極寒ノ淵境
極寒ノ淵境はその名に恥じないくらい寒い。そんな中で出てくる魔物もまた、気温を下げそうな魔物ばかりだった。
「ファイア! えいっ!」
炎を纏わせた杖を振り抜くと、凍っているのに柔らかいというなんとも不思議なスライム……アイススライムが溶けながら床を滑っていく。そしてまたぽよんぽよんと跳ねて攻撃しに来ようとするのだ。
「アイススライムって他のスライムよりまんまるでなんかかわいいねえ。ファイア!」
かわいいって言いながら燃やすんじゃないよ。アイススライムはついに溶けきって、ただの水溜りになった。
そういえばリーファが炎を使っても床の氷は溶けないな。天井のツララも溶けていない。ダンジョンの不思議だ。
「わ、またアイススライム! こんどはいっぱい来たよ〜!」
ここはアイススライムしかいないのかってくらい出てくるな。跳ねるもの、滑るもの、各々好きな移動方法でこちらへと向かってくる。
「スライムさん、そんなに大勢でどうしたのでしょう? お散歩ですか?」
「オリヴィエはそろそろ魔物に話しかけるのやめた方がいいんじゃないかって思うぞ……返事返ってこないだろ?」
「分かりませんよ? ほらご覧ください、あのぷるぷると震える姿。彼らなりの返事かもしれません」
「そうなのかなあ……」
オリヴィエとケイトがかわいい会話してるな。散歩か、そんな平和な感じならいいんだけどな。
でも相手は魔物だ。基本的に言葉は通じないと思った方がいい。
……ふと、サーカスでのことを思い出した。人間を元にした魔物であれば言葉が通じるものなのかな。
「……こうもバラけられると厄介だ。集めるか」
レイスが杖を振ると、風の渦が発生した。アイススライム達は渦の中心へと吸い込まれていく。
詠唱なしでパッと魔法が使えるなんてすごいな。よっぽど習熟しているんだろう。
「よしっ、アタシに任せて! ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール〜!!」
風の渦の中で巻き上げられているアイススライムに向けてファイアボール(もどき)を置いていく。炎は激しく燃え上がり、風の渦は炎の渦へと姿を変えた。
「わあっ!? すっごい渦になっちゃったよ!?」
「おお、すごいな。かなり強そうだ」
「すごいぞ、リーファ! レイス!」
炎の渦に巻き込まれたアイススライム達はみるみる溶けていく。渦が消えた時、そこには何も残っていなかった。
必殺技って感じだ。レイスとリーファの合わせ技……なんかカッコいいな。
「アタシ、今の使えるようになりたいなあ! すっごく強そうで、すっごく綺麗だった!」
「……風魔法との複合は難易度が高い。やるのであれば炎単体で渦を作ることだな」
「よーっし、練習するぞー!」
リーファは杖を持ち上げて、やる気満々だ。あれを使えるようになったら更に戦力アップだな。かなり期待できそうじゃないか?
それからリーファはスライムが出る度に「ファイアストーム!」と叫んで魔法の練習をしている。やっぱり直接その位置に置くことはできないみたいで、杖から炎を伸ばして、それを巻いて……といった感じだ。なんというか……渦は渦だけど、あれは炎でできたリボンだな。
「うー、上手くいかないなぁ」
「リーファがんばれ〜!」
「頑張ってください、リーファさん」
リーファを応援しながらケイトとオリヴィエもアイススライムを倒していく。二人とも包丁と杖の先端で氷を削っていくように戦ってるな。負けてられない。俺も魔力を込めた矢でアイススライムを打ち砕いていく。
レイスは時折リーファを見ながら、小さめの魔法でアイススライムを討伐していた。
分かれ道や行き止まりに当たりながらダンジョンをさまよっていると、オリヴィエが声をあげた。
「おや、階段がありますよ」
「おっ? やっと次の階層か」
次の階層へ続く階段を見つけたオリヴィエが歩いていく。
その時、彼女の頭上にぶら下がっていたツララがぐらりと揺れた。
「オリヴィエ!」
「あぶないっ!!」
俺が行くより先にリーファが飛び出して、彼女の手を引っ張った。ツララが誰もいない地面にぶつかり、砕ける。
「わわ〜っ!」
「きゃっ!」
よろめいた二人の体を支える。俺も少し滑りかけた。マジで危ないな、この氷の床。
「大丈夫か?」
「ありがとう、エスカくんっ! あっ、オリヴィエさん大丈夫? ケガしてない?」
「はい、リーファさんとエスカさんのおかげで無事です。ありがとうございました」
体勢を立て直した彼女は頭を下げた。何にせよ、彼女達が無事でよかったな。一向に落ちてこないから、てっきりそういう罠なんてないと思ってた。やっぱり油断しちゃダメなんだなあ。
改めて階段に近づく。今度はツララは落ちてこなかった。
「よし、進むぞ」
みんなで階段を降りていく。一体次の階層はどんな感じなのだろう。
「……うわあ」
思わず声が漏れた。いや、これ……なんで壁も天井もあって吹雪いてるんだよ。どこからきてるんだよ、この雪は。
目の前が見えない……ってレベルの吹雪ではないけど、一歩階段から降りると凍えそうなほど寒いなあ。ぶるりと体が震えた。
なんかこれ、どこかで見た。灼熱ノ渓谷で似た展開見たって!!
「……レイス」
耐寒薬みたいなのない? そんな思いをこめて見つめる。彼はため息をついて、黄色い液体が入った瓶を取り出した。
「飲むといい」
「きゅ、救世主〜!! 助かる〜!!」
受け取るなり、ぐびっと一気に飲む。味は……うん、悪夢みたいな味だ。これのことは忘れよう。そして早くここを攻略しよう、そうしよう。寒くはなくなったけど、きっとこれも三十分そこらで効果が切れるんだろうし。
みんなで耐寒薬を飲んで、二階層目の探索を始める。床は相変わらず氷だし、天井にもツララがある。気を付けないといけないな。
進んでいると低い唸り声が聞こえた。暗い通路の向こうから真っ白な毛並みの狼が現れる。
それも一頭だけじゃない。三頭だ。歯を剥き出して唸る彼らを前に、弓を構える。
「いくぞ、みんな」




