第17話 「昼休みの距離――見える場所と、見えない気持ち」
昼前の社内は、午前業務の余韻と疲れが混ざっていた。
《株式会社・龍雷神》営業サポート課。
柿沼榮助(18)は、自席で資料を見ながら手を動かしていた。
まだ昼食は取っていない。
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「ここは一度戻して、この数値で再計算してください」
直属の上司・木更津瑛二は淡々と指示を出す。
「はい」
榮助は即座にメモを取り、修正に入る。
止まらないが、速すぎもしない。
ただ“遅れない”ことだけを意識した動きだった。
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周囲の新人たちも、それぞれの業務に追われている。
・藤崎悠真
・黒田蓮
・中村海斗
・西川優斗
・白石結菜
・神谷美月
・藤堂紗希
「これ合ってる?」
「いや、そこ違う」
小さなやり取りが絶えない。
榮助はその中で、静かに仕事を積み上げていく。
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その頃。
少し離れた上層フロア。
柊木菫(29)は、会議資料を抱えながら廊下を歩いていた。
だが足は一度だけ止まる。
視線の先。
営業サポート課の一角。
そこに榮助の姿があった。
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(ちゃんとやれてる……)
真剣に画面を見つめる横顔。
まだ新人の動き。
それでも、崩れていない。
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菫は気づかれない位置から静かに見ていた。
(仕事、大丈夫かな……)
母としての感情と、会社員としての視点が混ざる。
そのまま少し立ち止まっていると——
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「お姉ちゃん、なに見てるの?」
背後から声。
柊木燈子と玲子だった。
双子の妹たちは、菫の視線の先をすぐに追う。
そして——榮助を見つける。
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「あー」
燈子が小さく笑う。
「旦那さん見てたんだ」
玲子もにやりとする。
「完全に“見守りモード”じゃん」
菫は少し慌てて視線を逸らす。
「別にそういうんじゃ……」
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だが視線は戻ってしまう。
その先ではちょうど榮助が席を立っていた。
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昼休憩。
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榮助は自席に戻り、昼食を取り出す。
パン二つ。
そして紙パックの大きめの牛乳。
それにヨーグルト。
シンプルな組み合わせ。
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それを見て、菫は少しだけ目を見開く。
(あれだけ……?)
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燈子も気づく。
「え、あれお昼?」
玲子が呆れたように笑う。
「育ち盛りなのに軽くない?」
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燈子が菫を見る。
「ねえ、菫姉ちゃん」
「お弁当、作ってないの?」
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玲子も続ける。
「愛妻弁当くらい作ってあげれば?」
菫は言葉に詰まる。
「いや、仕事で朝は……」
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燈子は少し優しい声になる。
「パンだけって、ちょっと寂しくない?」
玲子も頷く。
「せめておかずだけでもいいじゃん」
「桜の分と一緒に作れるでしょ?」
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少しの沈黙。
菫は榮助の方を見る。
パンを黙々と食べている姿。
派手ではない。
でも、確かに“社会の中で生きている姿”。
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燈子は軽く笑って言う。
「まぁさ、桜ちゃんのこともあるしさ」
「うちらもたまにはサポートするから」
玲子も軽く手を振る。
「だからちょっとくらい料理増やしてあげなよ」
そう言って二人はそれぞれの部署へ戻っていく。
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残された菫は、しばらく動かなかった。
(そうか……)
(何も特別じゃないのに)
(こういうところ、見えてなかったかも)
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そして小さく息を吐く。
「……作らないと」
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そのまま業務へ戻る。
資料を開きながらも、頭の片隅は別のことを考えていた。
・何を作ればいいか
・朝でも間に合うもの
・榮助が食べやすいもの
仕事と生活が、同じ画面の上で重なっていく。
⸻
一方その頃。
榮助はパンを食べ終えていた。
何も知らないまま。
ただ静かに、次の作業へ戻る。
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会社の中では、今日も時間が進んでいく。
上では会議。
下では新人の手探り。
そしてその間で、“誰かの生活”が静かに動き始めていた。
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