フレイユール
フレイユールについた頃には夕方になっていた。赤く染まった空を見て、リーファは目を伏せる。彼女がいつか夕焼けを笑顔で見られる日は来るのだろうか?
馬車は街の門で一度足を止める。近づいてきた門番にとオルグが何やら話しているようだ。
「フォワクール中央管理局亜人保護課のオルグ・イーユだ」
「……はい、確認いたしました。どうぞお通りください」
もしかしてオルグってすごい人なのか? 馬車の中身は改められることもなく門を通り、街の中を通り抜けていく。
「ここがフレイユールかあ」
もうピュルテ皇国の中なんだな。窓から街並みを覗けば、たしかにアマルガ王国ともソシエゴ獣王国とも違う造りの建物が並んでいる。なんというか、街並みがカラフルだ。薄い色合いの建物が並ぶ様はなんだか明るい印象を受ける。
街の中を進んでいった馬車は、ある建物の中で止まった。
「さあ、ここが今晩泊まる宿ですよ。部屋は手配してありますから、どうぞ中へ」
獣人達は和気藹々と宿へ入っていく。こぢんまりした宿だけど全員入れるのか? まあ入れるのか。
タタッとこちらへ小走りでやってきたテルヌーラが俺の手をとった。
「またね、エスカくん! リーファちゃんとケイトちゃんも!」
「おう、またいつか機会があれば」
「元気でね、テルヌーラくんっ!」
「またな〜!」
手を振るリーファとケイトに手を振り返した彼は、宿の中へと入っていった。
馬車を決められた場所へ移動させに行っていたオルグが戻ってくる。
「では、これでお別れですね。道中の護衛、ありがとうございました。正式な依頼とはなりませんが、こちらは報酬金です」
「わっ、ありがとうオルグさんっ!」
銀貨五枚を受け取ったリーファが笑顔で礼を言う。相場がどれくらいかは知らないけど……ま、成り行きで決まったし馬車にも乗せてもらったし、報酬がもらえるだけありがたい話だ。
「それでは、私はこれで」
小さく礼をしたオルグは宿とは別の方向へ歩いていく。何かやることでもあるんだろうか? 揺れる薄紫の髪を見送って二人へ向き直った。
「よし、俺達も宿に泊まろう」
「ここってまだ空いてるかなあ? ねねっ、聞いてみる?」
「うーん、流石にあれだけの獣人が入ったら空いてなさそうだけどな。聞くだけ聞いてみるか」
宿に入ると、狭い受付があった。空きがあるか尋ねれば一部屋なら空いていると返ってくる。
「一部屋か〜。流石に三人じゃ厳しいんじゃないか?」
「そうだな、他の宿にするか」
「いえ、こちらのお部屋は四人まで泊まれますのでご安心ください」
へえ、意外と部屋広いのかな? なんか値段も安いし、それならここでいいか。朝食はないみたいだけど。
「それじゃあ泊まります」
「どうぞ、三〇三号室です」
「どうも。行くぞ、二人とも」
鍵を受け取り、階段を登る。狭い廊下を通り抜けたら三〇三号室だ。
鍵を開けると、やはりというべきか部屋は狭かった。窓はなく、最低限通れるだけの隙間を残して二段ベッドが二つ並べられている。四人泊まれるってこういうことか。
「わ、わあ……こういう宿は初めてだよ」
「安いだけあるな〜、寝るためだけの場所って感じだ」
「そうだな……まあ休めればそれでいいか」
荷物を置いてベッドに登ってみる。うーん、硬い。値段相応といえば値段相応だ。四人で三十ピアというならこんなものだろう。
「パンだけ食べて寝るか」
「そうだな、ここじゃ料理もできないし」
「明日はダンジョン攻略だねっ」
それぞれベッドに入っていく。リーファとケイトは上のベッドを使うらしい。
「こういうベッド初めてでワクワクするなあ」
「オイラの家、二段ベッドだけど上は姉ちゃんのベッドだからずっと下だったんだ。初めて上で寝るよ」
ひそひそと会話してはくふくふと笑う二人がかわいい。たまにはこういう宿も悪くないかもしれない。なんだか……そう、秘密基地染みてて悪くない。
翌朝。俺達は早起きしてパンをかじり、宿を出た。硬いとはいえベッドで眠れたから中々に目覚めはいい方だ。
「さて、今日はダンジョン攻略だー!」
「元気いっぱいだな」
「ぐっすり眠れたからね! ふっふっふー」
「オイラも元気いっぱいだぞ!」
胸を張る二人はかわいい。その頭を両方とも撫でて、ダンジョンへ続く道を歩いた。
ふと向こうからやってくる人影に目がいく。ん? あれはオルグか? 向こうもこちらに気づいたようで、共に足を止めた。その目はリーファを見ている。
「おや、お早いですね。これからダンジョン攻略ですか?」
「うんっ、そうなの! オルグさんはどこに行くの?」
「獣人の皆さんを迎えに行くところですよ」
「別のホテルに泊まったのか?」
オルグは「少々こちらでの仕事がありまして」と肩をすくめた。忙しい人なんだな。彼は胸に手を当てると小さく礼をする。
「では、失礼します。ダンジョン攻略が上手くいくことを願っておりますよ」
「どうも、オルグさん」
「またね〜!」
「今度会ったらオイラの料理をご馳走するぜ〜!」
「ふふ、助けていただいた手前申し訳ないので遠慮いたします。ではまた」
にこやかに断ったオルグは足早に、しかし優雅に去っていく。イヤな奴だと思ってたけど、意外とそうでもないのか……? まあ皇都の中央管理局とかいう所にいるあたり、お偉いさんっぽいしな。
「まあいいか。さ、急ぐぞ。ぱぱっと攻略だ!」
「「おーっ!」」




