけ考えていた。
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(……言うか)
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箸を置く。
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「……菫さん」
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「ん?」
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少しだけ真面目な声。
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「偶にでいいので」
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「仕事が落ち着いてる日とかは……」
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「桜の送り迎え、俺やってもいいですか」
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一瞬、時間が止まる。
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菫の手が止まる。
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「……え?」
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予想していなかった言葉。
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その隣で——
「ほんと!?」
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桜がすぐに反応する。
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「おにいちゃんがきてくれるの!?」
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「……ああ」
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「やったー!」
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椅子の上で小さく跳ねる。
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菫はその様子を見ながら、
少しだけ戸惑っていた。
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「……でも、仕事は?」
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「無理な日はやらないです」
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「できる日だけでいいので」
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静かな声。
でも、はっきりしている。
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「……」
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菫は少しだけ考える。
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(この人は……)
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無理に踏み込んでこない。
でも、確実に“関わろうとしている”。
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「……じゃあ」
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小さく息を吐く。
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「お願いする日もあるかも」
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「はい」
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榮助は短く答える。
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桜は満面の笑み。
「おにいちゃんといっしょー!」
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少し空気が柔らかくなる。
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その流れで——
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「あと」
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榮助が続ける。
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「弁当なんですけど」
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「……はい」
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「偶には、俺も作ります」
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「え?」
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今度は菫が驚く番だった。
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「そんな大したものじゃないですけど」
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「ミルフィーユ鍋とか」
「厚焼き卵とか、だし巻きとか」
「ハンバーグとか」
「サンドイッチとか……」
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淡々と並べる。
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「簡単なやつですけど」
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「菫さんの分も作るので」
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その言葉。
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菫は一瞬、言葉を失う。
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(……この人)
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“してもらう側”じゃない。
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“一緒にやる側”に立とうとしている。
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「……無理しなくていいのに」
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「無理してないです」
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即答だった。
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「やりたいだけなんで」
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少しだけ沈黙。
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桜がぽつりと言う。
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「ママ、おにいちゃんやさしいね」
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菫は小さく笑う。
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「……そうだね」
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その夜。
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桜を寝かしつける。
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「おにいちゃん、またね」
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「おう、また明日」
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静かに灯りが落ちる。
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リビング。
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二人きり。
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「……お風呂」
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菫が小さく言う。
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「入りますか」
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榮助も頷く。
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浴室。
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湯気が立ち込める空間。
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言葉は少ない。
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隣にいる距離。
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榮助はふと視線を向ける。
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菫の存在を、しっかりと感じる。
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(……守りたいな)
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自然にそう思う。
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そのまま、そっと抱き寄せる。
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強くではない。
でも確かに。
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「……」
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少しだけ驚く菫。
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榮助は小さく呟く。
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「……好きです」
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その言葉。
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菫の頬が、わずかに赤くなる。
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少しだけ視線を逸らす。
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でも——
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「……ありがとう」
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短い言葉。
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それでも十分だった。
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会社では距離がある。
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触れられない。
話せない。
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だからこそ——
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ここでは、
少しだけ距離が近い。
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菫はそっと寄り添う。
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(……ここくらいは)
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(甘えてもいいよね)
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静かな夜。
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二人の距離は、
ゆっくりと、
確実に縮まっていった。
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