↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
24/51

第24話 「課長室――見抜かれているものと、守られる距離」


朝。


変わらない流れ。



柊木菫はキッチンに立ち、手際よく弁当を作っていた。


・ささみの照り焼き(少し甘め)

・だし巻き卵

・きんぴらごぼう

・ブロッコリー



「きょうも?」


桜が眠そうに聞く。


「うん、今日も」



もう“特別”ではなくなっている。


それが、少しだけ自然だった。




榮助もいつも通り家を出る。


隣へ寄り、弁当を受け取る。



「行ってきます」



軽く、しかし確実に唇が触れる。



「行ってらっしゃい」



桜の「がんばって!」を背に、


榮助は会社へ向かった。




龍雷本社――営業サポート課。



午前の業務。


榮助は資料整理と入力作業をこなしていた。



「そこ、フォーマット揃えろ」


木更津の声。



「はい」



手を止めずに修正する。



その様子を、少し離れた場所から見ている人物がいた。



営業サポート課 課長——


櫻井さくらい 隆義たかよし45歳



「……ふむ」



静かに頷く。



そのまま近づいていく。



「柿沼」



榮助が顔を上げる。


「はい」



「よく頑張ってるな」



短い一言。



榮助は一瞬だけ戸惑う。


「……ありがとうございます」



横で木更津も口を開く。


「新人の割にはよくやってます」



「そうか」



櫻井は少しだけ笑う。



「柿沼、少しいいか」



「はい」




課長室。



ドアが閉まる。



二人きり。



榮助は静かに立つ。



「座れ」



「失礼します」



椅子に腰掛ける。



櫻井はデスクの向こう側で腕を組む。


少しの沈黙。



「……緊張してるか?」



「少しだけ」



「まあいい」




そこで、櫻井はふと話題を変える。



「お前の父親、柿沼健二郎だな」



榮助の表情が少しだけ変わる。


「……はい」



「5、6年前に同じ部署だった」



「……そうなんですか」



「ああ。世話になった」



淡々とした言い方。


だが、軽くはない。



「それと——」



「姉の智恵子」



一瞬の間。



「仕事、見たことあるが……」



「速いな、あいつは」



はっきりとした評価。



「他より明らかに一段上だ」



榮助は何も言わない。



「母親の美枝子とは直接仕事はしてないが」



「後輩からよく聞く」



「“かなり世話になってる”ってな」




静かな空気。



榮助は理解する。



(全部、分かってる……)



櫻井は続ける。



「……親の七光り、って言い方もあるが」



「それだけじゃない」



「同じ会社に家族が多いと——」



「逆に孤独になる時もある」




その言葉。



榮助は少しだけ目を伏せる。



「……はい」



「周りは見てる」



「比較もされる」



「勝手に期待もされる」




一つ一つ、現実的な言葉。



「だからな」



櫻井は少しだけ姿勢を崩す。



「分からないことがあったら」



「家族でもいい」



「……俺でもいい」




榮助は顔を上げる。



「会社では敬語でいい」



「だが——」



「こういう二人きりの時くらいは、気軽に話せ」




少しだけ柔らかい声。



「……分かりました」



「無理すんな」



短い言葉。



「以上だ」




面談は終わる。



「失礼します」



榮助は立ち上がり、頭を下げる。



ドアを開ける。




外に出る。



営業サポート課のいつもの空気。



(……なんだろうな)



少しだけ、胸の中が軽い。




席に戻る。



木更津がちらっと見る。



「何言われた」



「……頑張れって」



「それだけか」



「はい」



木更津は小さく頷く。



「ならいい」




午後の仕事が再開する。



だが榮助の中には、


一つ残っていた。



(孤独になる時もある、か……)



その言葉。




夕方。



いつもの帰り道。



マンション前。



桜が走ってくる。


「おにいちゃん!」



抱き上げる。



菫がその様子を見る。



「お疲れ様」



「……ただいま」




その瞬間。



榮助は、はっきりと感じる。



(……ここは、違う)



会社とは違う。



比較も、期待もない。



ただ——



「帰ってきた場所」




その夜。



三人で食卓を囲みながら、


榮助は少しだけ自然に笑っていた。  



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。