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獣人達の理想郷

 バードゥンの群れを処理した後、いなくなっていた御者は馬と一緒に戻ってきた。

 無事を喜ぶ彼を前に、獣人達も男の無事を喜んでいた。どうやら関係は良好らしいな。


「彼らのおかげで無事だったんです」

「おや、見ない顔ですね。冒険者の方でしょうか?」

「どうも。『追憶ノ探求者』のリーダー、エスカだ」

「リーファですっ!」

「オイラはケイトだ!」


 何気にパーティ名つきで自己紹介するのは初めてだ。なんか少しくすぐったいな。

 薄紫の優男はにこりと笑って優雅に礼をする。


「これはこれはご丁寧に。私は皇都フォワクールより参りました、フォワクール中央管理局亜人保護課のオルグ・イーユと申します」


 少しタレ目の深い紫の瞳が細められ、俺達を舐める。なんか……ヤな感じがするのは俺だけか? ちらりと二人を見るが、特に変わった様子はない。俺が気にしすぎなだけ?


「どうしてみんなを置いて行っちゃったの?」


 リーファの質問にオルグはやれやれといった風に肩をすくめた。


「見ての通り、私は戦いに向きません。ここは一つ、獣人の皆様のお力を借りようと思いましてね」


 彼は馬車の獣人達へと目を向ける。


「その間、私は安全な場所で待機していたのです。私には皆様をフォワクールまでお連れする役目がありますから」

「ほらな! やっぱりオルグさんはただ逃げただけじゃないんだ」

「言った通りだっただろ?」


 獣人達が揃って彼を持ち上げるが……でも、それって結局逃げてるだけじゃないか? 結果、獣人達はなす術なく震えていたわけで。

 もし俺達が来なければどうなってたんだろう。


「ごめん、オルグさん。俺達に勇気がないばっかりに……」


 ウサギの獣人が耳をぺたんと伏せて俯く。オルグは薄っすらと微笑んで眉を下げた。


「そう卑下なさらず。人は努力すれば変われるのです。それは貴方達も同じですよ」

「オルグさん……!」

「フォワクールにて、貴方がたが生まれ変われることを願っております」


 なんとも言い難い気味の悪さを感じるけど……でも本人達が良いならいいか。俺達がどうこう言うことじゃないよな、多分。


「そういえばさ、オマエらって皇都に行くんだろ? フレイユールには行くのか?」

「ええ、立ち寄りますよ」

「ホントか!? なあなあエスカ、一緒に連れていってもらうのはどうだ?」


 名案とばかりに目を輝かせるケイトが見上げてくる。うーん、このまま放っておいてまた襲われることになっても嫌だしな。っていうか冒険者くらい雇っておけよ……ああ、獣人に期待してたんだったか。

 どうしようか悩んでいると、オルグが先に口を開いた。


「おや、フレイユールに向かう途中でしたか。ぜひ一緒にいらしてください。馬車は……詰めれば三人くらい乗れるでしょう」

「えっ、そんな。結構ギチギチになるだろ? 悪いよ」


 ケイトは膝にでも乗せて実質二人分にするとしても、どう見たって今の状態で満席だもんよ。

 でも獣人達は笑顔で席を詰めた。うわあぎっちぎち。


「貴方達さえ良ければ乗ってください。助けてくれたお礼です」

「ささ、どうぞ乗ってくれ!」

「え、ええー……? 本当にいいのか?」

「勿論!」


 うーん、彼らがそう言うなら乗らせてもらうか。


「ケイト、俺かリーファの膝の上でいいか? 三人分の席を空けさせるのは流石にな」

「おう、いいぞ!」

「獣人さん達、ありがとう! ケイトちゃん、アタシの膝の上においで〜!」


 リーファはノリノリだ。馬車に乗り込むと、膝をぽんぽんと叩いた。ケイトをひょいっと持ち上げてリーファの上に乗せてやってから俺も席に座った。


「では出発しますよ」


 ガラガラと音がして馬車が進み始める。そういえば馬車に乗ったのって初めてだな。乗り心地は良いとは言えないけど……ずっと乗ってたら尻が痛くなりそう。

 でも好意で乗せてもらったしな。ワガママは無しだ。


「冒険者ってすごいんだねえ。あっという間に魔物がいなくなっちゃったよお」


 おっとりした白ヤギの獣人が笑顔で手を叩く……子供みたいだけど、両端を豚の獣人とゾウの獣人に挟まれていてすっごく肩身狭そうだ。大丈夫か?


「えへへ、そうかな? でもでも、エスカくんの弓すごかったよね! しゅぱぱーんって!」

「うんうん、すごかったよお。あんなに早く矢を放てるものなんだねえ」

「……ま、まあ、これでも弓には慣れてるからな」


 なんかそう正面から褒められると照れるな。むずむずする腕を組んで、すっと目を逸らした。


「あ、エスカの耳赤くなってる」

「……マジで?」


 思わず耳を押さえた。うわ、恥ずかし。

 ケイトもリーファもニマニマしてこっちを見ている。なんだよ、照れてちゃ悪いかよ。

 ムッとすると、二人ともくすくすと笑ってごめんねと謝った。まったく。


「みんな仲がいいんだねえ」

「うんっ! 三人で全部のダンジョンを攻略するんだ〜! ねっ、ケイトちゃんっ」

「おう! オイラ達は出会ったばかりだけど、大切な仲間なんだぞ〜」


 リーファがケイトの頭を撫でながら笑う。うーん、なんともほっこりする光景だ。


「二人とも自慢の仲間だよ。二人が前線で頑張ってくれるから、俺も後ろから支援できるんだ」

「獣人にエルフ、イノセンスのパーティかあ。すごいメンバーだねえ」


 言われてみれば俺達みんな種族が違うんだな。ヤギの獣人はほう……とため息をついた。


「羨ましいなあ。ぼくが出会ったイノセンスは、みんなヒドいヒト達だったんだよお」


 ずっと目を閉じていた彼がやっと目を開けたと思ったら、随分と遠くを見ていた。一体何があったんだよ……。ケイトは腕を組んでうんうんと頷いている。


「分かる、分かるぞ。オイラも酷い目にあったからな」

「ああ……そういえばイノセンスに手を出してクビになったんだっけ?」

「クビっていうか、自主退職というか……店のみんなに迷惑かけたくなかったからな。でも、あのイノセンスは本当にひどかった! なんだこの味はって言って、皿をひっくり返したんだ!」


 そりゃ酷いな。あの店……ペルシュワールだっけ? あそこの料理は美味かったし、多分ただ口に合わなかっただけだろうに。

 ヤギの獣人は「キミも大変だったんだねえ」と言って目を閉じた。


「でも、リーファはすごくいいイノセンスだぞ。すっごく明るくて、優しくて、頑張りやさんだ」

「いい仲間に出会えてよかったねえ。ぼくらもフォワクールに行けばそんなイノセンスと出会えるかなあ」


 天井を見上げて想いを馳せる彼に首を傾げる。そういえばこいつらはなんでピュルテ皇国に向かってるんだ? あのオルグって男はフォワクール……中央管理局? の『亜人保護課』とか言ってたけど。


「ぼくたち、フォワクールで保護してもらうんだあ。リエロス教会本拠地のピュルテ皇国はイノセンスと亜人の平等を掲げてるから……そこに行けば、ぼくもいろんなことを学べるし、住む場所にも困らない! もう獣王国のみんなに迷惑をかけることもないんだあ」

「ああ、そういえばそんな話あったな。ここにいる全員がその保護を受けるために乗ってるのか」

「そうだよお」


 胸の前で手を組んで天井を見上げる彼はどこかほわほわとしている。よく見てみれば、ウサギやヤギ、ヒツジなどなど、あまり戦うのに向いてなさそうな見た目の獣人が多いな。

 でもネズミのケイトだってあんなに戦えてるから、種族というより個人の特性の問題な気がする。


「フレイユールでお別れなんだよねえ。それまで一緒にお話しようよお。冒険の話、たくさん聞かせてほしいなあ」

「いいよ〜! 何の話にしようかなあ? やっぱりダンジョンの話かな!」

「あっ、オイラもオイラも! オイラが入る前の二人の話、聞きたい!」


 それから暫くの間、ヤギの獣人と一緒に話をした。

 彼はテルヌーラというらしい。優しい子に育ちますようにって名付けられたそうだ。


「お父さんとお母さんはぼくが小さい頃にいなくなっちゃってねえ。旅に出てるって聞いたけど、帰ってこないんだあ。僕が十歳になる前には帰ってくるって言ってたのに。ずっと街のみんなに助けてもらってたんだけど……やっぱり、そのままじゃダメだと思ったんだあ」


 きっとお母さん達の願いは叶ったんだろう。彼は優しく育ったみたいだからな。

 にしても、聞けばまだ十歳らしいのに立派なものだ。俺も記憶上では十歳みたいなものだし……負けていられないな。


「そうか、それでこの馬車に乗ったわけだ」

「うん、そう! オルグさんは優しい人だよお。ぼく、フォワクールに行ったら一生懸命がんばって勉強するんだあ。そしていっぱい知識をつけて、街のみんなに恩返しするのが目標!」

「頑張れよ、テルヌーラ。きっとやれるさ」


 グッと拳を握ったテルヌーラはカッコよく見えた。相変わらず潰されてるけど。

 ガラガラと車輪が回る。穏やかに時が流れていった。

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