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白狼

 あと少しで白狼の牙が刺さるというところで、金色の杖が目の前を遮った。


「オリヴィエ!?」

「大きな狼さん、もしかしたら貴方はお腹をすかせているのかもしれませんが」


 杖に噛み付いた巨大な狼の体が、少しずつ押されていく。

 細い腕に力がこもる。靴裏に巻かれた棘が氷の床を削った。


「彼を食べさせるわけにはいきません。ですので……お引き取りくださいっ!!」


 ぶんっ!! と勢いよく杖を振り抜く。身体強化を駆使しているのだろう、その細い腕からは考えられない力で白狼を投げ飛ばした。

 白狼は器用に着地し、再びこちらへ駆けてくる。杖を構え、魔力を込めた。


「そこだあっ!!」


 小さな体が巨体へと飛びかかる。ケイトの持つ巨大な肉切り包丁が、ダンッ!! と左の首を切り落とした。まだ魔力を矢に込め続ける。

 血を吹き出した白狼の残りの首目掛け、レイスが杖を振る。無数の風の刃が右の首に深い傷跡を残した。ぐったりと右の頭が項垂れる。矢が眩く光っている。でも、まだだ。限界まで魔力を込めていく。

 これで残るは真ん中の首だけだ。今までにないほどの光を放つ矢を、眉間目掛けて放つ。

 光の矢は分厚い毛皮も、硬い頭蓋も打ち抜き、その頭に風穴を開けた。体から力が抜けた白狼は、その勢いのまま氷の床を削りながら倒れ込んだ。


「……よし」


 残りの子分達はリーファが処理してくれたようで、辺りに転がった死体は光となって消えていく。

 一時はどうなることかとヒヤヒヤしたけど、みんなのおかげでなんとか倒せたな。緊張していた体から力が抜けていく。


「みんな、お疲れ様」

「エスカくんもお疲れさまっ! ささっ、報酬報酬っ!」

「何が出たかな?」


 リーファとケイトが子分の狼達が落とした報酬を拾いにいく。あれだけの数を倒したんだ、これで結構懐は潤う……はず。多分。


「さて、ボスが落としたのは何だろうな」


 白狼が倒れた所を見にいくと、一本のペンが落ちていた。黒い本体に金の模様が入ったそれは、どこか不思議な雰囲気をかもし出している。


「ペン……? ただの豪華なペンだとしたら割に合わないけど、何か特殊な物なのか?」


 いろんな角度からペンを見てみる。装飾が綺麗だってことしかわからないな。ペン先も普通のものっぽいし。

 うーん、売ったら高いかな。首を傾げていると、レイスがこちらへ寄ってきた。


「……それは」

「レイス、知ってるのか?」

「ああ。スクロールを制作する際に使う専用のペンだ。貴重品だな」


 スクロール。それって、対応する陣を羊皮紙に書いておけば手軽に魔法が使えるっていう代物だ。それを作れるペン……?


「それってすごいな……! これがあれば俺も魔法が使えるようになるかもしれないってことだろ? どうやって使うんだ?」

「……専用のインクで羊皮紙に陣を書くだけだ。とは言え、正確に陣を書くには相応の鍛錬が必要になるだろうがな」

「へえ……やってみたいな。レイスは書けるのか?」


 そういえば初めて会った時、すごい魔法を使ってたよな。あの時、スクロールを持っていたはずだ。


「ああ」

「じゃあさ、俺に教えてくれないか? 頑張るからさ!」

「……考えておく」


 それだけ言うと、レイスはさっさと転移ノ紋へと歩いて行った。いつになるかは分からないけど、いつかは教えてくれるだろう。きっと。多分。


「よしっ、全部拾ったな。それじゃ外に出よう」

「はーい!」


 みんなで転移ノ紋に乗る。視界が白んだと思ったら、ダンジョンの前に立っていた。

 まだ耐寒薬が効いているみたいで全然寒くない。ちょっと効果が切れた時が怖くなった。余計寒く感じそう。


「さて、どうする? もう夕方が近いけど、宿探すか?」

「うう……でもなあ、少し怖いぞ」

「深く帽子被っておけば大丈夫じゃないかな? 街に入った時だって何ともなかったし!」


 リーファの言うとおり、街に入った時は大丈夫だった。それに雪の中で野営するのはちょっとな……できれば暖かい宿がいい。


 少しみんなで話し合った結果、宿に泊まることになった。受付はリーファとオリヴィエに任せていたら、気づかれなかったのかすんなりと部屋へ通される。ケイトと一緒にホッと安堵の息をついた。

 ちなみに部屋は俺とレイス、リーファとケイトとオリヴィエの二部屋に分かれている。


「はー、あったかい」


 部屋に入るなりベッドに横たわる。レイスは椅子に腰掛けて本を読み始めた。レイスって時間さえあれば読書してるな。目、疲れないの?


「レイスー、ちゃんとベッドで寝ろよー」

「……」

「レイスー」

「分かっている」


 ため息をついてページをめくる姿を見て、唇を尖らせる。ため息ばっかりついてると幸せが逃げるんだぞ。村の人が言ってた。

 ごろんと体を仰向けにして、天井を見上げる。


 これで四つのダンジョンをクリアしたわけだけど……まだ俺達のパーティランクはDだ。忘却ノ迷宮に挑戦するにはBランクになる必要があるから、あと二つランクをあげないといけない。

 一旦ピュルテ皇国に戻って、いい感じの依頼をこなしていかないとな。それでランクを上げて……そしたら、ついに忘却ノ迷宮を攻略するんだ。

 ここまで短いようで長い旅だったけど、まだまだ先は長い。気を引き締めていかないとな。

 グッと拳を握る。さて、明日も早い。俺は先に眠らせてもらおうかな。ベッドの端の方に寄って目を閉じる。


 ……その日はサーカスの夢を見た。ダンジョンで彼女達のことを思い出したからだろうか。

 双頭の男女に、キメラの女性、ケイトの姉に、ココ。そして、マオ。

 みんなが楽しそうにショーをやっている姿が、とても鮮やかだった。

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