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魔法の練習

 食事を終えた後、食後の運動がてら魔法の練習を続けることにしたらしい。その間に俺が何をしているかというと……スクロールの制作だ。

 コツコツ練習することが大事だってことで、お手本にかじりつく勢いで見て書いてを繰り返している。今は氷を出すスクロールだ。これが出来れば、レイスが使っているすごい魔法……アブソリュート・ゼロの制作に一歩近づくらしい。まだまだ道は遠いな。


「まずはリーファ、お前に身体強化を教える」

「はいっ!」

「そう緊張するな。やり方は簡単だからな。強化したい箇所に魔力を集めるだけだ」


 早速練習が始まったらしい。リーファがうーんうーんと唸る声が聞こえる。まあリーファのことだから、あっさり成功させそうだけど。


「あっついよ!? 足から火が出たよ〜!?」

「馬鹿者、魔力を変換した状態で集めるからそうなる。オリヴィエ、回復を」

「は、はい」


 何やってるんだ、リーファ。気になるけど今は集中集中……。


「変換せずに集めろ」

「変換しない……変換しない……? うーん」

「仕方がないな。手を出せ、実演してやる。変換しないままというのは……こうするんだ、分かったか」

「分かったかも! えっと、こうやって……わああ〜〜っ!?」


 リーファの声がすごい勢いで遠のいていった。何が起きたんだよ。ちょっとくらい振り向いてもいいよな?

 ちらりと声が向かった先を見ると、随分と遠くに赤色が見える。今の一瞬であの距離を走ったのか? ヤバいな。

 あ、やべっ、レイスがこっち見た。バッと机に向かう。俺はちゃんと集中してますよ、ホントだよ。


「びっくりしたよー、すっごく早かった!」

「量を集めすぎだ。もう少し調節して練習していろ」

「はーい!」


 羊皮紙にペンを滑らせながらも背後でのやり取りに耳を傾ける。


「次、ケイト。お前に魔力操作の手本を見せてやる。手を出せ」

「おう……わ、わわっ!? すっごく変な感じがするぞ! オイラはやろうとしてないのに、勝手に体の中を魔力が動いてる……!」

「静かにしていろ、じきに慣れる。これが手本だ、覚えたか? やってみろ」

「なんとなくは……う、う〜ん……? こうか? いや、こうか?」

「練習あるのみだな。もう一度手本を見たければ声をかけろ。次、オリヴィエ」


 どんどん進んでるなあ。さすが、手際がいい。あーあ、俺も教わりたいなあ。封鎖とかいうやつ、解ければいいのにな。俺だって魔法使ってみたい。身体強化みたいなのじゃなくて、炎とか氷とかをバーってやる感じのやつ。


「お前の魔力操作は充分と見た。魔力変換の方を教えるから、手を出せ」

「はい、お願いします」

「支援魔法や回復魔法は基本的に光属性で行う。光属性への効率的な変換方法はこれだ」

「なる、ほど……? こういう感じで……あら? 上手くいきませんね」

「何度も試してみろ。手本を見たくなったら言え。リーファ、こっちに」


 あ、ヤバッ、間違えかけた。セーフ……だよな? うん、多分セーフ。あっちに意識向けすぎてたわ。えっと、氷の場合はここの記号をこれに変えて……と。


「身体強化には多少慣れただろう。遠距離魔法を教える」

「遠距離……! ファイアボール、もっとすごくなる?」

「お前の素質と頑張り次第だな」

「よしっ、すっごく頑張る!」


 おっ、ついに遠距離魔法か。リーファが完全な遠距離魔法を身につけたら相当強いだろうな。俺も早く強いスクロール作れるようになりたいな。そしたら魔法も使えるようになるし……スクロール経由だけど。

 いやあスクロールも強いのは散々見てきたから分かるんだけどさ、やっぱり杖とかでバーンってするのに憧れるわけよ。強い魔法使って、フッ……今のはただのファイアだ……とか言いたい。超火力ファイアはさっきリーファがやってたけどさ。


「杖を構えろ。いいか、遠距離魔法を使う際の魔力操作は……」

「ふぉ、おおお……? そっか、そうすればいいんだ!」

「理解が早いな」

「ファイアボール!」


 どんなもんだ? チラッと振り返る。お、ちゃんと炎の玉が飛んでる! 今までみたいな伸ばした炎を切る方式じゃない!!

 リーファはすごく嬉しそうで、こっちの頬も緩む。よかったなあ、リーファ。


「次は威力と方向を変えてやってみろ」

「威力と方向……威力と方向……?」

「……数パターンの見本を教えてやる。そのまま覚えるのではなく感覚を掴め」

「うんっ!」


 うんうん、順調そうだな。これでみんな強くなるのかあ……俺も負けてられないな。

 スクロールをちゃんと書けるようになったら、矢に括りつけたりして擬似的に魔法の矢を放てるんじゃないかって思ってたりするんだ。実際できるのかどうかは分からないけど。できるのかな?


「エスカ、そちらはどうだ」

「おつかれ、レイス。まあまあ? 後少しで書き上がるよ」

「そうか」


 向かいに座ったレイスは左手にマグカップを持っていた。お茶でも入れてるのかな。ほのかにいい香りがする。

 レイスはなんでも左手でしなくちゃいけなくなったからか、随分とやりづらそうだった。さっき食べる時も少しぎこちなかったし。慣れるの大変そうだなあ。

 もし俺達についてきてなかったら……そしたら、腕を失うこともなかっただろうに。


「なあ、レイス」

「なんだ」

「俺達と旅を続けてよかったのか?」

「……どういう意味だ」


 彼が机にマグカップを置いたのが視界の端に映る。


「だってさ、俺達と一緒にいなければ腕を失うこともなかったわけだし……きっと、また危険な目にあうと思うんだ。もし嫌だったら今からでも大森林に――」

「それは私がもう必要ないということか? 右腕を失い、スクロールも書けなくなった私は要らないと?」

「違う、ただ俺は」

「私からすれば同じことだ」


 顔を上げる。彼の目はいつもより鋭くて、よく研がれた刃のようだった。


「私は自らの意思でお前と共に進むことを選んだ。他ならない私の意思だ。たとえこの先にどのような運命が待っていようと、お前達と共に進もうと決めた私自身だ。それを……踏み躙ってくれるなよ」

「レイス……」

「大切な仲間だと言うのなら……どうか私を失望させないでくれ、エスカ」


 俺、バカだな。勝手に不安になって、勝手に良かれと思って。そうだよな、みんな自分の意思で着いてきてくれてるんだ。


「もし無理して着いてきていると思っているのなら、不要な憂いだ。知っているか? ケイトはお前が療養している間、母親に会いに行ったそうだ。お前と共に冒険者として生きていくことになるかもしれないと、そう告げてきたらしい」

「ケイトが?」

「ああ。すぐには戻れそうにないから今の内に言っておこうと思ったそうだ。彼はお前と共に歩もうと決意していたぞ。放っておくと死にかねないからだと」


 そうだ、ケイトだってあの街に家族がいるんだ。そこで料理人として働いたっていい。家族の元で、穏やかに暮らしたっていい。

 それでも俺と共に来てくれることを選んだ。そう思うと、なんだか胸が温かくなった。


「リーファとオリヴィエも同じだろう。だからここにいる……それでもその憂いを捨てきれないと言うのなら、いっそ直接聞いてみればいい」

「……いや、いいよ。もう充分伝わったからさ」


 ふ、と小さく笑う。

 あーあ、本当に俺って幸せ者だな。

 もし記憶を失っていなかったらみんなと出会えていなかったかもしれない。そう思うと、俺の境遇もそう悪くないように思えた。


「そういえばレイスってかなりみんなのこと見てるよな。いろいろ知ってるし」

「各々好き勝手に話すからな。勝手に情報は入ってくるものだ」

「そういうものかなあ」


 それから俺はみんなが練習する光景を眺めながら、レイスと少し話をした。

 スクロール? 発動しなかったよ。やっぱ集中しないとダメだな。

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