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溶かしてしまえばいいじゃない

 飛びかかってくる白い体めがけて矢を放つ。吹雪の中、風のように駆ける三頭の狼。その目に一本の矢が突き刺さった。


「とおっ!」

「はああっ!」


 よろけた狼の胴をケイトとオリヴィエが突き刺す。これで一頭。

 リーファは杖を構えると、息を大きく吸い込む。


「ファイアストームッ!」


 突き出した杖から伸びた炎が渦を成し、狼目掛けて突き進む。しかし直撃することはなく、白い毛を焦がすだけに終わった。


「ううっ、思ったところに伸びないよ〜!」

「……まったく」


 ため息をついたレイスが杖を振る。風の檻が二頭の狼を拘束した。宙に浮いた体をジタバタと動かし、唸りを上げる。


「これなら当たりそう! ファイアストーム!!」


 再び突き出した杖から炎が伸びる。渦を巻いたそれは狼の体を包み、こんがりと焼き上げた。


「やった! できたよー!!」

「……それを完成系としていいのか甚だ疑問だが」


 ぽつりと呟いたレイスは、残り一頭に杖を向ける。岩の杭が生まれ、杖を振り下ろすと共に白い体を貫いた。

 レイスは頼りになるなあ。一体いくつの魔法が使えるんだ?

 狼達は光の粒子となって消えていく。残された戦利品を拾って収納鞄に詰め込んだ。結構本を買って金欠だから、できるだけ稼いでおきたいな。一体どういう仕組みなのか、ダンジョンの魔物を倒すと硬貨を落とすことも多いからありがたい。


「よし、これなら行けそうだな。進むか」

「そうですね。薬の効果が切れる前に攻略しなくては」

「まだ耐寒薬はある。必要になれば渡そう」

「……う、ううん。やっぱり急ごうよ! ねっ、エスカくんっ!」


 吹雪の中を突き進む。できれば最短ルートで次の階層に行きたいけど……そう思うほど見つからないわけで。

 時に魔物を倒しながら階段を探してさまよっていると開けた部屋に出た。中央に巨大な氷の柱が立っている部屋だ。


「……ん? なあ、エスカ」

「ケイト、どうした?」

「あの氷の中に階段ないか?」

「えっ」


 氷に近づいて見てみると、たしかに階段が見えた。ええ、この氷どうするんだよ。もしかしてどこかにギミックでもあるのか?


「この氷をどうにかすればいいの?」

「ああ。でもこれだけデカい氷、溶かすのは難しいだろうな。きっとどこかに専用の何かが――」

「むむむ……すっごくすっご〜く頑張るファイアー!!」


 リーファは両手で杖を構えると、むむむと念じ……最大火力で炎をぶっ放した。ゴオオと音さえ聞こえてきそうなくらいの巨大な炎だ。俺達はその炎をぽかんと見つめていた。

 みるみるうちに氷が溶けていく。ええ……? これ、正攻法なのか?

 氷が溶けきると次の階層への階段が現れる。ま、まあ……行けるならいいか、それで。


「リーファ、すっごいな!!」

「えへへ、頑張ったよ〜」


 キャッキャッとはしゃぐ二人を見て、頬が緩む。うん、これが正解だろ。俺が今決めた。

 みんなが階段の前に集まる中、一人何か考えている様子のレイスに声をかけた。


「おーい、レイス。行くぞー」

「……その前に耐寒薬を飲んでおけ。途中で効果が切れるかもしれない」

「うっ……そ、そうだな。戦ってる間に切れたら大変だもんな」


 手渡された瓶を開けて、鼻を摘んで飲む。なんというか、ニオイがからいんだよ。味もからいけど、ニオイが特にキツい。


「うっ……」

「ひ、ひどい味だ……」


 リーファとケイトが口を押さえている中、オリヴィエは平然と飲み干している。彼女の事情を考えると言いづらいけど、この味ばっかりは知らなくていいと思う。あと耐熱薬の味も。


「よ、よし。これで準備は万端だな」


 なんとか飲み干して瓶を収納鞄にしまう。マジで酷い味だ。何としてもこれで終わりにしよう。さすがのレイスも苦い顔をしているしな。


「どんなボスがいるのかな?」

「雪だるまとかか?」

「そんな可愛いボスだったら楽だろうけどな」


 階段を降りていく。三階層は、先程とは比べ物にならないほど吹雪いていた。四方を氷に囲まれた空間の中をびゅうびゅうと雪が流れていく。

 耐寒薬を飲んでいても肌寒いな。一体どれだけ寒いんだ、ここ。

 空間の中央へ向かって進んでいく。ここもきっと真ん中に行けばボスが現れるパターンなのだろう。多分。

 そして俺の予想は当たり、グルルと唸る声が聞こえた。これ、上の階層でも聞いたな。


「で、出てきたよ……!」

「あら、大きな狼さんですね」


 吹雪の向こうから現れたのは、三メトルはあろうかという大きさの狼だ。ただ大きいだけじゃない。頭が三つもあるのだ。各々の口が白い息を吐き出している。

 加えて、後ろから何頭もの狼が現れた。上の階層で見た狼だ。


 ワォオーン!!


 白狼は三つの頭全てで力強い遠吠えをした。ビリビリと体に音の圧が伝わってくる。子分を引き連れて走ってきた白狼めがけて矢をつがえる。

 あの感じ、結構毛皮が分厚いと見た。目を狙えればいいが、外した時の保険だ。外しても貫けるくらいの魔力量を込める。

 よく狙いを定め……指を離す。ドッと音を立てて左の頭を貫く。

 どうやら脳を貫くまではいかなかったようだ。白狼は呻きながらも足を止めない。こりゃ次の矢の準備が終わる前に届くな。それに子分達もいる。一体一体は大したことないが、あれだけ数が多いと厄介だ。

 オリヴィエが防御力を高めてくれているが、それを考えてもあの牙で噛みつかれたらたまったものじゃない。


「レイスさんっ、全員足止めできるっ!? 少しでいいのっ!」

「造作もない」


 リーファの要請に、レイスは軽く杖を振って応えた。地面がボコボコと小さなアーチ上に隆起し始める。狼達はあちこちに生えたアーチに足をとられ、動きを止めた。


「よしっ! ファイアストームッ!!」


 杖から高火力の炎が噴射される。まるで蛇のようにうねる炎が、狼達を包み込んだ。あちこち変な方に伸びてしまってるけど、炎の量でゴリ押ししてるな、あれ。


「でもこれでいけそうだな」


 そう呟いたのも束の間、白狼と何頭かの子分は炎の海から飛び出してきた。

 目の前に鋭い牙が迫る。


 あ、これ終わったかも。

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