バランス
レイスが加入して初めての戦闘は、思ったよりも早くやってきた。森を進んでいる途中、木の影から人一人分くらいのデカいキノコが飛び出してきたからだ。
……うん、キノコ。どこからどう見てもデカすぎるだけのキノコなんだよなあ。めちゃくちゃ動くけど。名前はたしか……ポリポーラ。
「わあ! おっきなキノコだ!」
「ありゃ何人前だ? どんな味がするんだろうな!」
「ポリポーラは毒あるから食べられないぞ」
「そんなあ!」
ケイトとリーファは残念そうに肩を落とした。リーファも食べる気だったのかよ。
オリヴィエはいつも通り声をかけている。耳も目もないキノコ相手によくやるよなあ。
杖を構えたリーファは早速ファイアを唱え――いつも通り突撃していった。
「ファイアー!!」
「は?」
ちらりとレイスの顔を見る。信じられないものを見たって顔してるな。わかる、わかるよ。俺も最初そんな感じだったから。
続いてケイトが、そしてオリヴィエが突撃していく。四方八方からボコボコに叩かれ燃やされ切りつけられるキノコがなんだか哀れに見えてきたな。必死に跳ねてるけど多分意味ないぞ、それ。
「……お前のパーティだが」
「うん」
「なぜ後衛であるべき者が前衛をしているんだ?」
「だよな、そう思うよな!! 俺も思ってた!!」
やっとこの感覚を共有できる人ができた! どうしよう、すごく嬉しい。
いや、いいんだよ? 前衛になってくれるのは。強いし助かるし、いいんだけどさあ。でも後ろでちまちま矢を撃ち続けるのも寂しいわけよ。
いっそ俺も前衛になろうかと思ったことあったもんな。必要に駆られなきゃやらないけどさ。
「レイス!」
「何だ」
「入ってくれてありがとう。めちゃくちゃ歓迎するぞ……!!」
両腕を広げた。歓迎の気持ちはこれくらいある。いや、もっとあるな。
彼はちらりと俺を見ると、静かに目を伏せた。
「それは私の魔法目当てか」
「後衛仲間として! ほら、見ての通り俺以外前衛だからさ」
「……そうか」
レイスは目を閉じ、それっきり喋らなくなった。
黒焦げになったキノコが倒れる。俺達の出番なかったな。リーファが杖でちょんちょんとキノコをつついてるけど、何やってるんだ?
「こんなにいい匂いするのに食べられないんだねえ」
「残念だな」
「ねー。どうにかして食べられないのかなあ」
まだ食べるの諦めてなかったのか……あの毒抜けるかどうかは分からないけど、そこまでして食べたいか?
「解毒薬で煮込めば食べられるようになるのではないでしょうか」
オリヴィエは参加するんじゃない。収拾つかなくなるから。
その手があったか! って顔するんじゃないよ二人とも。
キノコが焼けた匂いでお腹がすいたとリーファが言うので、丁度いい時間なのもあって昼ご飯を食べることになった。
ケイトが手際よく調理しているのを眺めながら木の枝を集める。これくらいあればいいか。やっぱ森は木に困らなくていいな。
「今日はどんな料理かな? 楽しみだなあ!」
リーファはニコニコ笑顔で火をつけ、ケイトの側に寄っていった。俺の隣でその様子を見ていたレイスが口を開く。
「あの魔法使いだが」
「ああ、リーファだよ。そういえば自己紹介してなかったな」
皆を指差しながら紹介していく。
「魔法使いがリーファ・レヴァ。料理してるのがケイト・ラットで、シスターのオリヴィエ・フォリエ。で、俺がリーダーのエスカ・トーガだ。追憶ノ探求者って名前でやってる」
「そうか。そのリーファだが……彼女はいつもあの戦い方なのか」
「そうだよ。一応ファイアボールっぽいのは使えるけど……それも炎を伸ばして切り取ってって感じで、飛ばすというより置く感じの魔法になってるんだよな」
ちゃんと飛ばせるようになったら戦いの幅も広がると思うんだよな。リーファも成長できたって喜びそうだし。
「だからレイスが良ければ稽古をつけてやってほしいんだ。本だけじゃ限界があるというか……やっぱりお手本があるとやりやすいと思うんだよ」
「出来ない者にわざわざ教えるよりも私がその役を担った方が早いとは思わないのか」
思ってもいない返事が返ってきた。えー? そりゃ早いかもしれなけどさ。
「やっぱり自分で出来るようになりたいと思うんじゃないかな。俺もだけど、リーファもさ」
「そうか」
レイスは口元に手を当て、しばし何かを考えると目を閉じた。
「考えておこう」
「おっ、ありがとうな」
「まだ請け負うとは言っていない」
そう言って、なんだかんだやってくれる気がするんだよな。
頼りっきりになるのも悪いし、一生懸命頑張らないとな。うん。
「できたぞー」
「お、美味しそうな匂いがしてるな。行こうぜ、レイス」
「……ああ」
今日のメニューは具沢山のスープだ。お、肉が花みたいな形に纏まってる。たっぷり入った野菜と相まって野原に咲いた花みたいだ。
なるほど、見て美味しい料理か。オリヴィエは……お、じっと見てる。
「わ〜っ、お花だ!」
「綺麗ですね」
「やるなあ、ケイト」
味も完璧だ。少し寒くなってきたから温かいスープがしみるなあ。
レイスは黙々と食べ終えると、鞄から本を取り出して読み始めた。やっぱりあの鞄、収納鞄か。リュックタイプだけじゃなくてあんなコンパクトな収納鞄もあるんだなあ。
何読んでるんだろう。ちらっとタイトルを見る。えっと……魔力変換における損耗量の個人差についての見解? いかにも難しそうな本だな。俺が読んでもちっとも理解できない気がする。
「そうだ、聞き忘れてた。レイスの好きな料理って何だ?」
「栄養が摂れるならば何でもいい」
「うーん、嫌いな食べ物がないのはいいことだけど……」
ケイト、好きな料理を作ってやるんだって張り切ってたもんなあ。にしてもレイスってかなりストイックというかなんというか……魔法以外に興味なさそうな雰囲気だな。
「よしっ、じゃあたくさん美味しい料理を作ってやる! いつかお気に入りの料理が見つかるはずだ!」
ぐっと両手を握ったケイトはやる気満々だ。ま、いくら食べることに興味がないとしても、やっぱり食べるなら美味しい方がいいだろ。ケイトの料理は美味しいから、きっと食べ続ける内に元の生活には戻れなくなるぞ。多分。
……そうだ、レイスにもオリヴィエのことを伝えておかないとな。機会あるかな。




