エルフ
カチャカチャと小さな音が聞こえる。レイスが向かった部屋から聞こえてくるその音は、まるで荷物を整理しているかのような音だ。
ああ本当に彼はついてきてくれるんだな、なんて緩い感想を抱きながら炙ったパンをかじった。今日の朝食はパンとスープ、焼いた肉にハーブを添えたものだ。ちゃっかりカナヴィも食べている……まあ、あいつが持ってるの妙な飴とスケッチブックくらいだもんな。リーファほどじゃないにしろ美味そうに食べるものだから何かを言う気もなくなる。
暫くすると部屋からレイスが出てきた。荷物は持っているように見えないが、もしかして腰につけている小さな鞄は収納鞄だったりするんだろうか。
「お、レイスも食べるか? スープとパン、焼いた肉もあるぞ」
「結構だ。朝は茶で事足りる」
「ええっ!? それじゃ足りないだろ!? オイラの料理は美味しいぞ、食べてみろって」
「結構だと言っている」
朝食が茶一杯って。だから背が高いわりに細いのか? 手なんてかなり骨張ってるもんなあ。
「荷物の整理してたんだろ? もう終わったのか?」
「ああ」
「じゃあ出発だな」
「先に行く場所がある」
荷物を片付けて収納鞄を背負う。行く場所ってどこだろう。レイスに続いて家を出ると、彼は何かを言いたそうにこちらを向いた。だが、小屋をちらりと見ると結局何も言わずに歩き始める。
「またドラゴンに会わないよね? ねっ?」
「さすがにないだろ……ないよな? もしかしてこの森ってあんなのがごろごろいたりする?」
草木が揺れる度にビクつく俺達のことなんて気に留めずレイスは先を進む。一体この先に何があるんだろう?
そう離れていない場所に大きな白い岩があった。ここが用のある場所? なんか、覚えのある視線を感じる。この森に入った時に感じた視線だ。
岩の前で立ち止まったレイスは辺りを見渡す。
「……彼らは私の同行者だ。警戒する必要はない」
彼が呟くと、ガサガサと周囲の木が揺れる。思わず身構えると、金髪の人間が木から飛び降りてきた。青い石をはめこんだ細かい装飾が美しい短めの杖を持っている。その肌は白く、中性的な美しい顔立ちの……男? おそらく男であろう彼の耳は尖っていた。
「エルフ……?」
ぽつりと呟くと推定エルフと目があう。奇妙なものを見るような目なのは気のせいじゃないよな。なんで?
「わあっ、エルフさんだ! エスカくん以外のエルフさん初めて見たよ〜!」
リーファは分かりやすくテンションが上がっている。エルフは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちをした。えっ、何? ガラ悪くない?
「ワタシをそこの紛い物と一緒にするな、人間」
「紛い物?」
「貴様、さては夜の民との混血だろう。穢らわしい」
出会って早々この言い様。俺が何をしたっていうんだよ。夜の民とか言われても分からないし、俺の脳内はハテナで埋め尽くされている。
「あのさ、夜の民ってなんだ?」
エルフは答えない。ええ……? 教えてくれてもいいじゃん。
少しの期待を込めてレイスを見る。いかにも物知りそうだし知ってたりしない?
レイスはため息をついて淡々と説明を始める。
「……ナーダの森に住むダークエルフのことだ。見たことはないが、銀の髪に黒い肌を持つという」
「へえ〜、そうなのか。ありがとうな、レイス」
じゃあナーダの森で感じた視線はそのダークエルフのものだったのか? なら気配が似ているのも納得だな。
あれ、じゃあ俺はそのダークエルフと目の前のエルフの間に生まれた子供だったってこと? たしかに俺の肌はこのエルフに近いし、髪はダークエルフと同じらしい銀色だ。思わぬところで自分のルーツが明らかになったな。
そんなことを考えている間に、レイスが一歩前に出る。
「彼らのことは気にしなくていい。それが完成品だな?」
「ああ。受け取るがいい」
細かい装飾が施された独特な形をした木製の杖がレイスの手に渡る。なんというか、持ち手の方がやけに尖ってるというか……先端に魔石がついた手のひらほどの長さの杖を隅々まで見つめ、軽く杖を振った。キラキラと杖の周りに小さな光が散る。
えっと……まさかだけど、お前まで前衛だなんて言わないよな? その杖の長さなら違うよな? それで敵の目を刺しますとかやめてくれよ?
「期待以上だ。感謝する」
「これで借りは返したぞ」
「ああ」
用は済んだとばかりに背を向けるエルフに、レイスが「伝えておくことがある」と声をかける。
「何だ」
「暫く森を出ることになった」
「……そうか。了解した」
短いやり取りの後、こんどこそエルフは森の向こうへと消えていった。せっかく会えたんだから俺のことも相談したかったけど……あの感じじゃ乗ってくれないだろうなあ。混血ってそんなに嫌われるのか? それともエルフとダークエルフって仲悪いのかな。
「行くぞ」
歩き始めたレイスの後ろにつく。これだけは……これだけは聞いておかなければならない。
「あのさ、レイスって……後衛?」
振り返った彼は何を言ってるんだって顔をしていた。それはどっちの意味? 後衛に決まっているだろうって方? それとも前衛だがって顔か? 前者だと嬉しいんだけどな〜俺。
「私が前衛に見えるのか? 少しは考えろ」
「ってことは後衛?」
「そうだと言っている」
やった〜!! 初めての後衛仲間だ!! 思わずグッと拳を握りしめる。
「よろしくな、レイス!!」
彼はしばし目を閉じると、再び前を向いて歩きだした。一応受け入れられたってことでいいのかな?
「……今更だが、お前のパーティは後衛が多いだろう。私よりも前衛になりそうな者を入れた方が良かったのではないか」
「俺以外前衛だから大丈夫だ」
「……正気か?」




