RE:心境ノ鏡館
森を抜け、それからまた暫く歩いた俺達はピュルテ皇国にあるダンジョン街の一つ、フレイユールに辿り着いた……んだけど。
「なんかこの街の周りだけやたら天気悪くないか?」
空は黒雲が覆い、雨は止まず、結構な頻度で雷が落ちている。この街から少し離れた所は晴れているのに。
あー、着るタイプの雨具持ってて良かった。
「雷ごろごろ! 雨は好きだけど雷はキライ! こわいよ〜!」
「うう、音が大きいぞ……」
ケイトは耳を両手で押さえて怯えている。リーファにぴったりくっついてるのかわいいな……言ったらそれどころじゃないって怒りそうだから言わないけど。
「これもダンジョンの異変が影響してるのかもな。早く行ってクリアしちゃおう」
「うう、ダンジョンの中ならこの音もしないよな? しないと言ってくれえ……」
「大丈夫ですよ、ケイトさん」
「うー、オリヴィエェ……」
リーファから離れたケイトは、ひしっとオリヴィエにくっついた。大きい音苦手なんだなあ。
そんなこんなで辿り着いた心境ノ鏡館は変わり果てていた。
真っ白な屋敷という風貌だったそれは黒一色に変わり、屋根の天辺には黒雲が渦巻いている。いかにもおどろおどろしい雰囲気だ。
「うわあ、随分と様変わりしたなあ」
「なんだか不気味だね……」
その見た目に少し威圧感を感じる。それでも挑戦する他に選択肢はないだろう。ぐっと拳を握り締めて一歩を踏み出す。
「みんな、行くぞ」
「はいっ!」
先が見えない屋敷の入り口に足を踏み入れる。視界が切り替わり、荒れた廊下が目の前に広がった。
シャンデリアは地に落ち、破片を撒き散らしている。赤い絨毯はところどころが破れ、黒く汚れている部分もあった。白かった壁や天井は真っ黒だ。
ボロボロの扉に手をかける。開かない。やっぱり扉はほとんどがハリボテなんだろうな。
「進むか」
「どこもかしこもボロボロだぞ……それに埃っぽい」
ケイトはケホケホと咳き込んだ。背が低いせいで舞った埃を吸い込みやすいんだろうか? 抱き上げてやりたいけど、魔物が出てくることを考えるとそうもいかないな。
「早く進んで外に出ような」
「うん……」
廊下を進んでいくと、突然バン! と背後で大きな音が鳴った。振り返ってみれば今しがた通り過ぎた扉が開いている。
魔物か? 弓を構えた直後、空を飛ぶ溶けた蝋燭と割れた手鏡がわらわらと現れた。あれ、魔物なのか……?
「わあ、キレイな鏡! でも割れちゃってるね」
「浮いてる時点で普通の鏡じゃないしな……とりあえず倒すか」
魔力を込めた矢で手鏡を撃ち抜く。バリンッと小気味いい音を響かせて割れ、床に転がった。なんだよ、意外と楽勝じゃん。
ただ、問題は数だな。他の個体を相手している間に別の個体が攻撃をしかけてくる。
「おっと」
飛んできた鏡の破片を避ける。顔を狙ってくるのが嫌だよな。目に入ったりしたら大惨事だ。
「ファイアボール!」
リーファは蝋燭目掛けて魔法を飛ばしている。火が大きくなった蝋燭は、あちこちに炎の球をばらまき始めた。
「おいおいおい!」
「ひゃあっ!? あれ、もしかしてアタシ間違えちゃった!?」
「はああっ!!」
避ける俺達の間を走り抜けたオリヴィエが杖の先端で蝋燭を突き刺す。床に転がった蝋燭に何度も杖を突き刺した彼女は、蝋燭が動かなくなったのを確認するといい笑顔で振り向いた。
「蝋燭はわたくしとケイトさんで相手するのがいいと思います!」
「そっかあ」
相手が蝋燭だからいいけど、なかなかエグい戦い方だよなあ。改めてそう思う。
蝋燭は二人が相手してくれるから、残った俺達で手鏡の相手をした。あちこちに散らばった破片が光の粒子となって消えていく。一応魔物判定なんだな、これ。
「よし、これで終わり!」
最後の一体を倒し、一息つく。倒している間にも扉の向こうから出てくるから中々終わらなかった。無限に湧き出てくるのかと思ったけど、さすがにそうではなかったみたいだ。よかったよかった。
「みんな、怪我はないな?」
「ないぞ!」
「問題ない」
「じゃあ進むぞ」
みんなが頷いたのを見て、荒れた廊下を進んでいく。全部の扉を警戒しなくちゃいけないのはなかなか疲れるな。もういっそのこと、全部の扉を開けようとしてみるか? いや、それはないな。これだけずらっと並んでる扉だ、時間がいくらあっても足りないって。
自己完結した俺はひたすら廊下を進んだ。時々扉から現れたり天井に残っていたシャンデリアが落ちてくるのを避けたりしながら、どんどん進んでいく。ここはほぼ一本道だから単調だけど迷うことがなくて助かるな。前に来た時と見た目こそ違うけど構造自体は同じ気がする。
「あ、見えてきたよ! あれ、赤い転移ノ紋!」
開けた部屋に出ると、以前と同じように赤い紋がぽつんと存在していた。乗れってことだな。
またあの鏡のフロアに飛ばされるんだろうか? 前は全員別々の場所に飛ばされたけど、今回はどうなることやら。
相変わらず紋は一人しか入れないくらいのサイズだから、順番を決めないとな。
「誰から行く?」
「順番など誰からでもいいだろう」
「んー、それもそうか……? じゃあ俺から行こうかな」
赤い転移ノ紋の上に立つ。足元が赤く光った次の瞬間、目の前には鏡が並んでいた。
「やっぱりこの場所か……」
床と天井が黒いことを除けば、前とほとんど変わらない。ただひたすらに鏡が立っているだけの部屋だ。
前来た時は白い部屋と、俺に似てる黒髪のイノセンスが映ったんだよなあ。またあれを見ることになるんだろうか? 頭が痛くなるから正直勘弁してほしいんだけど。




